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なぜ「工事発注までで8割決まる」のか? 設計段階の本質をパレートの法則から紐解く
- 技術者研修
公共交通やインフラの技術導入において、「工事が始まる頃にはもうほとんどのことが決まっている」という話を耳にしたことはないでしょうか。実際、経験を積んだ技術者ほど、設計段階での意思決定がプロジェクト全体に与える影響の大きさを実感しているはずです。本記事では、この「工事発注までで8割決まる」という現象を、パレートの法則になぞらえながら、技術者がどう関与すべきかを分解・整理していきます。
「パレートの法則」とは何か?
パレートの法則(Pareto Principle)とは、「全体の成果の80%は、原因の20%によって生み出される」という経験則です。経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱したこの法則は、ビジネス、品質管理、時間管理など幅広い分野で応用されており、「重要な少数」が全体を左右するという考え方です。
技術導入の世界では、こう言い換えることができます:
「プロジェクトの成功の80%は、最初の20%の工程(構想・設計)で決まる」
つまり、施工や運用フェーズでどれだけ頑張っても、初期段階で誤った判断をしていれば、軌道修正は難しく、多くのコストと時間を要することになります。
工程別に見た“意思決定の影響度”
では、技術導入の各フェーズにおいて、どの段階で何がどこまで決まってしまうのか。以下に具体的に整理します。
フェーズ | 主な活動 | プロジェクト成果への影響度 |
---|---|---|
1. 基本構想 | 課題整理、代替案比較、ベンダー調査 | 30% |
2. 詳細設計・仕様策定 | 詳細な性能要件設定、調達仕様書の作成 | 50% |
3. 工事発注・施工 | 調達・工事管理・試験・引渡し | 20% |
つまり、“成果の80%は工事発注前に決まっている”と言っても、決して大袈裟ではないのです。むしろ、設計段階でどれだけ良い判断を下せたかが、全体の成否を決めるといっても過言ではありません。
設計段階で実質的に決まるもの
設計や仕様策定の段階で決まってしまう具体的な項目を以下に示します。
- 採用する技術の種類:例えば、CBTCの通信方式やセンサの形式
- ベンダーの選定可能性:仕様が実質的に特定メーカーに絞られるケースが多い
- 設置条件と施工制約:構内スペース、電源容量、既存システムとの整合性
- 保守・運用コスト:仕様によって長期的な維持費が大きく変わる
- サイバーセキュリティ要件:この段階で入っていないと後からの対応が困難
これらは一度決まると変更が難しく、発注段階ではもう修正の余地がない、または非常にコストがかかる状態になっています。
なぜ「発注以降」では変えられないのか
理由は大きく以下の3点に集約されます。
- 契約仕様書の拘束力:発注書に記載された仕様に沿って履行されるため、変更には契約変更と再調整が必要になる
- 現場条件との整合性:設置環境に応じて一品ごとのカスタム設計となる場合が多く、後からの機器変更が困難
- 予算と納期:設計変更は予算超過や納期遅延に直結するため、実施が現実的でなくなる
ベンダーに主導権を握らせない設計プロセス
事業者側が受け身になってしまうと、結果として「ベンダーが書いた仕様書」をそのまま採用することになりがちです。これでは、公平な比較もできず、コストや技術面での妥協を強いられる結果になりかねません。
そうならないために、事業者側は以下のような準備が必要です:
- 複数社から提案を受けて比較検討する
- 既存事例やトラブル事例を把握する
- 自社内でPoC(概念実証)や机上シミュレーションを行う
- 技術的観点で仕様書を検証し、意図的な囲い込みがないか確認する
技術者が設計段階で取るべき3つの行動
- 主体的な情報収集と提案活動
国内外の製品や事例を能動的に調べ、設計段階での技術選定に影響を与える。展示会や専門紙、業界レポートを活用する。 - 複数案による比較評価(Multi-Option Evaluation)
設計者任せにせず、仕様書作成時に2〜3案を並列評価。MTBF、消費電力、施工性、費用対効果などで定量比較する。 - 初期PoCや実験導入の仕組みづくり
いきなり全線導入ではなく、限定的な範囲で実験的に導入し、現場フィードバックを基に仕様を最適化する。
まとめ:技術導入は「設計で決まる」
施工が始まってからでは変えられない。運用に入ってからではもっと遅い。だからこそ、「設計段階=最も重要な意思決定の場」であるという認識が必要です。
特に公共交通のように、安全・信頼性・コスト効率が強く求められる業界においては、設計時点での技術マネジメントこそがプロジェクトの成否を左右する本丸と言えるでしょう。
要点まとめ
- パレートの法則により、成果の8割は設計段階で決まる
- 採用技術、ベンダー、費用、施工条件などは発注前にほぼ確定する
- 事業者側が仕様策定に積極的に関与しなければ、主導権を失う
- 設計段階での情報収集、複数案評価、PoCがカギを握る
- 技術導入を成功させるには、「工事ではなく設計に全力を注ぐ」べき
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