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仕様変更時のリスクマネジメント実務

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第1章:なぜ仕様変更がリスクになるのか ― 現場に潜む構造的課題

公共交通のインフラ設計・更新において、「仕様変更」は避けられない現実の一部です。特に開発・設計・調達の段階では、利用者ニーズや現場制約、部品調達事情などを反映させるため、当初想定とは異なる判断を迫られることが多くあります。しかし、この仕様変更が適切に管理されない場合、工期遅延、コスト超過、安全上の懸念といった深刻なリスクを引き起こします。

本章では、なぜ仕様変更がリスクにつながるのかを「現場の構造的問題」として捉え、特に設計・工事・管理部門間の断絶や情報の非対称性が引き起こす具体的な問題を掘り下げていきます。

設計変更が現場に波及する構造的な背景

  • 公共交通設備は、多部門・多工程にまたがるプロジェクトであり、設計変更が波及する先が広範囲に及ぶ
  • 設備更新の多くが「既存環境を前提」とするため、現場でしか把握できない条件が変更要因となりやすい
  • 設計部門が意図せず“現場の作業手順”や“保守性”に悪影響を与えるケースがある
  • 逆に、現場側が軽微な変更と判断して独自に対応し、設計との整合性が崩れるケースも存在

フェーズ別に見る仕様変更のリスク顕在化ポイント

  • 設計初期段階:要求仕様のあいまいさ、ユーザー側の認識不足による変更要求が発生
  • 詳細設計段階:設備配置や配線ルートに制約が見つかり、想定外の再設計が必要になる
  • 部品調達段階:納期・価格・仕様変更による代替品提案で、元設計との乖離が生まれる
  • 施工段階:現場条件(空間制約・既設配管など)により設計通りに施工できず、現地判断が入る

なぜ「情報の断絶」がリスクを拡大させるのか

  • 設計・施工・調達・管理部門間で、仕様の定義や背景認識にズレがある
  • 設計変更の通知が関係者全体に行き渡らず、一部の関係者のみ旧仕様で進行する
  • ベンダーや外注先にも正確な情報が共有されず、誤納品や誤施工が発生
  • 紙ベース・口頭伝達の運用が残っている現場では、改訂履歴の追跡が困難になる

実際に起きたトラブル例に学ぶ

  • 事例1:ケーブル支持金具の仕様変更が現場に共有されず、工事当日に取付部材が不足
  • 事例2:設計部門が図面上で配線ルートを変更したが、施工ルートに干渉物があり再工事が発生
  • 事例3:メーカー変更による端子台の仕様差により、保守用工具が使えなくなる

このような問題は、「誰が何を知っているか」が分からない状況下で仕様が変化していくことに起因します。現場と管理部門の認識の断絶を埋めるには、単に手順やルールを整えるだけでなく、設計・調達・工事といった各部門の行動と責任の連鎖を理解する視点が不可欠です。

次章では、この仕様変更を「型」に分解し、それぞれの影響範囲を構造的に捉える思考法について解説していきます。

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