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マッハタックとは|航空用語を初心者にも分かりやすく解説

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「マッハタック」という言葉を聞いて、あなたはどんな光景を思い浮かべますか?なんだかマッハの速度でタックルをかますような、格闘技の必殺技みたいでかっこいい響きですよね。でも、実際の飛行機の世界では、パイロットをヒヤヒヤさせる「ちょっと困った、でも避けられない現象」のことなんです。

ネットで調べてみても、「圧力中心が後退し……」「縦の静安定が減少し……」なんて難しい専門用語ばかり。Wikipediaを読んで3秒でブラウザを閉じたくなった経験はありませんか?大丈夫です、その気持ち、よくわかります。

この記事では、航空の世界にどっぷり浸かっている私が、専門用語を極限まで噛み砕いて、「マッハタックとは一体何なのか?」をどこよりも面白く、そして詳しく解説していきます。読み終わる頃には、あなたはマッハタックの仕組みを小学生にでも説明できるようになっているはずですよ。さあ、空の不思議な旅へ一緒に出かけましょう!

マッハタックとは、一言で言うと「超高速でお辞儀しちゃう現象」です

まずは結論からズバッとお話ししましょう。マッハタックとは、飛行機が音速(マッハ)に近づいたときに、操縦桿を動かしていないのに勝手に機首(鼻先)がグイッと下がってしまう現象のことです。

普通、飛行機はスピードを上げれば上げるほど、翼が空気をたくさん捉えるので「もっと上がりたい!」という力(揚力)が強くなります。しかし、ある一定のスピードを超えた瞬間に、この常識が通用しなくなる「魔法が解けたような時間」がやってくるんです。これがマッハタックの正体です。

なぜ「マッハ」で「タック」するのか?

「マッハ」は音の速さを基準にしたスピードの単位ですね。では「タック(Tuck)」はどういう意味でしょう?これは英語で「押し込む」や「しまい込む」といった意味があります。

つまり、音速に近い猛烈なスピードで飛んでいるときに、目に見えない巨大な力で機首を下に押し込まれてしまうから、マッハタックと呼ばれているんです。パイロットからすれば、まるで誰かに鼻先を力いっぱい押さえつけられているような、そんな感覚になる現象なんですよ。

結論:コントロール不能な「急降下」の始まり

もしあなたが時速900キロで飛んでいる飛行機のパイロットだとして、何もしていないのに突然ガタガタと機体が震え出し、勝手に地面に向かってダイブを始めたらどう思いますか?「うわっ、故障か!?」とパニックになりますよね。

でもこれは故障ではなく、空気の性質がガラッと変わることで起きる「物理現象」なんです。この現象を理解するには、まず「翼の上で何が起きているのか」を知る必要があります。

なぜ勝手に機首が下がる?犯人は「衝撃波」と「揚力の中心移動」

さて、ここからはマッハタックが起きるメカニズムを深掘りしていきましょう。犯人は一人ではありません。複数の要因が重なり合って、飛行機を地面へと引きずり込もうとします。

キーワードは「衝撃波」と「揚力の中心が後ろにズレる」こと。これだけ聞くと難しそうですが、要は「空気の流れがメチャクチャになる」ということなんです。

翼の上に現れる「衝撃波」という透明な壁

飛行機本体が音速(マッハ1.0)を超えていなくても、マッハタックは起こります。「えっ、音速を超えてないのにマッハなの?」と思いましたか?実はここがポイントなんです。

飛行機の翼は、上側がぷっくりと膨らんだ形をしていますよね。空気がこの膨らみを通り抜けるとき、狭い道を急いで通るように、機体のスピードよりもずっと速く加速します。機体がマッハ0.8くらいで飛んでいても、翼の上の空気だけはすでにマッハ1.0を超えてしまっていることがあるんです。

空気もパニック!音の壁の正体

音速を超えた空気は、行き場を失ってギュッと圧縮されます。これが「衝撃波」です。透明な硬い壁のようなものが翼の上に突然現れると考えてください。この衝撃波が発生すると、そのすぐ後ろ側の空気の流れがバラバラに乱れてしまい、翼が空気を受け止める力を失ってしまうんです。これを「衝撃波失速」と呼びます。

揚力の中心が「後ろ」にズルズル移動する

ここがマッハタックの核心部分です。翼が飛行機を持ち上げる力(揚力)を発生させているポイントを「揚力の中心」と呼びます。

通常、低速から中速のとき、この中心は翼のわりと前の方にあります。ところが、スピードが上がって翼の後ろの方に衝撃波が成長してくると、今まで前の方で支えていた揚力のポイントが、ズルズルと後ろの方へ移動してしまうんです。

シーソーでイメージしてみよう!

想像してみてください。あなたはシーソーの真ん中に座って、前後のバランスを取っています。機首(前側)を持ち上げるためには、重心より後ろを押さえる必要があります。

しかし、揚力の中心(支点)が急に後ろへ移動するとどうなるでしょう?支点が後ろに下がるということは、機体の前半分を支える力がなくなり、シーソーがガクンと前に傾くのと同じことなんです。これが、マッハタックによって機首が下がる物理的な正体です。

後退翼(斜めの翼)がマッハタックを悪化させる!?

現代のジェット旅客機を思い浮かべてください。翼が後ろにシュッと傾いた「後退翼」をしていますよね。これ、実はかっこよさのためにやっているわけではありません。

後退翼はスピードを出すためには最高の形なのですが、マッハタックに関しては、ちょっと厄介な性質を持っているんです。

スピードのために選んだ「後退翼」の宿命

後退翼は、正面からぶつかってくる空気を斜めに逃がすことで、衝撃波が発生するタイミングを遅らせる効果があります。つまり、より速く飛べるようにするための工夫です。

しかし、いざ衝撃波が発生する速度域に達すると、後退翼特有の現象が起きます。空気が翼の付け根から先端に向かって流れるため、翼の「付け根(機体に近い側)」から先に揚力が失われやすくなるんです。

翼の付け根で揚力が消えると何が起きる?

翼の付け根は、機体の重心よりも前側にあることが多いです。そこで揚力が失われるということは、機体を前で支えていた「手」がパッと離されるようなもの。

すると、まだ揚力が残っている翼の外側(後ろ側)だけが機体を押し上げ、結果として鼻先が強制的に下を向かされることになります。後退翼は高速飛行を可能にした代わりに、このマッハタックという特性をより強く引き出してしまったんですね。

パイロットが恐怖する「死のループ」とは?

「機首が下がるなら、操縦桿を思い切り引けばいいだけでしょ?」と思うかもしれません。でも、マッハタックの本当の怖さは、一度始まったらなかなか止まらない「負の連鎖」にあります。

ここからは、マッハタックがなぜ昔のパイロットたちに恐れられたのか、その理由をお話しします。

スピードが上がれば上がるほど悪化する恐怖

マッハタックが発生して機首が下がると、飛行機は当然「急降下」を始めます。坂道をノーブレーキで下る自転車を想像してください。どんどんスピードが上がりますよね。

スピードが上がれば上がるほど、衝撃波はさらに強くなり、揚力の中心はもっと後ろへ移動します。つまり、「機首が下がる → スピードが出る → さらに機首が下がる力が増す」という、抜け出せない地獄のループに突入してしまうんです。これを放置すると、最悪の場合は機体が耐えきれずに空中分解してしまいます。

操縦桿を引いても手応えがない!?

さらに恐ろしいことに、機首を上げるために使う「水平尾翼(お尻の小さな翼)」までもが使い物にならなくなることがあります。

主翼で発生したメチャクチャな空気の流れ(乱気流)がお尻の尾翼を直撃すると、尾翼の周りにも衝撃波が発生し、パイロットがどんなに操縦桿を引いても、機体が全く反応しなくなる「舵効き不良」が起きます。力いっぱい引いているのに、飛行機は地面に向かって真っ逆さま……これが昔のテストパイロットたちが直面した「音の壁」の恐怖だったんです。

現代の飛行機はどうやってマッハタックを克服したのか?

ここまで読んで、「え、飛行機に乗るの怖くなっちゃった……」と思った方、安心してください!現代の旅客機では、マッハタックで墜落するようなことはまずありません。

エンジニアたちは、この物理的な弱点を克服するために、賢い「対策」をいくつも編み出しました。

自動で修正してくれる「マッハトリム」の登場

一番の救世主は、「マッハトリム」というコンピューターシステムです。これは、飛行機のスピードを常にセンサーで監視している賢いガードマンのようなもの。

マッハタックが起きそうな速度になると、パイロットが何もしなくても、コンピューターが自動で尾翼を動かし、機首が下がらないように微調整をしてくれます。今のパイロットは、実はマッハトリムのおかげで、マッハタックの存在をほとんど意識することなく、安全に高速飛行ができているんですよ。

翼の形を進化させた「スーパークリティカル翼」

形そのものも進化しました。現代の旅客機の翼は「スーパークリティカル翼」と呼ばれる特殊な形状をしています。

これは、翼の上面をあえて平らっぽくすることで、空気の流れが音速を超えても衝撃波がすぐには発生しないように、あるいは発生しても影響が少なくなるように設計されています。ハイテクなコンピューターと、洗練されたデザインの両面で、マッハタックを封じ込めているんですね。

歴史の裏話:マッハタックと「音の壁」を越えた男たち

マッハタックの解明は、人類が「もっと速く!」と願った挑戦の歴史でもあります。かつて、マッハ1.0(音速)は「越えられない壁」と言われていました。

その陰には、マッハタックという未知の怪物と戦った勇敢な人たちがいたんです。

「空に悪魔が住んでいる」と言われた時代

第二次世界大戦中、戦闘機が時速800キロを超え始めた頃、世界中で謎の墜落事故が相次ぎました。パイロットたちは「急に操縦不能になった」「機体が勝手に地面に吸い込まれた」と報告しました。

当時は「音速に近づくと空気の性質が変わる」ということが詳しくわかっていなかったため、マッハタックは「空の悪魔の仕業」だと恐れられていたんです。この悪魔を退治するために、多くのテストパイロットが命を懸けてデータを持ち帰りました。

全遊動式水平尾翼(スタビレーター)の革命

マッハタックによる舵効き不良を解決する最大の鍵は、尾翼の構造を変えることでした。

それまでは尾翼の後ろ半分だけがパタパタ動く仕組みでしたが、「だったら尾翼全体を丸ごと動かしてしまえばいいじゃないか!」という逆転の発想が生まれました。これが「全遊動式水平尾翼(スタビレーター)」です。これにより、衝撃波が発生する超高速域でも、強引に機首を持ち上げるパワーを手に入れたのです。これが、人類が音の壁を突き破るための大きな武器となりました。

まとめ:マッハタックは「空の進化の証」

いかがでしたでしょうか?あんなに難しそうだったマッハタックが、少し身近に感じられるようになったのではないでしょうか。

最後に、今日お話しした大切なポイントをまとめてみましょう。

  • マッハタックとは、音速に近づくと勝手に機首が下がってしまう現象。
  • 翼の上にできる「衝撃波」が、揚力を後ろへ押しやってしまうのが原因。
  • 一度起きるとスピードが出てさらに悪化する「死のループ」が怖い。
  • 現代では「マッハトリム」や「最新の翼の形」で安全に制御されている。

次にあなたが飛行機に乗るとき、窓の外に見える翼をじっと眺めてみてください。その翼は、音速という見えない壁と戦い、マッハタックという悪魔を抑え込みながら、あなたを安全に目的地まで運んでくれています。

航空力学の世界は、知れば知るほど面白い発見に満ちています。もしまた、空にまつわる不思議な言葉に出会ったら、いつでも聞きに来てくださいね。空の旅が、もっと楽しくなるはずですよ!

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