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アクティブエアサスペンションとは|自動車用語を初心者にも分かりやすく解説

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自動車の乗り心地と走行性能を飛躍的に向上させる技術として注目されている「アクティブエアサスペンション」。その名前を聞いたことはあっても、具体的にどのような仕組みで、どのようなメリットがあるのかご存知でしょうか?この技術は、高級車や高性能車を中心に採用が進んでおり、自動車業界に身を置く方々にとっては、その理解が業務に直結することも少なくありません。また、自動車に興味をお持ちの方にとっても、今後の自動車技術の方向性を知る上で非常に重要な要素となります。

この記事では、アクティブエアサスペンションの基本的な概念から、その複雑な仕組み、多彩な機能、そして実際に導入されている具体的な車種やメーカー事例まで、自動車技術の専門家が分かりやすく徹底解説いたします。まるで辞書のように、必要な情報が網羅されていることを目指し、初心者の方でも理解できるよう、難しい内容は細分化して解説を進めますので、ぜひ最後までご覧ください。

アクティブエアサスペンションとは?

アクティブエアサスペンションとは、車体の高さを自動的に調整し、路面状況や走行状況に応じて最適な乗り心地と走行安定性を実現する、先進的なサスペンションシステムのことです。従来のサスペンションが主にバネとダンパーの組み合わせで構成されているのに対し、エアサスペンションは金属バネの代わりに空気の力を利用した「エアスプリング(エアベローズ)」を使用します。さらに「アクティブ」という言葉が示す通り、このシステムは常に車両の状態を監視し、リアルタイムでサスペンションの設定を変化させることができるのが最大の特徴です。

その主な役割は、乗員の快適性を最大限に高めるとともに、車両の操縦安定性を向上させ、安全な走行をサポートすることにあります。例えば、高速走行時には車高を下げて空気抵抗を減らし燃費を改善したり、コーナリング時には車体の傾き(ロール)を抑えたり、悪路走行時には車高を上げて路面との干渉を防いだりといったことが可能になります。このように、状況に応じて「しなやかな乗り心地」と「安定した走行性能」を両立できるのが、アクティブエアサスペンションの真髄と言えるでしょう。

従来のサスペンションとの違い

従来の一般的なサスペンションは、金属製のコイルスプリングとショックアブソーバー(ダンパー)を組み合わせています。コイルスプリングは路面からの衝撃を吸収するバネの役割を果たし、ショックアブソーバーはその振動を減衰させる役割を担います。これらの部品は、一度設計されると基本的にその特性は固定され、走行中に変化することはありません。

一方、アクティブエアサスペンションは、金属バネの代わりに空気の入った「エアベローズ」を使用します。このエアベローズ内の空気量を電気的に制御することで、バネの硬さ(ばね定数)を可変させることが可能です。これにより、路面状況や車両の速度、積載量などに応じて、瞬時に車高や乗り心地を最適化できます。さらに、単に車高を調整するだけでなく、電子制御ダンパーと組み合わせることで、減衰力も細かく調整できるため、より高次元な乗り心地と走行性能を実現します。

「アクティブ」の意味するもの

「アクティブ」という言葉は、システムが受動的に路面からの入力に対応するだけでなく、能動的に車両の状態を制御するという意味合いを持っています。具体的には、車速センサー、Gセンサー(加速度センサー)、車高センサー、ステアリングアングルセンサーなど、様々なセンサーからの情報に基づいて、ECU(電子制御ユニット)が最適なサスペンション設定を瞬時に判断し、エアベローズ内の空気量や電子制御ダンパーの減衰力を自動的に調整します。これにより、車両が常に理想的な姿勢を保ち、乗員は快適な乗り心地を享受できるだけでなく、ドライバーは高い操縦安定性を体感できるのです。

例えば、急ブレーキ時にはノーズダイブ(前のめりになる現象)を抑制するためにフロントの車高を下げ、リアの車高を上げるといった制御や、高速コーナリング時に車体のロールを抑制する制御などが、この「アクティブ」な機能によって実現されます。

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アクティブエアサスペンションの複雑な仕組み

アクティブエアサスペンションは、単に空気で車高を調整するだけでなく、複数のコンポーネントが連携して動作する複雑なシステムです。その仕組みを理解することで、なぜこの技術が乗り心地と走行性能を向上させるのか、その理由がより明確になります。主要な構成部品とそれらの連携について詳しく見ていきましょう。

主要な構成部品

アクティブエアサスペンションシステムは、主に以下の部品で構成されています。それぞれの部品が重要な役割を担っており、これらが連携することで、最適なサスペンション制御が実現されます。

エアベローズ(エアスプリング)

従来の金属製コイルスプリングの代わりに、ゴム製の袋状の部品に空気を封入したものです。このエアベローズ内に供給される空気の量を調整することで、車高を変化させたり、バネの硬さ(ばね定数)を調整したりします。空気の量が増えれば車高が上がり、バネが硬くなり、空気の量が減れば車高が下がり、バネが柔らかくなります。これにより、積載量に応じて車高を一定に保ったり、走行状況に応じて乗り心地を調整したりすることが可能になります。

コンプレッサー

エアベローズに空気を供給するための空気圧縮機です。電動モーターで駆動され、大気中の空気を吸い込んで圧縮し、必要な圧力を生成します。このコンプレッサーが動作することで、システム内の空気圧を維持し、エアベローズへの空気の供給・排出を可能にしています。コンプレッサーの性能は、車高調整の速度やシステムの応答性に大きく影響します。

エアタンク(リザーバータンク)

コンプレッサーで圧縮された空気を一時的に貯蔵しておくためのタンクです。これにより、システムが必要な時に迅速にエアベローズへ空気を供給することができ、車高調整のレスポンスを向上させます。また、コンプレッサーの頻繁な動作を抑制し、耐久性の向上にも寄与します。特に、短時間での複数回にわたる車高調整が必要な場合や、急な姿勢変化に対応する際に重要な役割を果たします。

エアバルブブロック

エアタンクから各エアベローズへの空気の供給・排出を制御する電磁弁の集合体です。ECUからの信号に基づいて、個々のエアベローズに必要な空気量を正確に調整します。これにより、左右の車高を個別に調整したり、前後の車高バランスを制御したりすることが可能になります。非常に精密な制御が要求されるため、高精度な電磁弁が用いられます。

ECU(電子制御ユニット)

アクティブエアサスペンションシステムの「頭脳」とも言える部分です。様々なセンサーからの情報(車高、車速、加速度、ステアリングアングル、ブレーキ圧など)を常時監視し、これらの情報に基づいて最適な車高や減衰力を算出し、コンプレッサーやエアバルブブロック、電子制御ダンパーに指示を出します。高度なアルゴリズムが組み込まれており、車両の安定性、乗り心地、走行性能のバランスを最適な状態に保ちます。

電子制御ダンパー(オプション)

エアサスペンションと組み合わせて使用されることが多く、減衰力(振動を吸収する力)を電気的に可変できるダンパーです。ECUからの信号に応じて、内部のバルブ開度を調整したり、磁性流体の粘度を変化させたりすることで、減衰力を瞬時に変化させます。これにより、路面からの小さな凹凸は柔らかく吸収し、大きなうねりや高速走行時の安定性が必要な場面では硬くするなど、よりきめ細やかな乗り心地と走行性能の調整が可能になります。

制御の仕組みと連携

これらの部品が連携して動作することで、アクティブエアサスペンションは様々な制御を実現します。その基本的な流れは以下のようになります。

  1. センサーからの情報収集: 車高センサーが各ホイールの車高を検知し、車速センサーが車両の速度を計測、Gセンサーが車両の加減速や旋回時のGを検知するなど、多数のセンサーがリアルタイムで車両の状態をECUに送信します。
  2. ECUによる演算と判断: ECUは、これらのセンサー情報と、あらかじめプログラミングされた走行モード(コンフォート、スポーツ、オフロードなど)やドライバーの操作(車高調整スイッチなど)を総合的に判断し、現在の状況に最適な車高、バネの硬さ、減衰力を算出します。
  3. アクチュエーターへの指示: ECUは、算出した結果に基づいて、コンプレッサーのON/OFF、エアバルブブロックの開閉、電子制御ダンパーの減衰力調整といった指示を各アクチュエーターに送ります。
  4. フィードバック制御: 指示が実行された後も、センサーは継続的に車両の状態を監視し、その変化をECUにフィードバックします。ECUはこのフィードバック情報をもとに、さらに微調整を行うことで、常に最適な状態を維持しようとします。このフィードバックループによって、システムは非常に高い精度と応答性を実現しています。

例えば、高速道路での走行時には、空気抵抗を減らすために車高を自動的に下げ、同時に安定性を高めるためにダンパーを硬めに設定するといった制御が行われます。また、オフロード走行時には、路面とのクリアランスを確保するために車高を上げ、同時にダンパーを柔らかくして路面追従性を高めるといった制御も可能です。このように、アクティブエアサスペンションは、様々な走行シーンにおいて、ドライバーや乗員が意識することなく、車両が常に最適な状態を保つよう働く、非常に高度なシステムなのです。

アクティブエアサスペンションの仕組み

アクティブエアサスペンションのメリットとデメリット

アクティブエアサスペンションは、多くの魅力的なメリットを提供する一方で、いくつかのデメリットも存在します。導入を検討する際や、搭載車両を選ぶ際には、これらの両面を理解しておくことが重要です。

アクティブエアサスペンションの主なメリット

アクティブエアサスペンションがもたらす最大の恩恵は、従来のサスペンションでは達成が難しかった、乗り心地と走行性能の高次元での両立です。具体的には、以下の点が挙げられます。

比類ない快適な乗り心地

路面からの衝撃を空気バネで吸収するため、金属バネに比べてはるかに滑らかでしなやかな乗り心地を実現します。特に、細かい路面の凹凸や段差を通過する際のショックが軽減され、長距離移動でも疲れにくいという特徴があります。また、積載量や乗員数に応じて車高を自動調整するため、常に最適な姿勢を保ち、車体が沈み込むことによる底付き感などもありません。この「ふわふわ」とした独特の乗り味は、一度経験すると病みつきになる方も多いでしょう。

優れた走行安定性と操縦性

走行状況に応じてバネの硬さや減衰力をリアルタイムで調整できるため、様々なシーンで車両の安定性を向上させます。高速走行時には車高を下げて重心を低くし、空気抵抗を減少させるとともに、直進安定性を高めます。コーナリング時には、車体の傾き(ロール)を抑制し、タイヤの接地性を向上させることで、より安全で安定したコーナリングを可能にします。これにより、ドライバーは安心して車両を操ることができ、運転の楽しさも向上します。スポーツ走行モードを選択すれば、さらに引き締まったハンドリングと路面追従性を体感できる車種もあります。

車高調整機能による利便性の向上

手動または自動で車高を調整できるため、様々なシーンで利便性が向上します。例えば、悪路や未舗装路を走行する際には車高を上げて障害物との干渉を防ぎ、乗り降りの際には車高を下げて乗降性を向上させることができます。また、立体駐車場など高さ制限のある場所では車高を下げて入庫を可能にしたり、荷物の積み下ろしの際にリアの車高を下げることで作業を楽にしたりといった活用も可能です。これにより、車両の汎用性が大きく広がります。

車両姿勢の自動補正

乗員数や積載重量が変化しても、車高センサーが常に車両の傾きを検知し、自動的に車高を補正します。これにより、常に理想的な車両姿勢を維持し、ヘッドライトの光軸が狂うのを防いだり、車両の安定性を保ったりします。特に、多人数での乗車や重い荷物を積んだ際に、車両後部が沈み込むのを防ぎ、安全な走行をサポートします。

アクティブエアサスペンションの主なデメリット

高性能なシステムであるアクティブエアサスペンションですが、その複雑さゆえのデメリットも存在します。

高額な初期費用と維持費用

アクティブエアサスペンションは、従来のコイルスプリングサスペンションと比較して、非常に高価です。エアベローズ、コンプレッサー、エアタンク、エアバルブブロック、ECU、各種センサーなど、多くの専門部品で構成されており、製造コストが高いことがその理由です。そのため、新車価格が高くなる傾向があります。また、故障した場合の修理費用も高額になることが予想されます。特に、エア漏れによるコンプレッサーの過負荷や、エアベローズの経年劣化による交換は、まとまった費用が必要となる場合があります。

構造の複雑さと整備性

多くの部品が連携して動作するため、構造が複雑です。これにより、整備や点検には専門的な知識と技術が必要となります。DIYでの修理は非常に困難であり、故障時にはディーラーや専門の整備工場に依頼する必要があります。また、部品点数が多いため、故障リスクが従来のサスペンションよりも高くなる可能性もゼロではありません。

経年劣化による部品交換の可能性

エアベローズはゴム製のため、経年劣化によりひび割れやエア漏れを起こす可能性があります。また、コンプレッサーやエアバルブブロックなども消耗品であり、長年の使用によって性能が低下したり故障したりすることがあります。これらの部品交換には高額な費用がかかるため、中古車で購入する際には、エアサスペンションの状態をしっかりと確認することが重要です。

寒冷地での性能低下や凍結リスク

極端な低温環境下では、コンプレッサーの動作が不安定になったり、エアベローズ内の湿気が凍結して不具合を起こしたりする可能性があります。厳寒地での使用が多い場合は、特に注意が必要です。ただし、近年のシステムは改良が進んでおり、このようなリスクは低減されつつあります。

アクティブエアサスペンションの種類と制御技術

アクティブエアサスペンションと一口に言っても、その制御の方式や目的によっていくつかの種類が存在します。また、それらを支える高度な制御技術によって、様々な走行シーンでの最適な車両挙動が実現されています。ここでは、主な種類と制御技術について詳しく見ていきましょう。

主要な種類

アクティブエアサスペンションは、その機能の範囲によって、大きく分けていくつかのレベルに分類できます。

レベルコントロール機能

最も基本的な機能で、車両の積載量や乗員数に関わらず、常に一定の車高を維持する機能です。重い荷物を積んだ際や、乗員が増えた際に車両が沈み込むのを防ぎ、ヘッドライトの光軸を適切に保ち、安定した走行をサポートします。これは、エアサスペンションが持つ「自動車高調整」の最も分かりやすい例と言えるでしょう。

車高調整機能

ドライバーが任意のタイミングで、車両の車高を高くしたり低くしたりできる機能です。例えば、悪路走行時には車高を上げて最低地上高を確保し、高速走行時には車高を下げて空気抵抗を低減するといった使い方ができます。これにより、様々な走行シーンや目的に応じて車両の特性を変化させることが可能になります。多くの高級SUVやセダンに搭載されています。

アダプティブダンピングシステムとの連携

アクティブエアサスペンションの真骨頂とも言えるのが、電子制御ダンパーと連携したシステムです。この組み合わせにより、単に車高を調整するだけでなく、路面状況や走行状況に応じてダンパーの減衰力(路面からの衝撃を吸収する力)をリアルタイムで変化させることが可能になります。これにより、小さな凹凸は柔らかく吸収し、大きなうねりや高速走行時の安定性が必要な場面では硬くするなど、よりきめ細やかな乗り心地と走行性能の調整が実現されます。多くのプレミアムカーに採用されている最先端のシステムです。

アクティブロールスタビライザーとの統合

さらに進んだシステムでは、アクティブエアサスペンションとアクティブロールスタビライザー(横揺れ抑制装置)が統合されます。アクティブロールスタビライザーは、コーナリング時に車体の傾き(ロール)を積極的に抑制するシステムで、電動モーターなどでスタビライザーの硬さを可変させます。エアサスペンションによる車高・減衰力制御と組み合わせることで、コーナリング時の車体のロールをほぼゼロに抑え、スポーツカーのようなフラットな姿勢での走行を可能にします。これにより、快適性とスポーツ走行性能を極めて高い次元で両立させることができます。ポルシェのPDCC(Porsche Dynamic Chassis Control)などがその代表例です。

高度な制御技術

アクティブエアサスペンションの性能を最大限に引き出すためには、高度な制御技術が不可欠です。これらは、車両に搭載された多数のセンサーからの情報を瞬時に解析し、最適な制御指令を生成します。

センサー情報の統合と解析

車高センサー、車速センサー、Gセンサー、ステアリングアングルセンサー、ヨーレートセンサー、ブレーキ圧センサーなど、多岐にわたるセンサーから得られる膨大な情報をECUがリアルタイムで統合・解析します。これらの情報に基づいて、車両の現在の挙動(例えば、加速中、減速中、旋回中、路面の凹凸、積載状態など)を正確に把握します。この情報統合が、精緻な制御の基礎となります。

予測制御と反応制御

アクティブエアサスペンションの制御には、大きく分けて「反応制御」と「予測制御」の二つの側面があります。

  • 反応制御(フィードバック制御): 実際に発生した車両の動き(ロール、ピッチ、バウンドなど)をセンサーが検知し、その情報に基づいてサスペンションを制御する方法です。路面の凹凸を乗り越えた後の揺れを素早く収束させたり、急ブレーキ時のノーズダイブを抑制したりする際に有効です。
  • 予測制御(フィードフォワード制御): ナビゲーションシステムからの地図情報、カメラからの前方路面情報、ドライバーのアクセル・ブレーキ・ステアリング操作などから、今後予想される車両の動きを予測し、事前にサスペンションを制御する方法です。例えば、前方のカーブや段差を認識し、進入する前にサスペンションの設定を最適な状態に変化させることで、よりスムーズで安定した走行を実現します。メルセデス・ベンツの「マジックボディコントロール」などがその代表例で、路面の凹凸をカメラで読み取り、事前にサスペンションを調整する画期的な技術です。

走行モードに応じた最適化

多くの車種では、ドライバーが選択できる複数の走行モード(コンフォート、スポーツ、エコ、オフロードなど)が用意されており、それぞれのモードに応じてアクティブエアサスペンションの制御特性が変化します。

  • コンフォートモード: 乗り心地を最優先し、柔らかめのバネレートと減衰力で路面の凹凸を吸収し、ゆったりとした乗り味を提供します。
  • スポーツモード: 走行安定性とハンドリング性能を重視し、車高を下げて重心を低くし、バネレートと減衰力を硬めに設定することで、ロールを抑え、シャープな操縦性を実現します。
  • オフロードモード: 最低地上高を最大限に確保するために車高を上げ、路面追従性を高めるためにダンパーを柔らかく設定します。

これらのモード選択によって、ドライバーは自分の好みや走行状況に合わせて、車両の性格を大きく変えることができます。

エアトリ

導入事例:アクティブエアサスペンションを搭載する主要メーカーと車種

アクティブエアサスペンションは、その高度な機能とコストから、主に高級車や高性能車に採用されてきました。しかし、近年ではSUVの人気も相まって、より多くの車種で採用されるようになってきています。ここでは、アクティブエアサスペンションを積極的に導入している主要な自動車メーカーとその代表的な車種をご紹介します。

メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツは、サスペンション技術のパイオニアとして、アクティブエアサスペンションの進化を牽引してきました。同社のシステムは「AIRMATIC(エアマティック)」と呼ばれ、多くのモデルに採用されています。特に注目すべきは、世界初の「マジックボディコントロール」です。

AIRMATIC(エアマティック)

メルセデス・ベンツの多くのモデルに搭載される標準的なエアサスペンションシステムです。電子制御ダンパーと組み合わされ、路面状況や走行モードに応じて車高と減衰力を自動的に調整します。Sクラス、Eクラス、GLE、GLSなどの高級セダンやSUVに広く採用されており、メルセデス・ベンツらしい上質で快適な乗り心地を提供します。高速走行時には車高を下げて安定性を高め、悪路では車高を上げてクリアランスを確保するなど、柔軟な対応が可能です。

マジックボディコントロール(MAGIC BODY CONTROL)

Sクラスの一部グレードに採用されている、世界で唯一の予測型アクティブサスペンションシステムです。ステレオカメラが車両前方の路面をスキャンし、凹凸を事前に読み取ります。そして、路面の変化を予測し、その凹凸を乗り越える前に各ホイールのサスペンションを独立して調整することで、車体の揺れを極限まで抑え込みます。まるで魔法のように路面の起伏を吸収し、乗員にほとんど振動を感じさせない、驚くほどの乗り心地を実現します。これは、アクティブエアサスペンションの究極の進化形とも言えるでしょう。

アウディ

アウディは、その洗練された乗り心地と走行性能の追求において、エアサスペンションを積極的に採用しています。「アダプティブエアサスペンション」の名称で、幅広いモデルに導入されています。

アダプティブエアサスペンション

アウディの「アダプティブエアサスペンション」は、車速や路面状況、走行モードに応じて、車高と減衰力を連続的に調整するシステムです。A6、A7、A8といった上級セダンや、Q7、Q8といったSUVに搭載されています。ダイナミックモードでは車高が下がり、スポーティーな走行フィールを提供し、コンフォートモードではしなやかな乗り心地を実現します。オフロード走行時には車高を上げて悪路走破性を高めることも可能です。アウディ独自のクワトロ(quattro)四輪駆動システムとの組み合わせにより、あらゆる路面で優れた安定性とトラクションを発揮します。

ポルシェ

ポルシェは、スポーツカーメーカーとしてのDNAを持ちながら、快適性も追求するためにアクティブエアサスペンションを導入しています。特に、その運動性能をさらに高めるためのシステムが特徴です。

アダプティブエアサスペンション(PASM含む)

ポルシェの多くのモデル(パナメーラ、カイエン、マカンなど)にオプション設定される「アダプティブエアサスペンション」は、ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメント(PASM)と組み合わされます。PASMは電子制御ダンパーシステムで、路面状況や走行スタイルに応じて減衰力を連続的に調整します。エアサスペンションとの組み合わせにより、スポーツ走行時には車高を下げて重心を低くし、高速での安定性とコーナリング性能を向上させます。一方で、日常使いでは快適な乗り心地を提供し、悪路では車高を上げて走破性を確保するなど、ポルシェらしい万能性を実現しています。

PDCC(Porsche Dynamic Chassis Control)

ポルシェが誇る「PDCC」は、アクティブエアサスペンションと連携して動作するアクティブロールスタビライザーシステムです。油圧または電動でスタビライザーの硬さを可変させ、コーナリング時の車体の傾き(ロール)を積極的に抑制します。これにより、カイエンやパナメーラといった大型の車両でも、まるでスポーツカーのようなフラットな姿勢でコーナーを駆け抜けることが可能になります。極限の走行性能と快適性を両立させる、ポルシェ独自の技術です。

BMW

BMWもまた、ドライビングプレジャーと快適性の両立を追求するためにアクティブエアサスペンションを導入しています。「アダプティブ2アクスルエアサスペンション」として、特に大型SUVや高級セダンに採用されています。

アダプティブ2アクスルエアサスペンション

BMWのX5、X7、7シリーズなどに採用されている「アダプティブ2アクスルエアサスペンション」は、前後アクスルそれぞれにエアサスペンションを搭載し、独立して車高と減衰力を制御するシステムです。これにより、積載量に関わらず常に一定の車高を保ち、最適な乗り心地を提供します。また、ドライビングモードに応じて車高を上下させ、高速走行時の安定性向上や、乗り降りの利便性向上を実現します。BMWらしいスポーティーなハンドリングと、長距離移動でも疲れにくい快適性を両立させています。

レクサス

日本のプレミアムブランドであるレクサスも、フラッグシップモデルを中心にアクティブエアサスペンションを採用し、その上質な乗り心地を支えています。

アダプティブ・バリアブル・サスペンション(AVS)付きエアサスペンション

レクサスのLSやLXなどのフラッグシップモデルに搭載されている「アダプティブ・バリアブル・サスペンション(AVS)付きエアサスペンション」は、きめ細やかな乗り心地と優れた操縦安定性を両立させるシステムです。AVSは電子制御ダンパーの減衰力を無段階に連続可変させ、路面状況や走行状態、ドライバーの操作に応じて最適に制御します。これにエアサスペンションの車高調整機能が加わることで、レクサスならではの「おもてなし」の精神に基づいた、非常に快適で静かな乗り心地を実現しています。また、オフロード性能を重視するLXでは、悪路走破性を高めるための車高調整機能も充実しています。

これらの事例からもわかるように、アクティブエアサスペンションは、各メーカーがそのブランドイメージや車両の特性に合わせて、独自の制御技術と組み合わせることで、多様な機能と性能を実現しています。今後も、より高度なセンサーやAI技術の進化により、その制御はさらに洗練されていくことでしょう。

アクティブエアサスペンションの未来展望

アクティブエアサスペンションは、すでに高度な技術ですが、その進化は止まることを知りません。自動運転技術の進展や、さらなる快適性・安全性の追求、そして環境性能の改善といった様々なニーズに応えるため、未来に向けてさらなる発展が期待されています。

自動運転との連携

自動運転レベルの向上に伴い、アクティブエアサスペンションはさらに重要な役割を担うようになるでしょう。例えば、自動運転中に車両が予期せぬ路面の凹凸に遭遇した場合、システムが事前にその情報を検知し、瞬時にサスペンションを最適化することで、乗員の快適性を損なうことなく、まるで熟練ドライバーが運転しているかのようなスムーズな移動を実現します。また、高速道路での合流や車線変更の際にも、サスペンションを最適に制御することで、車両の安定性を最大限に高め、乗員に安心感を提供します。

将来的には、カーナビゲーションシステムや交通インフラからの情報と連携し、より広範囲かつ長期的な視点での予測制御が可能になるかもしれません。例えば、目的地までのルート上の路面状況や交通状況を事前に把握し、最適なサスペンション設定を自動的に選択するといったことも考えられます。これにより、乗員は目的地に到着するまで、常に最高の状態で移動を楽しむことができるようになるでしょう。

エネルギー回生技術の導入

現在のサスペンションは、路面からの入力によって発生する振動エネルギーを熱として放出することで減衰させています。しかし、このエネルギーを電気エネルギーとして回収し、車両の電力として利用する「エネルギー回生サスペンション」の研究・開発が進められています。アクティブエアサスペンションとこのエネルギー回生技術を組み合わせることで、サスペンションの動作効率を高めつつ、燃費効率の向上やEVの航続距離延長に貢献することが期待されます。

例えば、路面の凹凸を乗り越える際に発生する上下方向の動きや、ブレーキ時に発生するピッチング(前後の傾き)のエネルギーを回生することで、エアコンやオーディオなどの車内電装品に供給したり、バッテリーの充電に利用したりすることが可能になるでしょう。これは、環境性能と走行性能の両面で大きな進歩をもたらす可能性があります。

個別車輪制御のさらなる進化

現在の多くのアクティブエアサスペンションシステムは、各ホイールのサスペンションを独立して制御することが可能ですが、将来的にはさらに細かな制御が実現される可能性があります。例えば、路面からの入力が各ホイールにどのように伝わるかをより高精度で予測し、それぞれのホイールに対して最適な減衰力と車高を瞬時に調整することで、路面の状況に文字通り「吸い付く」ような乗り心地と、極めて高い走行安定性を実現するでしょう。

これにより、例えば荒れた路面でも、車内は常にフラットな状態を保ち、乗員はほとんど揺れを感じることなく移動できるようになるかもしれません。また、緊急回避操作時など、車両に大きな外力が加わる際にも、各ホイールのサスペンションが最適に協調動作することで、車両の姿勢を乱すことなく安全に回避行動をサポートすることが可能になります。

軽量化と小型化

現在のアクティブエアサスペンションシステムは、多くの部品で構成されており、重量とスペースを必要とします。しかし、素材技術や部品設計の進化により、将来的にはより軽量でコンパクトなシステムが開発されることが期待されます。これにより、搭載車種の選択肢が広がり、より手頃な価格帯の車両にもアクティブエアサスペンションの恩恵が及ぶようになるかもしれません。

軽量化は燃費向上に直結し、小型化は設計の自由度を高め、より効率的なパッケージングを可能にします。これにより、より多くのドライバーや乗員が、アクティブエアサスペンションがもたらす革新的な乗り心地と走行性能を享受できるようになるでしょう。

まとめ:アクティブエアサスペンションがもたらす自動車の未来

この記事では、「アクティブエアサスペンションとは何か?」という問いに対し、その基本概念から複雑な仕組み、多岐にわたるメリットとデメリット、そして最先端の制御技術や具体的な導入事例、さらには未来への展望まで、自動車技術の専門家が詳細に解説してまいりました。

アクティブエアサスペンションは、従来のサスペンションでは成し得なかった「比類ない快適な乗り心地」と「優れた走行安定性」を両立させる画期的な技術であることがお分かりいただけたかと思います。空気の力を利用したエアベローズ、圧縮空気を供給するコンプレッサー、そして車両の状態を常に監視し、最適な制御を行うECUと各種センサーが連携することで、路面状況や走行状況、積載量に応じて車高や減衰力を瞬時に、そして自動的に調整します。

メルセデス・ベンツの「マジックボディコントロール」に代表される予測制御技術や、ポルシェの「PDCC」のようなアクティブロールスタビライザーとの統合など、各自動車メーカーは独自の技術を投入し、その性能を最大限に引き出しています。これらの技術は、乗員の疲労を軽減し、運転の楽しさを高め、そして何よりも安全な走行をサポートする上で、極めて重要な役割を担っています。

一方で、高額な初期費用や維持費用、複雑な構造ゆえの整備性といったデメリットも存在します。しかし、自動運転技術との連携、エネルギー回生システムの導入、そしてさらなる軽量化・小型化といった未来の展望を考えると、アクティブエアサスペンションは今後も自動車の進化において中心的な役割を果たすことが予想されます。

この情報が、自動車業界に携わる方々、あるいは自動車技術に興味をお持ちの方々にとって、アクティブエアサスペンションという最先端技術への理解を深める一助となれば幸いです。自動車の未来は、間違いなくこの革新的なサスペンションシステムとともに、より快適で安全、そして環境に優しい方向へと進んでいくことでしょう。

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