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バス×AI の適用領域特集―運行、保守、サービスを支えるAI導入の全体像を解説

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バス業界では、ドライバー不足や採算性の確保といった構造的な課題に直面する中、AI技術の導入が新たな打開策として注目を集めています。特にオンデマンド運行や自動運転、運行管理の最適化など、実証を経て現場展開が進みつつある領域も存在します。本記事では、国内事例をもとにAIの適用領域を体系的に整理し、技術導入を検討する事業者に向けた視点を提供します。

 

バス業界でも導入が進むAI―その適用領域とは?

AI技術のバス業界への適用は、大きく以下の4領域に分類されます。

  • ① 配車・ルート最適化(オンデマンド運行)
  • ② 自動運転支援・遠隔監視
  • ③ 運行管理業務の省力化・判断支援
  • ④ 需要予測・ダイヤ編成の最適化

 

代表的な国内事例とその特徴

①配車・ルート最適化:AIオンデマンド交通

少人数・少区間の移動需要に対応する手段として、AIによるオンデマンド運行が各地で導入されています。

  • 西日本鉄道「のるーと」(福岡市東区)
    スマートフォンアプリや電話予約に応じて、AIがリアルタイムでルートを生成するコミュニティバス。事例ページ
  • 神奈川中央交通「天神町AIバス」(神奈川県藤沢市)
    2023年6月から始まった実証運行。生活圏の細かな移動をカバーするルート設計と乗降管理をAIが担う。
  • NTTドコモ「AI運行バス」
    需要に応じた運行ルート・停留所設定を可能にするクラウドベースのAIシステム。自治体や民間事業者への導入が進む。公式サイト

②自動運転支援・遠隔監視

限定されたエリアでの低速運行を中心に、AIによる自動運転・遠隔監視が現実のものとなっています。

  • 伊予鉄道「自動運転バス」(愛媛県松山市)
    2023年、国内初の営業運行。LiDARとAIを用いた経路認識・障害物検知により、定時性と安全性を両立。業界ニュース
  • 埼玉工業大学「後付け自動運転バス」
    市販車に後付け可能な自動運転キットを開発し、地域バス事業者との実証を展開。AIによる環境認識がカギ。Response.jp記事

③運行管理業務の省力化

AIを用いた配車管理や運行計画の支援により、運行管理者の業務負荷軽減と属人性の排除が図られています。

  • ホクリクコム「貸切バス運行管理システム」
    行程作成や配車計画をAIが支援。繁忙期でも対応可能な業務フローを構築。製品情報

④需要予測とダイヤ編成

過去の利用データやイベント・天候等をもとにAIが需要を予測し、適正な運行本数・時間帯を提案する事例が出始めています。

 

バス業界でのAI導入検討における実務的ポイント(現場に根差した導入設計)

AI導入を検討する際、バス事業者にとって最も重要なのは「机上の理想論」ではなく、「日々の運行業務にどれだけ馴染むか」という実務レベルでの適合性です。特に、以下の4つの観点は導入成功の可否を左右する要素として重視すべきです。

  • 運行現場との連携体制の構築:
    AI導入は単なるシステム更新ではなく、業務プロセスそのものの再構築を伴います。運転士、配車係、指令担当といった現場従事者がAIの提案や出力を「理解し、納得し、日常的に活用できる」状態をつくることが不可欠です。そのためには、導入初期段階から現場ヒアリングを行い、AIが「現場の感覚と乖離していない」アウトプットを出すよう調整する必要があります。
  • 対象地域の構造・特性の事前把握:
    AIのロジックは、地域特性に応じて適用効果が大きく変動します。例えば、高齢化率が高く徒歩圏が狭い地域では「乗降ポイントの設計」が極めて重要であり、一方で中心市街地では「時刻の正確性」「混雑予測」などが重視されます。地形、道路幅員、交通量、気候、イベント等を含めた“環境条件”をデータとして整備し、それに即したアルゴリズム設定が求められます。
  • 試行導入(PoC)段階での評価設計:
    初期段階でのPoC(Proof of Concept)を成功させるためには、単に技術の動作確認をするだけでなく、費用対効果を測る「KPI設計」が極めて重要です。例えば、「平均待ち時間の短縮」「利用率の向上」「運行本数あたりの運転士稼働時間削減」など、導入の目的に即した定量指標を設定することが、経営層の意思決定や補助金申請にも直結します。
  • ベンダー選定における“運用フェーズ”の見極め:
    価格や機能比較だけでは不十分であり、導入後の運用・障害時対応・アルゴリズム調整支援といった“伴走力”が問われます。AIは初期導入時点で完成するものではなく、運用とフィードバックの中で継続的に改善されるべき技術である以上、「導入して終わり」ではないベンダー体制(専任担当者の有無、アップデート頻度、問い合わせ窓口の整備など)も含めて評価が必要です。

 

バス業界でのAI導入に関する今後の展望と課題

バス業界におけるAI導入は、技術的な準備が整いつつある一方で、「制度設計」「資金調達」「組織文化」の三重の壁を突破しない限り、社会実装には至りません。Mobility Nexusでは、導入の可能性を“現実の選択肢”にするために、以下の観点を重視しています。

  • 補助金制度との連動が本格展開の鍵:
    AI導入の多くは初期費用が高額であり、特に地方事業者単独での負担は困難です。そのため、国交省や内閣府の「スマートモビリティチャレンジ」や「地域公共交通確保維持事業費補助金」等との連動が必須となります。また、補助制度の申請には、明確なKPI設計と自治体との連携体制が求められるため、Mobility Nexusでは“補助金設計支援”という新たな価値提供も重要視しています。
  • 属人性の排除とナレッジのデジタル継承:
    AI導入が本領を発揮するには、「ベテラン職員の頭の中にしかない情報」を形式知化し、モデルに取り込むプロセスが必要です。運転士の勘や配車係の経験を、運行ログやヒヤリハットデータ、乗降記録などと突き合わせて、AIに学習させていく。このような“知識の脱属人化”こそが、事業継続性を支える基盤となります。
  • AIと人間の“判断補完関係”の確立:
    現場では「AIが最終判断を下すこと」への抵抗感が根強く存在します。そのため、まずは「提案を出す存在」として導入し、配車担当者や運転士がその内容を確認・修正する形でAIとの共同意思決定プロセスを設計することが推奨されます。この関係性の構築が成功すれば、将来的な自律運行や完全無人化にもスムーズに移行できる足がかりとなります。

 

要点まとめ

  • 導入対象は4領域:バス×AIの活用は、「オンデマンド運行」「自動運転支援」「運行管理」「ダイヤ最適化」の4分野で現実的な成果を上げ始めており、今後も主軸となる見込みです。
  • 地域課題の解決とサービス維持を両立:高齢化や人口減少が進む中、AI導入は「効率化のため」だけでなく、「地域に必要な移動手段を持続可能にするための基盤整備」として機能しています。
  • 導入はPoCから始まり、段階的に拡張:Mobility Nexusでは、いきなり全社展開を目指すのではなく、「PoC → 小規模導入 → 全社展開」のステップ型アプローチを推奨。技術的信頼性と現場の納得感を両立させる設計が鍵です。
  • 制度・補助金・人材育成と連携した導入支援が今後の焦点:AIは単独技術ではなく、制度設計、地域行政、ベンダー、現場人材の総合連携によって初めて現実的な導入が可能となります。Mobility Nexusではこの“多層構造の接続”を担うプラットフォームを目指します。

Mobility Nexusは、AI導入を「一部の先進事業者の話」ではなく、「すべてのバス事業者が実行可能なステップに落とし込む」ための知識インフラを構築してまいります。

会社名株式会社MR.Nexus

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