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ブロックチェーンによる運賃決済とは?将来の収益分配技術のアイデアを紹介!

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Web3やデジタル通貨、スマートコントラクトといったキーワードが金融業界を中心に急速に浸透する中、公共交通分野でも「ブロックチェーン」の可能性が評価されています。特に、MaaS(Mobility as a Service)の発展に伴い、複数事業者間の収益分配や補助金の根拠データの透明化といったニーズが高まる今、公共交通業界にとっての「ブロックチェーン型決済インフラ」の実用化が現実味を帯びてきました。

本記事では、地方交通・MaaS・自治体補助制度など、公共交通を取り巻く複雑な構造の中で、ブロックチェーンが果たしうる役割を多角的な視点から整理します。

 

目次
  1. 背景:なぜ公共交通にブロックチェーンが必要なのか
  2. ブロックチェーンの基本と公共交通への適合性
  3. 国内実証事例:DCJPYによるブロックチェーン型バス運賃決済
  4. 想定ユースケースとニーズの構造
  5. 導入に向けた技術・制度の課題
  6. 導入フェーズ別のモデルケース一覧表
  7. 導入チェックリスト(制度・技術・運用)
  8. 導入後のKPI(重要業績評価指標)設計例
  9. ブロックチェーン型運賃決済におけるSLA(サービスレベルアグリーメント)例
  10. 要点まとめ
  11. 用語解説
  12. Mobility Nexusの視点

背景:なぜ公共交通にブロックチェーンが必要なのか

交通系ICカードの限界

SuicaやPASMOなどの交通系ICカードは、日常の移動を便利にした一方で、事業者間での収益分配や自治体への報告など「裏側の業務」は複雑化しています。特にMaaSが広がる中で、

  • 「ひとつの乗車」で複数事業者が関与するケース
  • 自治体補助対象の利用記録との整合性確保
  • 外部プラットフォーム(MaaS事業者)との連携

といった複雑性が増し、既存の「閉じたシステム」では対応が難しくなりつつあります。

MaaSと収益分配のブラックボックス化

多様な交通サービスを一元的に利用可能にするMaaSは、利用者にとっては便利ですが、事業者間で「誰がどれだけ収益を得るべきか」の透明性は課題です。紙の乗車券や定額制アプリでは特にこの課題が顕著で、

  • 運賃の分配基準が非公開
  • 自治体からの補助金精算が困難
  • 不公平な分配による事業者間の信頼悪化

といったリスクが存在しています。

自治体と補助金制度の変化

赤字交通に対する自治体補助金は、近年「定量的根拠に基づく補助」へとシフトしており、「どの区間で誰が使ったか」を正確にトレースするニーズが高まっています。しかし現行のICカード基盤ではデータ連携や透明性に限界があります。

 

ブロックチェーンの基本と公共交通への適合性

ブロックチェーンとは何か

ブロックチェーンとは、すべての取引情報(トランザクション)を一定のルールでまとめた「ブロック」を時系列で連結し、改ざん不可能な状態で記録し続ける分散型台帳技術です。各ブロックには前のブロックの情報(ハッシュ値)が含まれており、途中のデータを変更するとそれ以降の全データが無効になる仕組みです。

この仕組みにより、中央集権的な管理者がいなくても、信頼性と整合性を維持できるという特性を持ちます。代表的な活用例として、以下が挙げられます:

  • 暗号資産(ビットコイン、イーサリアムなど)
  • 金融業界における国際送金・スマートコントラクト
  • サプライチェーン管理(トレーサビリティ)
  • 投票システムや土地登記の透明化
  • 中央銀行デジタル通貨(CBDC)や企業発行ステーブルコイン

近年は「パブリック型」だけでなく、「プライベート型」「コンソーシアム型」といった業務用途に応じたブロックチェーンも登場し、公共インフラや交通分野でも応用が検討され始めています。

公共交通との適合性:なぜブロックチェーンが有望なのか

1. 分散管理による事業者連携の容易さ

鉄道・バス・タクシー・シェアサイクルなど、交通分野は元来「複数の事業者が個別に運営」されている構造です。MaaSのような横断的サービスが増える中で、収益や利用実績を公平に管理・共有するためには、中央集権型の基幹システムではなく、分散型のブロックチェーンが有効です。

コンソーシアム型ブロックチェーンを活用すれば、各事業者が自社の台帳を保ちつつ、共通のルールで記録を行うことができます。

2. 透明性の担保による信頼性の向上

交通業界において「収益の分配」や「補助金算出」は、しばしば事業者間・自治体間で不透明さが指摘される領域です。ブロックチェーンを導入することで、各トランザクション(例:乗車地点、時間、金額、事業者名)が台帳上に記録され、第三者(監査機関、自治体、住民)に対しても開示可能となります。

この透明性は、特に地方自治体が補助金を投入する際の合理的根拠提示や、MaaS運営会社による分配の正当性説明に大きな利点をもたらします。

3. スマートコントラクトによる自動化

ブロックチェーン上では、「一定の条件を満たしたときに、自動的に契約を実行する」スマートコントラクトを組み込むことが可能です。公共交通においては、たとえば以下のような活用が考えられます:

  • 乗客の移動履歴に応じた運賃の自動決済
  • 運行実績に応じた事業者間の収益自動分配
  • 特定条件(例:高齢者割引、災害時無料化)を満たす際の運賃減免
  • 交通需要が閾値を超えた場合の動的料金制導入

これにより、煩雑な精算処理や人手による報告業務を大幅に削減しつつ、公平性を担保することができます。

4. 信頼の「第三者的管理」が不要に

従来、複数事業者が関与する交通サービスでは、「プラットフォーム提供者」「自治体」「商社」などが中間管理者として調整役を担ってきました。しかしその分、費用や政治的な駆け引きも発生しがちです。

ブロックチェーンでは、技術的に担保された「信頼の仕組み」によって、事業者同士が直接記録・参照・精算を行えるため、中央管理コストを抑制しつつ、より迅速で柔軟な連携が可能になります。

5. 環境価値や属性情報との連携

今後の交通政策では、環境価値(CO2削減量、非化石証書など)やユーザー属性(学割、高齢者、観光客など)との連携が不可欠です。ブロックチェーン上に属性や証明書のトークンを紐づけることで、パーソナライズされた運賃設計や補助制度が可能になります。

 

国内実証事例:DCJPYによるブロックチェーン型バス運賃決済

実証の概要

2023年3月、ディーカレットDCPが事務局を務める「デジタル通貨フォーラム」の電力取引分科会サブグループAが、大阪府茨木市にて、ブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨「DCJPY(仮称)」を使ったバス運賃決済の実証実験を実施しました。

この実証では、電力P2P取引の環境価値が記録されたDCJPYを活用し、阪急バスの実証車両でモニターが実際に乗降・支払いを行いました。DCJPYは模擬的に発行され、実際の法定通貨とは連動していない実験用通貨として運用されました。

目的と意義

  • ユーザーが保有する環境価値を公共交通機関へ移転できるかを実証
  • 環境価値が運賃の対価として成立するかを検証
  • ブロックチェーンでの取引記録可視化・透明性の有効性を検証
  • 公共交通と環境エネルギー政策の連携モデルを構築

実施内容

  • 場所:大阪府茨木市
  • 対象:阪急バスによる実証運行
  • 乗車方式:一般利用は不可、モニターによる専用乗車
  • 決済手段:模擬発行されたDCJPY+環境価値付き

参加企業と役割

  • 関西電力株式会社(幹事):全体設計と電力関連インフラの提供
  • 株式会社ディーカレットDCP(事務局):DCJPY基盤・フォーラム運営
  • 阪急阪神ホールディングス株式会社:交通事業者連携と現場提供
  • 株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ):通信技術・インフラ支援
  • 中部電力株式会社、株式会社ローソン:環境・地域流通視点からの参画
  • 協力:阪急バス株式会社:実証対象となるバス運行および現地対応

この実証が示したもの

  • 環境価値を活用した次世代型公共交通モデルの可能性
  • 分散台帳による透明な補助金連携・決済処理の実現性
  • 異業種(電力・交通・金融・IT・小売)間での協業モデルの具体化

参考リンク

 

想定ユースケースとニーズの構造

地方MaaSの透明な収益分配

地方都市では、複数の公共交通事業者(バス、鉄道、タクシー、シェアモビリティなど)がMaaSを通じて連携する事例が増えています。一方で、「利用者が支払った運賃をどの事業者がどの割合で受け取るのか」は、依然としてブラックボックス化しやすい問題です。

この背景には、以下のような課題があります:

  • MaaS事業者が集計した利用データを事業者に開示しないケース
  • 利用区間やサービスの定義が曖昧なため、正当な配分が困難
  • 定額制プランにより「乗車数」ではなく「全体パッケージ売上」に依存する構造

ブロックチェーンを活用すれば、利用トランザクションがリアルタイムかつ透明に記録され、スマートコントラクトに基づくルールで各事業者に分配されるため、フェアで説明可能な収益構造を確立できます。地方MaaSにおいて特に重要な「信頼による連携」を支える基盤として期待されます。

補助金制度に対するリアルタイムな根拠提供

地方自治体が行う公共交通への補助金支給には、明確な「根拠となる実績データ」が求められます。従来は、事業者による報告ベース(Excel提出や日報集計)での補助申請が一般的であり、遅延や改ざんリスク、監査対応の負担が課題となっていました。

ブロックチェーンを活用すれば、以下のような形で制度設計の透明性を高めることが可能です:

  • スマートコントラクトにより、乗車履歴・運賃・利用者属性を自動記録
  • 補助金算出ロジック(例:利用回数 × 支援単価)をコード化
  • 自治体がノードとして参加すれば、リアルタイムでの閲覧・監査が可能

これにより、補助金交付プロセスの効率化と説明責任の強化が両立され、自治体・議会・住民への説明もスムーズになります。

学割・高齢者優遇などの属性連携

公共交通では、学割、障害者割引、高齢者割引など、属性に基づく運賃割引制度が各地で導入されています。従来はICカードへの事前登録や証明書の提示が必要であり、特に一時利用者や観光客にはハードルが高い仕組みでした。

ブロックチェーンとデジタルIDを組み合わせることで、以下のような改善が期待できます:

  • デジタルIDに属性情報を連携(例:学生証・マイナンバー・自治体認証)
  • スマートコントラクトで条件に合致すれば自動的に割引運賃を適用
  • 利用者にとっては、アプリやウォレットだけで完結するスムーズな体験

これにより、制度の利用促進、行政コストの削減、利用者満足度の向上が同時に実現可能となります。

 

導入に向けた技術・制度の課題

技術標準化の欠如

ブロックチェーンを本格的に公共交通に適用するには、以下のような技術的標準の整備が不可欠です:

  • スマートコントラクトの記述言語・実行条件の標準化
  • トランザクション項目(乗車区間、日時、運賃、利用者IDなど)の共通フォーマット
  • ノード構成(誰が運用し、どう監視するか)のモデル整備

現在は各実証実験ごとに仕様が異なり、全国展開や他事業者との相互運用が困難な状況です。国交省・経産省などが中心となって、民間MaaS事業者や交通事業者、自治体と連携した「公共交通ブロックチェーン標準」の策定が必要です。

法制度との整合性

現行の運賃制度・補助制度・個人情報保護制度との整合性も課題です。たとえば:

  • 運賃改定には国や自治体の認可が必要であり、決済手段の変更は制度変更に抵触する可能性
  • 補助金算定の基準が紙ベースまたはICカードに限定されていることが多く、ブロックチェーン台帳が公的記録として認められていない
  • スマートコントラクト上の個人データ(属性、行動履歴など)の取扱いに関するガイドラインが未整備

これらの点をクリアにしない限り、制度運用側との齟齬が生じ、実証実験止まりで実装に至らない可能性が高くなります。

ノード運用とセキュリティ

交通事業者・MaaSベンダー・自治体が共同で運用するコンソーシアム型ブロックチェーンを構築する場合、ノードの責任分担とセキュリティ対策が大きな論点となります。

  • どの組織がどのノードを運営するのか(運行事業者?自治体?ベンダー?)
  • ノード障害時の対応、冗長性設計、通信セキュリティの基準
  • 不正アクセスや改ざん検知、ログ監視体制の構築

公共交通は「止まってはいけないインフラ」であるため、システムの可用性と信頼性の確保は絶対条件です。情報セキュリティポリシーと運用マニュアルをあらかじめ策定することが導入の前提条件となります。

 

導入フェーズ別のモデルケース一覧表

※本表とチェックリストは、Mobility Nexusが独自に作成したものです。
公共交通業界における技術導入の実務を支援する目的で、フェーズ別導入モデルと制度・技術・運用の3カテゴリに基づいた初期検討項目を体系化しています。

特に、ブロックチェーンのような横断的・分散型の新技術は、「導入可能かどうか」を検討する際に、技術スペックだけでなく、制度との整合性、運用責任、既存インフラとの接続性といった複数の視点が必要となります。

Mobility Nexusでは、こうした技術の導入検討を「一部門の試行錯誤」に留めず、部門横断での意思決定を可能にするテンプレート提供と「共通言語の設計」によって、業界全体の技術成熟と意思決定速度の向上を支援しています。

フェーズ 内容 対象エリア 導入主体
フェーズ0 模擬的な実証実験を閉域環境で実施。DCJPYを活用した実験のように、実通貨は使わずブロックチェーンの仕組みのみを検証。
データ連携・決済シミュレーション・スマートコントラクトの挙動確認が中心。
単一バス路線・小規模自治体 民間企業+大学・研究機関
フェーズ1 MaaSプラットフォームに参加する複数の交通事業者間での収益分配を、スマートコントラクトで部分的に自動化。
通常運用と並行してテスト的に導入し、乗車履歴のトークン化や補助金連携の検証も行う。
中規模都市(例:人口10万〜30万人) 地方自治体+MaaS事業者
フェーズ2 ブロックチェーン上の利用履歴を正式な補助金申請資料として活用し、交通政策・監査に組み込む。
各自治体の交通局・監査部門がノードとして参加し、ガバナンス・セキュリティ体制を整備。
都道府県単位・広域交通圏 交通局・会計監査部門・政策調整部
フェーズ3 国主導で全国的な制度化を進め、MaaS全体のデジタル運賃・補助・環境価値連携を統合。
ブロックチェーン標準仕様を国交省・経産省・地方公共団体が共同策定し、全国導入を段階的に展開。
全国の交通連携エリア 国(国交省・経産省)+標準化団体+広域連合

 

導入チェックリスト(制度・技術・運用)

制度面

  • 法的認可の取得可否: ブロックチェーンによる運賃決済が、交通政策上の運賃制度(認可運賃・自由料金)に適合しているか
  • 補助金交付との整合: 利用履歴・乗車実績データが、自治体補助金制度の根拠データとして適格か
  • 個人情報・プライバシー保護: デジタルIDや属性情報が、個人情報保護法・自治体ガイドラインに準拠しているか

技術面

  • スマートコントラクトの柔軟性: 補助金制度変更・割引条件変更などに対応可能な設計か
  • 既存MaaSとのAPI連携性: モバイルチケットや交通系ICとの併存・連携が現実的か
  • フェイルセーフ設計: ノード障害・データ欠損時の代替措置や復旧計画が明確化されているか

運用面

  • ノード維持管理体制: 誰がノードを保守し、監視・更新を行うかが明確になっているか
  • アカウント認証とセキュリティ: 利用者・事業者・自治体のアクセス権限とログ記録設計が適切か
  • 教育・人材育成: スマートコントラクトや運用ノードに関わる職員の育成体制が整っているか

 

導入後のKPI(重要業績評価指標)設計例

1. 制度・透明性に関するKPI

  • 補助金算定にブロックチェーン台帳を活用した事業数(件)
    → 自治体補助制度における正式活用の進捗度
  • 監査対応時間の削減率(前年同月比)
    → 補助金交付に関する証憑確認や審査負担の軽減を定量評価
  • 収益分配ルールの開示率(公開プロトコル化された割合)
    → スマートコントラクトによる「説明可能な分配構造」の達成度

2. 運用・技術に関するKPI

  • 台帳整合性の維持率(連続運用日数中エラーなし日数割合)
    → 障害や不整合のない安定運用を達成できているか
  • ノード稼働率(24h×365日換算での実稼働時間割合)
    → 分散台帳としての可用性を数値化
  • 仕様変更対応時間(スマートコントラクト変更から実装までの平均日数)
    → 制度変更や割引制度追加に対する柔軟性を測定

3. 経済性・利用者メリットに関するKPI

  • 事業者間精算処理の時間短縮率(従来方式比)
    → 月次・四半期ベースの精算業務時間がどれだけ削減されたか
  • 利用者ごとの割引適用精度(誤適用率)
    → 学割・高齢者割引などがスマートコントラクトで正しく機能しているか
  • 新規登録ユーザー数(デジタルID・ウォレット利用者数)
    → 利用者にとっての受容性・浸透度を示す

補足:KPIの運用フロー設計

これらのKPIは、導入後の3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月単位で追跡し、MaaS事業者や自治体がダッシュボード形式で可視化することが望ましいです。KPI評価をもとに、次の施策(例:追加事業者の参加、割引制度拡充、標準API化の推進など)につなげる運用設計が必要です。

 

ブロックチェーン型運賃決済におけるSLA(サービスレベルアグリーメント)例

このSLAは、MaaS事業者が提供するブロックチェーン型運賃決済基盤について、交通事業者・自治体と締結する際に想定される主要項目を整理したものです。信頼性・透明性・継続性を担保するための運用基準を明文化することが目的です。

1. 可用性(Availability)

  • 台帳アクセスの可用性保証: 年間99.95%以上(ダウンタイム4時間以内/年)
  • ノードの稼働率: 各ノードは24時間365日稼働。定期メンテナンスは事前通知制(最低72時間前告知)

2. 障害対応(Incident Response)

  • 重大障害発生時の初動対応時間: 発見から30分以内に関係者へ速報連絡
  • 復旧目標時間(RTO): 通常障害は4時間以内、重大障害は12時間以内に復旧完了を目指す
  • 恒久対策の共有: 重大障害に対しては7営業日以内に原因報告・対策レポートを提出

3. スマートコントラクトの管理

  • 改修依頼対応時間: 軽微な修正は5営業日以内、制度変更対応等の中規模改修は20営業日以内に反映
  • コードレビュー: スマートコントラクトは第三者機関によるセキュリティレビューを年1回実施

4. データ保全・監査

  • トランザクションデータの保持期間: 少なくとも10年間
  • 監査証跡(Audit Log)の提供: 指定期間の取引履歴をCSV形式等でダウンロード可能に
  • 補助金連携自治体への定期レポート: 月次で利用実績と分配記録をPDF+CSVで提出

5. セキュリティとアクセス管理

  • アクセス制御: 各参加機関は管理者・監査者・操作専用アカウントを分離管理
  • 多要素認証(MFA): 管理者アカウントはMFAを義務化
  • 第三者による脆弱性診断: 年2回以上、外部ベンダーによるセキュリティ診断を実施

6. サポート・問い合わせ対応

  • 通常問い合わせ対応: 営業時間内(平日9:00〜17:00)、1営業日以内に一次対応
  • 緊急時対応: 専用ホットラインまたは緊急連絡フォームを用意。即時対応

7. SLA違反時のペナルティ

  • 可用性未達成時は、当該月の利用料の10〜30%を返金
  • 重大障害で運行に支障が出た場合、損害補填上限額を事前に設定
  • レポート遅延や不正確な分配が判明した場合、是正対応計画の提出義務

8. 更新と見直し

  • 年1回、関係者によるSLA見直し会議を実施
  • 制度改正・運賃制度変更などに応じて随時調整可

 

要点まとめ

  • 公共交通の多事業者化・MaaS化が進む中で、収益分配の透明化・自動化ニーズが急速に高まっている
  • ブロックチェーンは、非中央集権性・改ざん耐性・スマートコントラクトによる自動処理により、複数事業者が関与する交通連携に極めて高い適合性を持つ
  • 国内ではDCJPYによるバス運賃決済実証(阪急バス・関西電力・ディーカレットDCP等)により、制度連携や環境価値との統合も視野に入った活用が始まっている
  • 制度的な整備(法令との整合)、技術標準の策定(スマートコントラクト/API仕様)、ノード運用体制(責任分担とセキュリティ)が導入拡大の鍵を握る

 

用語解説

ブロックチェーン(Blockchain)

取引データを一定間隔で「ブロック」にまとめ、時系列順に「鎖(チェーン)」のようにつなげて保存する技術。すべての参加者が同じデータを持つ「分散型台帳」として運用され、記録の改ざんが困難であることが特徴。金融・物流・行政など幅広い分野で活用が進んでいる。

スマートコントラクト(Smart Contract)

あらかじめ定めた条件が満たされたときに、プログラムが自動的に契約内容を実行する仕組み。例として「乗車履歴に応じて自動的に運賃を分配する」など、人的介在なしで正確な処理が可能となる。

DCJPY(ディーシージェーピーワイ)

ディーカレットDCPが推進する日本円連動型のデジタル通貨(ステーブルコイン)。法定通貨と1:1で連動する構想であり、実証実験では模擬通貨として環境価値連携の運賃決済にも活用された。

MaaS(Mobility as a Service)

鉄道・バス・タクシー・自転車・レンタカーなど複数の交通手段を一元的に提供するサービス。スマートフォンアプリを通じて経路検索、予約、決済までを一括して行うことができる。

コンソーシアム型ブロックチェーン

パブリック型(誰でも参加可能)と異なり、信頼関係にある複数の組織(例:交通事業者・自治体・MaaS事業者など)の間で運営される閉域型ブロックチェーン。公共交通や行政用途ではこの方式が一般的。

ノード(Node)

ブロックチェーンネットワークを構成するコンピュータ単位。台帳データの保管、トランザクションの検証、スマートコントラクトの実行などを担う。公共交通分野では、交通事業者や自治体がノードを運営することが想定される。

環境価値(Environmental Value)

再生可能エネルギーの導入などにより創出される「CO2削減効果」や「非化石価値」などの目に見えない価値。ブロックチェーン上に証明付きで記録することで、交通の運賃や補助金制度と連携する試みが進んでいる。

SLA(Service Level Agreement)

サービス提供者と利用者の間で合意される品質保証契約。可用性、復旧時間、サポート対応、障害時のペナルティなどを明記することで、業務インフラとしての信頼性を担保する。

KPI(Key Performance Indicator)

導入後の効果を測定するための「重要業績評価指標」。ブロックチェーン型運賃決済においては、可用性、分配の正確性、補助金算出の合理性などが主な評価対象となる。

 

Mobility Nexusの視点

ブロックチェーンによる運賃決済は、単なる技術導入ではなく、「複数事業者が関与する公共交通の透明性と信頼性をどう確保するか」という根本課題に対する構造的なアプローチです。MaaSの進展、自治体の補助制度改革、環境価値の可視化といった政策潮流と密接に関わっており、今後の制度設計・技術標準化の行方を左右します。

Mobility Nexusでは、こうした技術導入フェーズにおいて、以下のような役割を果たすことを目指しています:

  • 交通事業者・自治体・サプライヤ間の情報整理と知見共有:
    実証事例・製品情報・制度の動向を時系列と構造で体系化し、共通理解の基盤を提供
  • 導入ステップ・チェックリスト・モデルテンプレートの提供:
    比較検討・意思決定・社内説明に使える実務支援ツールを整備
  • 導入事例の可視化・追跡:
    実証止まりで終わらないよう、導入プロセスの可視化とKPI・SLAなどの設計を支援

今後、ブロックチェーン型決済は、単独の実証から「制度・MaaS・自治体補助」の三位一体モデルへと進化するフェーズに入ります。Mobility Nexusはこうした技術の「議論の土台」となる情報プラットフォームとして、業界横断の連携と導入支援に取り組み続けます。

会社名株式会社MR.Nexus

住所〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1丁目11番12号 日本橋水野ビル7階

キャッチコピー公共交通に変革を、技術革新で次世代の安全と効率を

事業内容Mobility Nexus は、鉄道・航空をはじめとする公共交通業界における製品・技術・メーカー情報を整理・集約し、事業者とサプライヤをつなぐ情報プラットフォームです。技術の導入事例や製品比較を体系化し、事業者が現場視点で最適な選択を行える環境を構築しています。
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