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トヨタと富士通、モータースポーツ現場で生成AI活用—開発の未来を拓く新技術
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自動車業界の巨人トヨタ自動車と、日本のテクノロジーを牽引する富士通が、モータースポーツという最先端の現場で、未来のモノづくりを切り拓くための画期的な協業をスタートさせました。この1年間の取り組みで明らかになったのは、生成AI技術が単なるツールにとどまらず、開発プロセスそのものを根本から変革する可能性です。両社が目指すのは、レース現場で培った知見を量産車開発、ひいては製造業全体に応用する、壮大なデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現です。
モータースポーツの現場で加速する開発サイクル
トヨタ自動車と富士通は、モータースポーツの現場で生成AIを活用する共同プロジェクトを立ち上げ、1年間の成果を公表しました。特に注目されているのが、富士通が提供する独自の技術「KG拡張RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。この技術をレース車両のパワートレイン開発に導入することで、複雑で膨大なデータから迅速かつ正確に最適な解決策を導き出す体制を構築しました。これにより、試行錯誤のプロセスが大幅に短縮され、開発期間の大幅な短縮と技術力の向上が実現しています。
「KG拡張RAG」とは何か?専門家による解説
今回の協業の中核をなす「KG拡張RAG」とは、通常の生成AI(LLM)の弱点を補う、非常に高度な技術です。一般的な生成AIは、学習したデータに基づいて回答を生成しますが、時として事実に基づかない「ハルシネーション(幻覚)」を引き起こすリスクがあります。一方、RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、外部のデータベースから関連情報を「検索(Retrieval)」し、その情報を基に回答を「生成(Generation)」することで、回答の正確性を高めます。さらに富士通の「KG拡張」は、この検索プロセスに「ナレッジグラフ(Knowledge Graph)」を組み合わせたものです。ナレッジグラフとは、膨大なデータを単なるテキストとしてではなく、「知識のつながり」として構造化したものです。これにより、AIは単語の羅列ではなく、「概念と概念の関係性」を理解した上で情報を検索できるようになります。例えば、パワートレイン開発においては、「特定のエンジンの不調」という事象に対して、「過去の同様の事例」「関連する部品の故障データ」「設計者のコメント」といった複数の情報を、その因果関係まで含めてAIが瞬時に分析し、最適な解決策を導き出すことが可能になるのです。
製造業の未来を切り拓く技術の応用
今回のプロジェクトで培われた技術は、モータースポーツだけに留まりません。トヨタと富士通は、この先進的なシステムを、将来的に量産車の開発プロセスや、自動車製造の現場全体に応用することを目指しています。量産車開発では、設計から試作、評価に至るまでの膨大な工程において、KG拡張RAGが最適なシミュレーション結果や設計案を瞬時に提示することで、開発期間を大幅に短縮し、市場投入のスピードを加速させることができます。また、製造現場においては、故障診断の迅速化や、熟練技術者の知見をデジタル化し、若手技術者への技術伝承を効率化するツールとしても活用が期待されます。この取り組みは、日本の製造業が直面する人材不足や技術継承の課題に対する、**デジタルトランスフォーメーション(DX)**の新たなロールモデルとなるでしょう。
まとめ
トヨタと富士通の協業は、単なるAI導入事例ではありません。モータースポーツという極限の環境で、最先端の生成AI技術を実証し、その成果を製造業全体に還元しようとする、壮大なビジョンを持つプロジェクトです。KG拡張RAGという精度の高いAI技術を駆使することで、開発サイクルの短縮や技術革新を加速させ、日本の製造業の競争力をさらに高める可能性を秘めています。この取り組みが、今後どのような具体的な成果を生み出し、私たちの生活をどう変えていくのか、引き続き注目が集まります。
参考文献: https://global.fujitsu/ja-jp/local/blog/article/2025-09-17-01
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