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CBTC+SaaS型運行管理 による相互直通運行一元化のアイデア

株式会社MR.Nexus

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都市鉄道ネットワークの広域化が進む中、従来型の分散的な運行管理では、ダイヤ乱れ時の迅速な対応や直通区間全体での安定運行の確保が困難になりつつあります。特に、複数事業者が直通運転を行う広域区間では、異常時対応の遅れや管理責任の分散が慢性的な課題となっています。本記事では、欧州都市鉄道の最新動向を踏まえ、CBTC(無線式列車制御)とSaaS型運行管理の組み合わせによる運行管理一元化モデルを提案し、次世代都市鉄道の在り方を考察します。

 

背景:広域直通運行における課題

都市鉄道における相互直通運転の拡大は、利用者利便性向上に大きく寄与してきました。しかし一方で、以下のような課題が顕在化しています。

  • 異常時の運行調整に時間がかかり、遅延波及を招く
  • 各社の指令系統・運行優先順位が異なるため、即応性に欠ける
  • 営業主体と運行管理主体が異なることで、責任分界が曖昧になりやすい

とりわけ、長距離・多事業者にまたがる直通区間では、列車運行の一元的制御と復旧体制の整備が急務となっています。

 

欧州の動向:欧州におけるCBTCとSaaS型運行管理の進展

欧州では、CBTCとクラウドベース運行管理の実証と導入が加速しています。

  • コペンハーゲンメトロ(Cityringen):CBTC制御とクラウド型運行管理を組み合わせ、完全自動運転(GoA4)を実現
  • マドリード地下鉄:CBTC+クラウド型障害監視システム(Railigentなど)によるリモート運行管理体制の構築
  • パリ地下鉄14号線:CBTCとクラウドデータ連携により、広域区間の統合運行管理を検証

これらの取り組みは、CBTCによるリアルタイム列車位置制御と、SaaS型運行管理による柔軟な指令運用の両立を目指す潮流を象徴しています。

 

提案:CBTC+SaaS型運行管理による一元化モデル

本記事では、以下のモデルを提案します。

  • 列車間隔管理: CBTCにより、無線でリアルタイムの列車間隔最適化を実現
  • 運行管理システム: SaaS型クラウド基盤で、複数事業者間の運行情報・指令を一元管理
  • 指令権限: 中央運行管理者が統括し、直通列車も含めた一体制御を行う

 

対象となる国内の相互直通運転路線

本提案モデルの導入対象となり得る相互直通運転路線は次の通りです。

  • 東急田園都市線東京メトロ半蔵門線東武スカイツリーライン
  • 相鉄線 ⇄ 東急新横浜線・東横線 ⇄ 東京メトロ有楽町線・副都心線東武東上線西武池袋線
  • 小田急小田原線 ⇄ 東京メトロ千代田線 ⇄ JR常磐線
  • 東急目黒線 ⇄ 東京メトロ南北線埼玉高速鉄道線
  • 京急本線都営浅草線 ⇄  京成押上線北総鉄道北総線

 

費用負担と収支モデル案

  • 工事費: 各社が自社設備改修費を負担し、負担水準を均衡化
  • 運行管理費: 直通事業者が中央運行管理主体に運行管理費を支払う
  • 収支運用: SaaS維持費・CBTC修繕費に充当。Cost Recovery型運用を基本とする
  • 透明性確保: 年次収支報告書を作成・共有し、費用妥当性を担保

 

想定されるメリット・デメリット

事業者 メリット デメリット
運行管理主体 運行安定性向上、保守コスト分担効果 責任集中リスク、初期投資負担
直通先A 遅延回復力向上、システム近代化による効率化 自社裁量縮小リスク、初期投資負担
直通先B 輸送力向上、運行品質向上 運行権限の一部委譲、費用負担増

 

行政・事業者同士の交渉ポイント

  • 営業免許構造を維持しつつ、運行管理を共同体制で整備
  • クラウド利用はセキュリティガイドライン準拠+災害時バックアップ完備
  • ダイヤ策定は合議制とし、直通先の意向を尊重
  • 費用配分と効果を定量化し、透明性を担保

 

要点まとめ

  • 相互直通運行における運行管理一元化は、鉄道ネットワークの持続可能性向上に直結する
  • CBTC+SaaS型管理により、柔軟な運行調整と迅速な異常時対応が可能となる
  • 公平な負担設計と制度整備を通じて、各社の合意形成を図る
  • 国内鉄道における広域ネットワーク運行の未来像を描く先進事例となる可能性が高い

 

補足:本記事の位置づけについて

本記事は、現在進行中の公式なプロジェクトや特定の鉄道事業者の計画を示すものではありません。現時点で、各社から「CBTC+SaaS型運行管理による直通運行一元化」に関する公式な発表や計画は行われておらず、本提案は、将来的な技術潮流や都市鉄道運行高度化ニーズを踏まえた、Mobility Nexus独自の検討提案となります。

今後の技術発展や制度設計の進展に伴い、類似の動きが実現する可能性はあるものの、現時点ではあくまで一つの方向性提案であることを、あらかじめご理解ください。

 

用語解説

CBTC(無線式列車制御システム)とは

CBTC(Communication-Based Train Control)とは、列車の位置情報や速度情報を無線通信によってリアルタイムで取得し、列車間隔を動的に管理する運行制御方式である。従来の軌道回路による固定閉塞制御とは異なり、地上信号機に依存せず、列車同士の間隔を柔軟に調整できるため、高密度運行や運行柔軟性の向上に寄与する。都市鉄道においては、混雑緩和やダイヤ回復力向上を目的に導入が進んでおり、無線品質やシステム冗長性が安全運行の鍵を握る技術である。

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SaaS(サービス型ソフトウェア提供)とは

SaaS(Software as a Service)とは、ソフトウェアをクラウド上に設置し、インターネット経由でサービスとして提供する形態を指す。従来型のようにユーザー側でインストールや管理を行う必要がなく、常に最新バージョンの機能を利用できる点が特長である。運行管理システムをSaaS型で提供することで、導入コストや運用負担を抑えつつ、リモートアクセスや障害時の迅速な対応が可能となる。鉄道運行の効率化やBCP(事業継続計画)強化に資する技術基盤である。

運行管理とは

運行管理とは、列車の運行計画(ダイヤ)に基づき、列車の現在位置を常時把握しながら、列車間の安全な間隔維持、ダイヤ遵守、異常時対応を指令・制御する業務全般を指す。通常時はスムーズな列車運行を維持し、事故や設備故障、災害発生時には迅速かつ適切な対応判断を行う必要がある。都市鉄道では、運行管理の高度化が混雑緩和や輸送力向上に直結するため、指令システムの刷新やAI・自動化技術との連携も注目されている分野である。

相互直通運転とは

相互直通運転とは、異なる鉄道事業者が運行する路線同士を相互に乗り入れることで、乗り換えなしで複数路線を直通移動できる運行形態を指す。利用者利便性向上や都市間アクセスの強化に大きな効果がある一方、ダイヤ設定、列車仕様統一、運行管理・保守責任分担など、事業者間での高度な調整が必要となる。特に広域直通区間では、異常時の対応方針や優先順位の統一が課題となっている。

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