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交直両用電車とは|鉄道用語を初心者にも分かりやすく解説
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「電車なんだから、どの線路でも走れるのが当たり前でしょ?」
そう思っているあなた、実は日本の鉄道には「電気の種類が違うために、普通の電車では通れない境界線」がいくつも存在することをご存知でしょうか?
例えば、東京の上野駅から茨城県へ向かう常磐線に乗っていると、途中で急に車内の明かりが消えたり、空調が止まったりする瞬間があります。「えっ、故障?」と驚くかもしれませんが、これこそが今回ご紹介する「交直両用電車」が魔法を使っている瞬間なんです。
この記事では、Wikipediaを読んでも三秒で眠くなってしまうような難しい話を、どこよりも噛み砕いて面白くお届けします。読み終わる頃には、あなたも駅のホームで「あ、あの電車は屋根の上が賑やかだから交直両用だね」なんて通な会話ができるようになりますよ!
交直両用電車とは何か?
「交直両用電車とは」という問いに対して、一番シンプルな答えをまずお伝えしますね。それは、「直流(DC)」と「交流(AC)」という2種類の電気を、1台で使い分けて走れる最強のマルチプレイヤーのことです。
普通の電車は、家で使う家電と同じで、決まった種類の電気しか受け付けません。例えば、乾電池(直流)で動くおもちゃに家庭用コンセント(交流)を無理やり繋いだら壊れてしまいますよね?鉄道もそれと同じなんです。
しかし、交直両用電車は車内に「電気を変換するミニ変電所」を丸ごと積み込んでいます。そのため、電気のルールが違うエリアの境界線を、何事もなかったかのようにスイスイと走り抜けることができるのです。
「直流」と「交流」の境界線をまたげる魔法の車両
なぜそんな面倒な電車が必要なのか、不思議に思いませんか?
実は、日本の鉄道は場所によって「直流」で電気が流れている区間と、「交流」で流れている区間がバラバラに存在しているんです。もし普通の電車しかなければ、その境界線に着くたびに全員が降りて、別の電車に乗り換えなければなりません。
交直両用電車は、屋根の上にある「パンタグラフ」で電気を受け取り、瞬時に自分のモーターに合う形に変換します。これにより、乗客は座ったまま、電気の壁を意識することなく旅を続けられるというわけです。まさに「走るバイリンガル」のような存在なんですよ!
車内に「ミニ変電所」を持っているからどこでも走れる
この電車の凄いところは、重たい機械をたくさん積んでいる点にあります。
直流エリアを走るときは電気をそのままモーターへ流し、交流エリアを走るときは車内の「主変圧器」という大きな機械で電圧を下げ、さらに「整流器」で直流に直して使います。
つまり、電車の床下に「発電所から届いた電気を加工する工場」を隠し持っているようなもの。この重装備があるからこそ、日本中のどんなに条件が違う線路でも涼しい顔をして走り抜けることができるんです。
スマホの充電器に似ている!?電圧変換の仕組み
この仕組み、実はあなたの身近なものにもよく似ています。そう、スマホの充電器(ACアダプター)です!
コンセントから来ている電気は「交流」ですが、スマホのバッテリーは「直流」でしか充電できません。だから、あのアダプターの中でこっそり電気を変換しているんです。交直両用電車は、あのアダプターの超巨大版を車体に積んでいると考えてください。そう思うと、なんだか少し身近に感じられませんか?
なぜ日本には「直流」と「交流」の2種類があるの?
「最初からどっちかに統一しておけば良かったのに!」と、誰もが一度は思いますよね。でも、これには日本の鉄道が歩んできた、涙なしでは語れない(?)深い歴史と事情があるんです。
一言で言うと、「明治時代の技術」と「戦後の最新技術」が、仲良く同居してしまった結果なんですね。
明治から続く歴史と「コスト」のせめぎ合い
日本の鉄道が始まった明治時代、技術的に簡単だったのは「直流」でした。そのため、東京や大阪といった大都市の路線は、まずは直流で整備されました。
ところが、戦後になって「もっと長距離を、もっと効率よく走らせたい」というニーズが高まったとき、海外から画期的な「交流」の技術が入ってきました。交流は直流よりも高い電圧で電気を送れるため、設備が安く済むという大きなメリットがあったのです。
ここで日本は悩みました。「全部直流にするか、それとも新しい交流にするか……」。結局、「都会は今のまま直流、これから作る地方は安くて効率的な交流」という、二兎を追う道を選んだのです。
都市部は直流、地方は交流という棲み分けの理由
なぜ都会は直流で、地方は交流なのでしょうか?それは「どこにお金をかけるか」の違いなんです。
直流は、電車の作りがシンプルで安く済みますが、数キロおきに変電所を作らなければならず、地上設備に莫大なお金がかかります。電車がひっきりなしに走る都会なら、車両を安くたくさん作る方がおトクですよね。
逆に交流は、車両は高くなりますが、変電所は数十キロおきで済み、地上設備が劇的に安くなります。めったに電車が来ない地方の長い路線なら、地上設備をケチる方が賢い選択だったというわけです。
日本を南北に分ける電気の境界線マップ
大まかに言うと、東海道線などの古くからの幹線は「直流」、東北・北海道・九州・北陸などは「交流」という勢力図になっています。
そして、その勢力がぶつかり合うポイント……例えば「取手駅(千葉県と茨城県の境)」や「黒磯駅(栃木県)」、「敦賀駅(福井県)」などが、交直両用電車が本領を発揮するステージとなりました。日本を旅するときに「あ、ここから電気の種類が変わるんだな」と意識してみるのも、通な楽しみ方ですよ。
電気が消える瞬間!?「デッドセクション」の驚きの正体
さあ、いよいよ交直両用電車の「見せ場」についてお話ししましょう。
直流と交流の線路が切り替わる場所には、「デッドセクション(死電区間)」と呼ばれる、電気が全く流れていない数秒間のスキマが存在します。ここを通る瞬間、電車には不思議な現象が起きるんです。
なぜショートを防ぐために「無電区間」が必要なのか
もし、直流の電線と交流の電線を直接繋いでしまったらどうなると思いますか?
答えは、大爆発です!性質の違う電気がぶつかり合い、一瞬でショートして変電所の設備を焼き切ってしまいます。これを防ぐためには、電線の間に「プラスチックなどの電気が流れない素材で作られた、中立地帯」を作るしかありません。
長さにして数十メートルから数百メートル。この間、電車はパンタグラフが電線に触れてはいるものの、電気は1円分も流れてきません。
運転士の腕の見せ所!デッドセクション通過の裏側
電気が流れていない区間を、電車はどうやって進むのでしょうか?
答えは、「進入する前の勢い(惰性)」で突っ切るんです!
デッドセクションに入る直前、運転士さんは加速をやめ、電車の電気回路を切り替える準備をします。そして、電気が流れていない区間をスーーッと「空走」します。この数秒の間に、車内の回路を「交流用」から「直流用」へガチャンと物理的に切り替えるのです。
最近の電車は「消えない」?バッテリー技術の進化
昔の電車は、デッドセクションに入ると車内の照明がパッと消え、予備の非常灯だけが灯るという、少し不気味でワクワクする光景が見られました。
しかし、最新のE531系などは高性能なバッテリーを積んでいるため、照明が消えることはありません。それでも、よく耳を澄ませてみてください。空調の「ゴーッ」という音が止まったり、照明がほんの少し暗くなったりしませんか?それは、電車が電気の壁を必死に乗り越えている、頑張りの証拠なんですよ。
交直両用電車のメリットと「意外な弱点」を暴露
どんな場所でも走れる交直両用電車は、一見すると無敵のように思えます。でも、実は鉄道会社を悩ませる「大きな弱点」も抱えているんです。
良い面と悪い面、両方を知ることで、この電車への愛着がさらに深まるはずです!
最大の利点は「乗り換えなし」という圧倒的な快適さ
最大のメリットは、何といっても「直通運転ができること」に尽きます。
もし交直両用電車がなければ、東京から茨城や福島へ行く際、電気の切り替わりポイントで全員が荷物を持ってホームを移動し、別の電車に乗り換えなければなりませんでした。
「座ったまま目的地まで行ける」という現代の当たり前は、この複雑な電車が存在しているからこそ成り立っているんです。これは、私たち乗客にとっては計り知れない恩恵ですよね。
デメリットは「値段が倍以上」で「重すぎる」こと
さて、ここからはちょっとシビアなお金の話です。
交直両用電車は、普通の直流専用の電車に比べて、お値段が「1.5倍から2倍」もします。1両あたり数千万円から1億円以上の差が出るとも言われています。理由は単純で、車内に巨大な変圧器や切換スイッチなど、高価な精密機械をたくさん積んでいるからです。
さらに、もう一つの弱点が「重さ」です。重たい機械を積むと車体が重くなり、加速が悪くなるだけでなく、走るたびに線路を痛めてしまいます。
線路へのダメージ?重い車体が引き起こすメンテナンスの苦労
車体が重くなると、ブレーキをかけた時の線路への負担も増えます。すると、線路の砂利がズレたり、レールがすり減ったりするのが早くなるんです。
つまり、交直両用電車は「車両を買う時も高い」し、「走らせるための電気代もかかる」し、「線路のメンテナンスも大変になる」という、鉄道会社にとってはなかなか手のかかる「金食い虫」な一面もあるんです。それでも直通運転のために走り続ける姿は、まさに健気そのものだと思いませんか?
日本を代表する「有名な交直両用電車」を徹底紹介
「交直両用電車」と言われてもピンとこないかもしれませんが、実はあなたがよく見かけるあの電車がそうかもしれません。
ここでは、日本を代表するスター級の交直両用車両たちをご紹介します。
常磐線のエース「E531系」の屋根上が凄い!
首都圏で最も有名な交直両用電車といえば、JR東日本の「E531系」です。上野東京ラインなどで都心を走り、そのまま茨城県の交流区間まで突っ込んでいく、まさに常磐線のエースです。
この電車の凄さを見分けるには、ぜひ「屋根の上」を見てみてください。山手線などの直流電車は屋根の上がスッキリしていますが、E531系は違います。碍子(がいし)と呼ばれる白いセラミックの部品や、複雑な配線がズラリと並んでいます。これこそが、高電圧の交流に耐え、瞬時に電気を切り替えるための「戦闘装備」なんです。
つくばエクスプレスが交流を採用した「大人の事情」
秋葉原からつくばまで爆走する「つくばエクスプレス(TX)」。この路線も、守谷駅から先が交流になっています。
なぜ、わざわざ交流にしたのでしょうか?そこには、茨城県石岡市にある「気象庁地磁気観測所」という施設の存在があります。直流を流すと磁場が発生し、地球の磁気の精密な観測を邪魔してしまうんです。
そのため、法律で「この付近は直流にしちゃダメ!」と決まっており、つくばエクスプレスは高いお金を払って交直両用電車を導入せざるを得ませんでした。最新の「TX-3000系」などは、あんなにハイスペックでかっこいい見た目をしていますが、実はそんな「地元の観測所を守る」という優しい使命も背負っているんですよ。
伝説の機関車「EF81」から最新特急「E657系」まで
電車だけでなく、交直両用の「機関車」も忘れてはいけません。かつて北斗星やカシオペアなどの寝台特急を牽引した「EF81形」は、日本中の直流・交流すべてのエリアを走れる伝説のマシンとして愛されました。
また、現在の常磐線特急「ひたち」「ときわ」に使われている「E657系」も、交直両用です。最高時速130kmで、電気の壁を一切感じさせずに滑らかに走り抜けるその姿は、日本の鉄道技術の到達点の一つと言えるでしょう。
これからの鉄道と交直両用技術の明るい未来
技術は日々進化しています。かつては「重くて高価」と言われた交直両用車も、2026年現在はさらなる変革の時期を迎えています。
蓄電池電車(バッテリー)は交直両用車に取って代わる?
最近では、「デッドセクションを通るためだけに高い電車を作るのはやめよう」という動きも出ています。
その解決策が「蓄電池電車」です。切り替え区間だけバッテリーで走ってしまえば、わざわざ高い交流用のメカをフル装備する必要がありません。JR東日本の「ACCUM(アキュム)」やJR九州の「DENCHA」などがその先駆けです。将来、短い境界線を越えるだけの路線では、交直両用車は姿を消していくかもしれません。
SiCパワー半導体が変える!軽くて速い次世代の電車
一方で、交直両用車自体も「ダイエット」に成功しつつあります。
最新の「SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体」という魔法の新素材を使うことで、電気を変換する装置を劇的に小さく、軽くできるようになりました。これにより、「重たくて線路を痛める」という最大の弱点が克服されつつあります。
地方路線を守るための「マルチプレイヤー」としての使命
人口減少が進む地方において、高価な交直両用車の維持は大きな課題です。しかし、都会から一本の電車で繋がっていることは、その地域の観光や経済を守るための命綱でもあります。
交直両用電車は、単なる乗り物ではなく、「異なる環境を繋ぎ、人々を結びつける架け橋」。そんな誇り高い使命を持って、今日も日本のレールのどこかで電気の壁と戦い続けているのです。
まとめ:交直両用電車は、日本の鉄道が誇る「縁の下の力持ち」
いかがだったでしょうか?「交直両用電車とは」という素朴な疑問から、その裏に隠された壮大な歴史や最新技術まで、たっぷりとご紹介してきました。
最後に、この記事の重要ポイントを振り返りましょう。
- 交直両用電車は、直流と交流の「電気の壁」を1台で越えられる万能な電車である。
- 車内に変圧器などの「ミニ変電所」を積んでいるため、普通の電車より高価で重い。
- デッドセクションでは、ショートを防ぐために電気が切れた区間を勢いで走り抜ける。
- 常磐線やつくばエクスプレスなど、私たちの「乗り換えなしの旅」を支える主役。
- 最新のバッテリー技術やSiC素材によって、さらなる進化を続けている。
これから電車に乗るとき、もし屋根の上が複雑な形をしていたり、車内の明かりが一瞬フワッと変化したりしたら、それはこの健気な「マルチプレイヤー」が頑張っている証拠です。そんな瞬間に出会えたら、ぜひ「あ、今魔法を使ったな」と、心の中でニヤリとしてみてくださいね。










