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オープンイノベーションを公共交通に取り入れる方法

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オープンイノベーションとは何か ― 公共交通における定義と意義

「オープンイノベーション(Open Innovation)」とは、企業や組織が自前主義に固執せず、外部の技術・アイデア・人材・知見を積極的に取り入れることで、より効率的かつ創造的に価値を創出するアプローチを指します。この考え方は、製造業やIT業界などの民間分野で浸透してきたものですが、近年では公共交通をはじめとする社会インフラ領域にも応用の動きが見られます。

公共交通においては、業務の専門性や安全性への配慮から、従来は「内部完結型」の改善が中心でした。例えば、技術開発はグループ会社または特定ベンダーとの協働に限定され、現場での課題解決も担当部門内での工夫にとどまる傾向がありました。その結果、部門間の知見共有や外部の技術導入が進まず、「独自仕様化による囲い込み」や「新規技術導入の遅れ」といった課題を生んでいます。

このような背景の中で、オープンイノベーションの考え方を導入する意義は非常に大きいといえます。たとえば、AIカメラやクラウドシステムなど、もともとは鉄道業界の外で開発された技術が、現場の安全監視や設備管理に転用される事例も増えてきました。また、スタートアップ企業と交通事業者が共同で新サービスを立ち上げたり、大学研究室との連携によって検証フェーズを短縮したりするなど、取り組みの幅も広がりつつあります。

さらに重要なのは、オープンイノベーションが単なる技術導入手段ではなく、「組織の思考様式」を転換する起点になりうることです。閉じた仕組みの中で最適化されたローカルな改善だけでなく、「他者との共創」によって思いもよらぬ解決策が生まれる余地が広がるのです。これは、現場技術者が単なるオペレーターではなく、「価値創出の担い手」としての視点を持つことにもつながります。

一方で、公共交通におけるオープンイノベーションの導入には注意点も存在します。たとえば、外部の技術や企業をどのように選定し、社内の稟議プロセスをどう通すか。情報漏洩や責任分界点の明確化はどう図るか。これらは次章以降で解説する「導入プロセス」として詳細に扱いますが、いずれも「開かれた体制」を前提にしつつ、現実的なマネジメントが求められるテーマです。

本章では、オープンイノベーションの定義と、その意義を公共交通の文脈で捉え直しました。次章では、実際に公共交通の現場で技術導入を進めるうえで直面しやすい「導入プロセスの壁」について整理し、どこに工夫の余地があるのかを探っていきます。

 

公共交通における典型的な導入プロセスとボトルネック

公共交通事業者が新たな技術や運用改善策を導入する際、そのプロセスは一見すると整然と見えますが、実際には複雑な部門連携や稟議構造、技術検証の難しさなどが絡み合い、意思決定までに時間がかかることが多いです。Mobility Nexusでは、こうした導入プロセスを8つのステップに分解し、技術導入のどの段階で何が求められるのかを体系的に整理しています。

この8ステップは以下の通りです:

  • STEP1:課題認識・ニーズ抽出
  • STEP2:技術調査・ソリューション探索
  • STEP3:要件定義・仕様検討
  • STEP4:開発・設計・調達
  • STEP5:試験・検証・現場適合性評価
  • STEP6:導入決定・契約・スケジュール策定
  • STEP7:施工・設置・切替作業
  • STEP8:運用開始・フォローアップ・継続改善

一見、計画的に見えるこのプロセスの中で、オープンイノベーション的な取り組みを阻む「構造的な壁」がいくつか存在します。

まず、多くの技術提案がSTEP2やSTEP3で止まってしまう原因として、「前例主義」と「要件化の難しさ」が挙げられます。新しい技術は現場ニーズに適していたとしても、仕様書に落とし込む段階で“前回と同様”という慣例に引き戻されるケースが多く、過去実績がない技術は除外されてしまう傾向があります。

次に、STEP5(試験・検証)の軽視も重大なボトルネックです。検証に必要な環境・時間・人員が確保されず、書類上での承認や机上の論理だけで技術評価が進んでしまうことがあります。その結果、STEP7(施工)以降で現場との不整合が発覚し、設計変更や工程遅延を招く事態に陥るのです。

また、STEP6(導入決定)においても、意思決定権が分散していることが導入の遅延につながります。現場のニーズと経営層の意思決定、法務・経理部門の審査が噛み合わず、技術的には有用なアイデアが予算化されないケースもあります。ここでは「共通言語」としての成果物(試験報告書、費用対効果シミュレーションなど)が不足していることが障害になります。

さらに、これらの問題は単一部門内では解決できない構造課題です。現場、技術、調達、経理、法務、企画など複数部門が関与する中で、それぞれの視点・リスク・制約を可視化し、共通の目的意識を持つことが重要です。オープンイノベーションを成立させるには、こうした部門連携を支える設計思想とプロジェクトマネジメント力が欠かせません。

本章では、公共交通における導入プロセスの構造と、典型的なボトルネックを可視化しました。次章では、現場から生まれた改善アイデアをどのように「社内案件」に昇華させ、正式な検討対象として進めていくのか、具体的な方法を解説します。

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振り返りワーク

この記事で学んだ内容を確実に理解し、現場や企画業務への応用につなげるためには、アウトプットによる振り返りが効果的です。以下の設問を通じて、自身の理解度を確認するとともに、所属組織や立場に照らし合わせて考えることで、実践力を高めましょう。特に、管理職やリーダー層の方は、後輩への指導視点でも自問することを推奨します。

Q1. あなたの組織では、現場発のアイデアが正式な技術検討案件に昇華される仕組みが整っていますか?

  • Yes
  • No

Q2. 以下のうち、オープンイノベーションを進めるうえで“好ましくない対応”はどれですか?

  • A. 他業界の技術展示会に参加して技術調査を行う
  • B. 社内提案制度に実績評価とフィードバック機会を設ける
  • C. 新技術導入に対して初期段階から法務部門と連携する
  • D. 社内稟議を通す前に、まず実物導入を前提としてベンダーと契約する

Q3. 以下の3つの行動のうち、最も“プロジェクトの持続性”に寄与するのはどれですか?

  • A. 社内勉強会で他部署に成果を口頭共有する
  • B. 技術導入の意思決定過程を記録に残し共有する
  • C. 成果物をベンダーに一任して整理を任せる

Q4. 現場で使われやすい技術提案文として、適切な表現はどれですか?

  • A.「最新の技術を活用すれば業界を変革できます」
  • B.「AI技術により業務効率が上がる可能性があります」
  • C.「現状課題の○○に対して、AIカメラを使った△△という手法を試験導入したい」

Q5. 技術導入の8ステップにおける順序として正しいものはどれですか?

  • A.  課題認識 → 技術調査 → 試験・検証
  • B.  要件定義 → 導入決定 → 現場適合性評価
  • C.  施工 → 契約 → 運用開始

Q6. あなたの職場でオープンイノベーションを進めるうえで、今のプロセスにどのような“開かれた構造”を追加できそうですか?具体的な部門連携や制度の設計方針とともに記述してください。

  • (記述式)

Q7. 後輩から「良い提案書って何が違うんですか?」と聞かれたら、どのように説明しますか?あなた自身の経験も踏まえて、1〜2点に絞って説明してください。

  • (記述式)

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