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Make or Buy判断を経営視点で行う方法
- 技術者研修
序章:なぜ公共交通業界でMake or Buy判断が重要なのか
公共交通業界における技術導入や業務改善では、「自社で開発・設計を行うか(Make)」「外部から製品やサービスを調達するか(Buy)」という意思決定が頻繁に発生します。これは単なるコスト比較ではなく、事業の将来性や安全性、利用者へのサービス品質に直結する重要な経営判断です。特に鉄道やバスなどのインフラは長期運用を前提としており、一度の選択が10年、20年先の運営コストや技術力の蓄積に大きな影響を及ぼします。
現場技術者の視点では、日々の保守性や運用負荷の軽減が重視されます。一方、経営層や管理部門の視点では、投資効率や将来の戦略的柔軟性が優先されることが多く、この二つの視点の間にはしばしば断絶が生じます。例えば、現場にとっては「多少高くても保守が楽なシステム」が望ましい場合でも、経営層は「初期コストを抑え、標準化を優先する」という判断を下すことがあります。こうしたズレが、プロジェクトの停滞や導入後の不満を生む大きな要因となります。
さらに、公共交通事業者は「社会的責任」を強く負う立場にあります。単純に価格競争力のある外部調達を選んだ場合でも、安全規制や法令遵守に関わる要件を満たしていなければ、重大なリスクを抱えることになります。逆に、自社で開発を進める場合には、技術者不足や開発ノウハウの偏在といった課題が浮上し、計画通りに成果を出せないリスクが存在します。したがって、Make or Buyの判断は「コストとリスクのバランスをいかに経営視点で捉え、現場の知見を取り込むか」が核心となります。
この研修記事では、STEP4(開発・設計・調達)の応用編として、公共交通業界におけるMake or Buy判断を体系的に整理します。まず基本的なフレームワークを理解した上で、現場と経営層の視点をどう統合するか、また具体的な判断基準や評価項目をどのように設定すべきかを解説します。さらに、部門間の連携体制や、判断プロセスを教育・研修を通じて組織知に定着させる方法まで掘り下げていきます。
この序章で強調したいのは、Make or Buy判断は「経営層だけの意思決定」ではなく、現場からの知見が組み込まれて初めて適切な結論に至るという点です。公共交通のように長期にわたり社会インフラを支える業界では、一つの判断が将来の安全や利用者体験を大きく左右します。この記事を通じて、読者が現場と経営の間に橋を架ける視点を養い、実務で活かせる思考と行動につなげていただければと思います。
振り返りワーク
本記事で学んだ内容を、自分の言葉で整理していただきます。学習はアウトプットによって定着いたします。業務の意思決定や社内教育の場面で使える形に落とし込み、ご自身の組織・担当領域に当てはめて考えることで、Make or Buy判断を再現可能なスキルとして身につけていきましょう。
Q1:Make or Buy判断は、コスト・品質・スピード・リスクの4観点を基軸に、公共交通の長期運用や安全規制を加味して行うべきだと理解しましたか。
- Yes
- No
Q2:以下のうち、本文の趣旨と異なるものを一つ選んでください。
- A. 外部調達は導入が速い一方で、将来の仕様変更に制約が生じやすいと理解いたします。
- B. 自社開発は初期負担が大きくても、長期的な柔軟性や技術資産の蓄積につながると考えます。
- C. 公共交通では導入価格のみを重視し、ライフサイクルコストは重視しなくてよいと考えます。
- D. ベンダー依存は供給停止リスクにつながるため、分散可能性を評価する必要があると捉えます。
Q3:次の状況で、より妥当だと考える方針を選んでください(前提:20年運用、現場の保守要員が限られています)。
- A. 初期費用は高いが保守容易性が高く、更新部品の国内調達性が担保された外部標準製品を選びます。
- B. 初期費用は低いが専用部品に依存し、ベンダーが海外一本の外部製品を採用いたします。
- C. 要件の一部のみ内製し、基幹は標準製品を採用するハイブリッドで移行いたします。
Q4:経営層への報告書における表現として、最も適切なものを選んでください。
- A. 「現場は困っておりますので、できればA社でお願いしたいです。」
- B. 「LCC試算では標準製品採用時に10年累計で▲15%、保守工数は年間120時間削減が見込めます。」
- C. 「みんなA社と言っておりますので、その方向でよろしいかと存じます。」
Q5:Make or Buy判断のプロセスとして適切な流れに並び替えてください。
- A. 現場課題の定義と定量化(保守工数・障害頻度の把握)
- B. 市場調査と代替案比較(仕様適合・納期・実績・リスク)
- C. 評価表・LCC・リスクスコアの統合と部門レビュー
- D. 経営意思決定と導入後の効果測定計画の確定
Q6:ご自身の担当領域で直近1件、Make or Buy判断が想定されるテーマを挙げ、評価観点と不足データ、次の一手を整理してください。
- 対象テーマ(設備・システム名):
- 評価観点(LCC / 保守容易性 / 規制適合 / 供給安定性 など):
- 不足データ(取得元・取得方法):
- 次の一手(関係部門、合意形成の場、期限):
Q7:入社5年目までの後輩に対し、Make or Buy判断の思考法を60分で指導するとします。到達目標と進行構成、配布物(チェックリスト等)を設計してください。
- 到達目標(例:4観点での比較表作成ができる):
- 進行構成(導入10分/ケース演習35分/共有・振り返り15分 など):
- 配布物(評価表テンプレート、LCC試算ひな型、用語集 など):
- 評価方法(提出物・口頭発表・振り返り質問 など):
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