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AIが船の着岸をマスター!大阪公立大学が開発した自動操縦システムの可能性とは?

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熟練船長の技術をAIが学習!安全な自動着岸を実現

2025年1月29日、大阪公立大学大学院工学研究科の檜垣岳史助教と橋本博公教授の研究グループは、熟練船長の運転技術をAIに学習させることで、船の安全な自動着岸をサポートするシステムを開発しました。この研究は、国内の港湾での船舶運航の安全性を向上させることを目的としており、特に大型船舶の着岸時に発生しやすい事故やオペレーションの難しさを解決することが期待されています。

従来、船の自動運転技術は進歩してきましたが、着岸時の制御は依然として難しい課題でした。特に、風や波、潮流などの影響によって船体の挙動が変化するため、熟練船長の経験と判断力に依存する部分が大きかったのです。今回のシステムは、実際の運航データをAIに模倣学習させることで、安全な着岸が可能な運航ルートを示し、適切な操船支援を行うものです。

開発の壁!船舶ならではの課題とは?

このAIシステムの開発にあたっては、以下のような技術的な課題がありました。

1. 環境変化への対応

船舶は、風、波、潮流といった環境要因の影響を強く受けるため、同じ港に入る場合でも状況によって最適な運航ルートが異なります。例えば、強風が吹いている場合、船は自然に流されるため、通常のルートでは着岸できません。そのため、AIが学習する際には、さまざまな気象条件や潮流パターンを考慮する必要がありました。

2. 慣性の影響と制御の難しさ

自動車のように即座にブレーキをかけられるわけではなく、船は慣性によって長い距離を滑るように進みます。エンジンを止めてもすぐに停止せず、推進力のコントロールが非常に難しいため、AIが適切な減速タイミングを予測できるようにする必要がありました。

3. 着岸の精度と安全性の確保

着岸時の精度は非常に重要です。数メートルのズレが、桟橋や岸壁への衝突事故を引き起こす可能性があるため、AIには精密な操船が求められます。そのため、学習データには過去の成功事例だけでなく、ヒューマンエラーによる失敗事例も組み込まれ、AIが適切な判断を行えるように調整されました。

自動車の自動運転とは何が違う?

船舶の自動操縦と自動車の自動運転は一見似ていますが、以下のような大きな違いがあります。

1. 交通環境の違い

自動車は道路上を走行し、信号や車線といったルールに基づいて運転します。しかし、船舶には決められた航路はあるものの、固定されたレーンのような概念はなく、周囲の船舶や海洋条件に応じて柔軟に進路を変更する必要があります。そのため、AIが環境認識を行う際には、リアルタイムでの判断能力が特に重要になります。

2. ブレーキの有無

自動車はブレーキを踏めば短時間で停止できますが、船舶にはブレーキが存在しません。停止するためにはエンジンの出力を下げ、プロペラの回転を調整しながら、潮流や風を利用して減速しなければなりません。そのため、AIには「いつエンジンを止め、どの角度で進入するか」といった複雑な判断が求められます。

3. 障害物の検知と対応

自動車の場合、カメラやLiDAR(レーザーレーダー)を使用して障害物を検知し、即座に回避動作を行います。しかし、船舶は波や光の反射の影響を受けるため、センサーによる誤検知が発生しやすく、AIの判断にはより高度なアルゴリズムが必要となります。

AIが航海を変える!今後の展望

今回の研究により、船舶の自動着岸技術は大きく前進しました。今後は以下の点がさらなる発展のポイントとなるでしょう。

1. データの蓄積と学習の強化

現在のAIモデルは、特定の港や船舶のデータに基づいて学習していますが、より汎用性を持たせるためには、多様なデータを追加学習させる必要があります。特に、異なる気象条件や船舶の種類に対応できるようなシステムの開発が求められます。

2. 他の港湾への応用

今回の研究は新門司港で行われましたが、他の国内主要港でも同様の技術を適用するための実証実験が必要です。港ごとに潮の流れや障害物の配置が異なるため、それぞれの環境に適したAIモデルの開発が必要になります。

3. 完全自動着岸の実現

現在のシステムは、あくまで操船支援が主な目的ですが、将来的には完全な自動着岸を実現することが目標となります。そのためには、AIがすべての操船パターンを学習し、リアルタイムで最適な判断を下せるようになることが必要です。

まとめ:AIが船の着岸をマスター!大阪公立大学が開発した自動操縦システムの可能性とは?

  • 大阪公立大学がAIを活用した船の着岸支援システムを開発。
  • 船舶の着岸は、慣性・風・波の影響を受けるため、AI学習に課題があった。
  • 自動車とは異なり、固定のレーンがなく、ブレーキが存在しないため制御が難しい。
  • 今後はデータの拡充や他の港湾への適用を進め、完全自動着岸を目指す。

参考文献

 

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