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保守作業の移動時間を最適化する“作業員ナビアプリ”のアイデア | 導入チェックリスト付

株式会社MR.Nexus(エムアールネクサス)

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背景と現場課題

公共交通インフラの保守作業は、その多くが「移動」と「点検」の繰り返しで成り立っています。特に鉄道事業者においては、広範な設備(駅、線路、信号、電力、通信など)に対して限られた人員で対応する必要があり、保守作業員は日々、複数の現場を移動しながら点検・修繕に従事しています。この移動には鉄道車両や社用車、徒歩など多様な手段が組み合わさっており、移動経路の選定と時間管理が作業全体の効率に大きな影響を及ぼします。

しかし、実際の現場ではこの「移動時間」がブラックボックス化していることが多く、業務の属人化や非効率の温床となっています。例えば、ある保守作業員が午前中にA駅で作業し、午後にB駅へ移動するといった場合、どのルートを通るか、どれだけ時間がかかるかは担当者の経験や勘に依存していることが少なくありません。さらに、点検スケジュールや作業指示は紙やExcelベースで配布されており、突発の変更や遅延に柔軟に対応する手段が限られているという現実があります。

このような状況下では、同じ作業でも人によって所要時間や移動ルートが異なり、結果として「ムダな移動」や「作業時間の圧迫」が発生しています。特に、駅間の距離が短い都市部の鉄道網においては、徒歩と電車移動を柔軟に組み合わせた経路選定が求められますが、それを支援する仕組みは整っていません。場合によっては「最短経路より乗換回数が少ない方が疲れにくい」「信号設備の鍵開けに管理者同行が必要なので、先に寄るべき」など、現場特有の判断基準も存在し、作業計画を一元的に最適化するのは困難です。

また、熟練作業員の間では「移動中にこの路線で次の作業を確認しながら行く」「この時刻ならこのルートが早い」などの“暗黙知”が蓄積されていますが、それが可視化・共有されることはほとんどなく、属人性の高いノウハウに留まっています。人手不足の中で若手や応援要員が増えるほど、「移動の最適化」に関する知識格差が生じ、現場の負荷が偏在化していくことが問題視されています。

このように、移動という“作業間の隙間時間”が可視化されず、技術的にも支援されていないことが、作業全体の生産性向上のボトルネックとなっています。今後、保守業務の高度化や人材の多様化が進む中で、「どこで・だれが・どの順番で・どのルートで作業するのが最適か」をリアルタイムにナビゲートできる仕組みの必要性が高まっています。

 

解決したい課題と技術ニーズ

現場作業員の移動をリアルタイムで最適化し、移動時間・順路・連絡事項を統合的にガイドする「作業員ナビ」アプリが求められています。

この技術ニーズの本質は、「人・作業・時間・場所」という保守作業における4つの要素を統合的に可視化し、それに基づいて“現場が最も効率的に動けるルートと順序”をその場で提案・更新できる仕組みを持つことです。具体的には、以下のような機能が求められます。

  • 担当作業員のスケジュールと作業地点を自動的に連携し、最適な移動順を提示
  • 鉄道ダイヤや運行情報、徒歩距離・所要時間・構内動線などを加味したルート選定
  • 突発作業の追加や変更に即応し、全体最適となるよう順序・ルートを自動再編成
  • 移動中に確認すべき作業マニュアルや注意点を経路ごとに表示
  • 位置情報を活用し、現場への到着遅延を自動通知・関係者に共有

このようなアプリが導入されれば、「誰が・どこで・いつ・何のために・どの経路で動いているか」を現場と本社が共通の基盤で把握することが可能となり、突発対応・作業平準化・人員配置の最適化といった付加価値にもつながります。

特に、保守対象が広域に分散する都市交通インフラでは、「移動こそが最大のコスト」であり、その最適化は即、作業効率と安全性の向上に直結します。加えて、作業員ごとのノウハウや移動パターンが蓄積されれば、属人性の解消や技術伝承にも資するため、中長期的な現場力の底上げも期待されます。

 

現状の対応と限界

現在、多くの公共交通事業者では、保守作業の移動計画について明確な最適化システムは存在せず、以下のような手段に依存しています。

  • 点検作業指示書を紙またはExcelで事前に配布し、作業員が自ら移動計画を立てる
  • 鉄道ダイヤや駅間時刻表をもとに、作業員が過去の経験を活かして経路を判断
  • 構内移動や中継設備間のルートは、現場の慣習や人づての情報に依存
  • 突発のスケジュール変更は電話や内線、口頭伝達で処理される

一部の現場では、作業日報の中で「どこからどこへ何分かけて移動したか」を記録しているケースもありますが、それが体系的に分析・フィードバックされることはほとんどなく、ノウハウの蓄積や改善サイクルには結びついていません。

また、移動に関する指示が曖昧であることで、以下のような実務的な課題も浮き彫りになっています:

  • 作業時間を確保するために無理な移動を強行し、身体的負担や安全リスクが増加
  • ベテランと若手で移動効率に大きな差が生じ、作業全体の進行にばらつきが生まれる
  • 鉄道遅延・運休が発生した際、代替経路や作業順序の調整が場当たり的になる

このように、移動は日々発生するにもかかわらず、管理も支援も受けていない“空白の業務領域”となっており、効率化・安全化・標準化というあらゆる観点から見て、大きな改善余地が残されています。

特に今後は、現場における「即応性」が重要となるなか、従来型の紙ベース管理や経験依存の移動判断では限界があり、人的リソースの最適活用にも支障が出る恐れがあります。単なる“移動”を業務フローとして再定義し、それを技術的に支援する視点が求められています。

 

導入に向けた条件・前提

「作業員ナビ」アプリを現場に導入するには、いくつかの重要な条件と前提が存在します。これは単にアプリを配信すれば済む話ではなく、制度・運用・技術の3層において整備が必要です。

1. 制度・業務フローとの整合

まず、作業指示の出し方や日報の書き方といった現行業務との整合性を取ることが不可欠です。特に「作業順・ルートの自動変更」に対応するには、変更の権限範囲や作業単位の定義を見直す必要があり、業務設計レベルでの合意形成が求められます。さらに、作業指示書のデジタル化や統一フォーマットの整備も前提条件となります。

2. 現場人材のITリテラシー

現場作業員がスマートフォンやタブレットを使いこなせることも導入の前提です。導入初期には「使いづらい」「余計な手間」といった反発も想定されるため、操作性の高いUI設計と、教育・OJTによる段階的な定着支援が不可欠です。特にシニア層への配慮は、普及を左右する大きな要因となります。

3. 通信インフラの安定性

構内や地下区間など、通信が不安定になりやすい鉄道施設においてもリアルタイムの位置情報や経路変更を行うためには、4G/5Gや構内Wi-Fiの整備が求められます。最低限、作業員端末がオンライン・オフラインの切替に柔軟に対応できるアプリ設計が必要です。

4. コストと投資対効果

本アプリは多数の作業員に配布され、日々の業務で利用されることになるため、端末費用・開発費・保守費を含めたコスト設計が現実的であることが必須です。一方で、「移動時間の短縮=可処分作業時間の増加」という定量効果が明確に算出できれば、労務費削減や遅延対応の減少という形で投資対効果を説明することが可能です。

5. セキュリティと個人情報管理

位置情報や作業行動をリアルタイムに扱う性質上、セキュリティへの配慮も欠かせません。位置情報の閲覧権限設定、端末の遠隔ロック、データの暗号化保存、退職・異動時の端末リセットなど、情報管理のガイドライン整備が求められます。

以上のように、「作業員ナビ」アプリは単なる便利ツールではなく、業務改革と連動した導入設計が必要なプロダクトです。特に「属人的な判断に頼ってきた移動を、組織として最適化する」ことは、現場力とマネジメント力の橋渡しを可能にする極めて重要な一歩と言えるでしょう。

 

求められる製品・サービスの方向性

「作業員ナビ」アプリの実現に向けて求められる製品・サービスは、単なる地図アプリや経路検索ツールを超え、公共交通の保守現場に特化した“業務統合型ナビゲーション”としての設計が求められます。そのためには、以下のような方向性が現実的かつ効果的です。

1. モバイルアプリ+業務管理クラウドの連携

現場作業員が利用するナビゲーション機能はスマートフォンアプリとして提供し、作業予定・担当・設備情報などはクラウド上の業務管理システムと双方向に連携する形が理想です。現場では「移動経路の提案」「作業内容の確認」「進捗の共有」、事務局では「全体の作業進行」「移動の無駄」「再配置の検討」がリアルタイムで可能となります。

2. 現場知見の蓄積とAIによる動的最適化

移動ルートや順序の最適化には、過去の作業実績や所要時間のデータが蓄積されていく設計が必要です。将来的にはAIが「天候」「駅構内の混雑」「時間帯」「作業特性」などの要素を加味し、動的に最適ルートを学習・提案することも可能となるでしょう。これにより、属人知の形式知化・自動化が促進されます。

3. PoC(実証実験)からの段階的展開

全社導入を目指す前に、まずは1路線や1部署単位でのPoCを実施し、実用性や現場からの反応を検証するステップが重要です。この際、既存の業務フローにどこまで適合するか、操作が直感的か、通信環境は安定するかといった観点で定量・定性評価を行い、段階的な展開につなげるべきです。

4. 他システムとの相互運用性

点検システムや勤怠管理システム、ダイヤ運行情報、GIS、駅構内図など、既存システムとのAPI連携を前提にした設計が望まれます。システムが孤立すると、結果的に“アプリのための作業”が発生し、現場負担が増す恐れがあるため、シームレスな連携が導入成功の鍵を握ります。

このように、「作業員ナビ」アプリは、公共交通の現場における“移動”という見えにくい課題に正面から向き合い、作業効率の底上げ・ノウハウの共有・属人性の排除という複数の価値を同時に生み出すポテンシャルを秘めています。サプライヤやベンチャーにとっても、AI・IoT・UX設計の観点から切り込める新領域として、大きな開発・提案機会となるでしょう。

 

参考情報・関連資料

本記事で提案した「作業員ナビ」アプリ構想は、公共交通分野における保守業務の効率化・標準化の文脈において、以下のような既存制度や技術動向と接続可能です。類似領域での実例や業界全体の傾向を参考に、PoCや開発企画の出発点として活用いただけます。

1. 類似領域の先行事例

  • 物流業界の配車最適化アプリ:ヤマト運輸やSBSホールディングスなどが導入している「配送経路最適化システム」は、時間・地点・荷量・交通状況などを考慮したダイナミックルート案内の先行事例として参考になる。
  • ビルメンテナンス業界の現場支援アプリ:点検内容・経路・進捗を統合管理するSaaSが普及しており、保守業務への応用可能性が高い。

2. 制度・予算上の関連事項

  • 国交省「鉄道等輸送サービス高度化事業」:ICT活用による現場業務支援に対して補助対象となる可能性あり。
  • DX推進指針(各交通局・地方公共団体):現場業務のデジタル化・ペーパーレス化を進める流れの中で、現場アプリ導入は親和性が高い。

将来的には、AI・GIS・BIM・MaaSといった他領域との連携や、複数事業者間での共通基盤化といった展開も見据えつつ、まずは現場にフィットする“小さなPoC”から始めることが現実的です。

 

まとめ:現場の“移動”を可視化し、組織全体の作業効率を底上げする第一歩

公共交通インフラの保守業務において、作業現場間の「移動時間」は長年見過ごされてきたボトルネックの一つです。属人的な判断によるルート選定やスケジュール調整では限界があり、特に人材が流動化・多様化する今後の現場では、移動の最適化こそが効率・安全・標準化の要となります。

本記事で提案した「作業員ナビ」アプリは、移動に関する判断と運用をリアルタイムに支援し、現場とマネジメントをつなぐ基盤となる技術です。サプライヤやベンチャー企業にとっては、交通インフラ特有の制約条件を踏まえた上での新しい製品開発・提案領域となり得ます。

単なるアイデアにとどまらず、実務上の課題・既存制度との整合・導入条件・PoC展開の方針まで踏み込んでいる本構想が、業界全体の現場改善に向けた一助となることを期待しています。

  • 保守作業の「移動」は、現場で最も見えにくく、効率化が遅れている領域の一つ
  • 作業員の移動ルート・時間・順序を最適化するナビゲーション機能が求められている
  • 現行対応は紙・Excel・経験に依存し、属人性や情報共有の限界が顕在化している
  • 制度整備・ITリテラシー・通信環境・セキュリティなど導入前提の検討が不可欠
  • 業務管理クラウドとモバイルアプリの連携、AIによる動的最適化が実現の方向性
  • 物流や建設など他業界の先行事例を参照し、PoCからの段階的展開が現実的

 

導入前チェックリスト(作業員ナビアプリ)

以下は、作業員ナビアプリを導入・展開する際に確認すべき実務上の条件をカテゴリ別に整理したチェックリストです。現場環境や業務制度との整合を図るうえで、各項目を事前に点検することが推奨されます。

設置・構造条件

  • スマートフォンまたはタブレット端末の支給・携行が前提となる現場か
  • 地下区間や構内など、GPS・Wi-Fiが届かないエリアの有無と代替手段
  • 移動区間に鉄道・徒歩・車両など複数の交通手段が混在しているか
  • 駅構内図や施設マップと連携可能なデジタル図面が整備されているか

対象システム・機器との整合性

  • 作業計画・工事指示システム(例:保守台帳、点検指示)とのデータ連携の可否
  • 設備管理システム(GIS、BIM等)との位置情報共有が可能か
  • 勤怠・日報システムと連動し、作業ログや移動実績の統合管理が可能か
  • 鉄道運行情報や災害発生時の情報とのAPI接続が可能か

運用・維持管理

  • アプリの操作方法について現場で統一的に教育・定着できる体制があるか
  • 端末の紛失・故障時に迅速な対応が取れる社内体制があるか
  • アプリ利用時のバッテリー消耗・予備電源対策を想定しているか
  • 利用状況や改善要望を現場からフィードバックできる運用ルールが整備されているか

コスト・調達条件

  • 端末購入費、アプリ開発・運用費、ライセンス費などの費用を算出済みか
  • 初期投資と継続的コストのバランスを踏まえた調達方針があるか
  • PoC(実証実験)による段階導入が可能な予算・期間設計か
  • 複数年度にわたる展開を想定した契約条件(サブスクリプション型等)を検討しているか

導入実績・ベンダー体制

  • 鉄道・インフラ分野での開発・導入実績を持つベンダーを候補に含めているか
  • 現場ヒアリングやカスタマイズ対応など、導入支援の実績があるか
  • 障害発生時の問い合わせ対応・サポート体制が明確か
  • 機能拡張やUI改善への柔軟な対応をベンダーと合意可能か

セキュリティ・ネットワーク接続

  • アプリから送信される位置情報・作業情報が暗号化されているか
  • 端末の盗難・紛失時に遠隔ロック・データ削除が可能な仕組みがあるか
  • 現場ネットワーク(4G/5G、Wi-Fi)で安定通信が可能なエリアを把握しているか
  • 社内ネットワークとの接続要件(VPN、認証方式)に対応可能か

法令・制度対応

  • 個人の位置情報取得・記録に関する社内ルールや同意取得の整備があるか
  • 労務管理上、移動時間の扱いや休憩時間との区別が明確にされているか
  • スマホ・タブレット利用に関する情報セキュリティポリシーが明文化されているか
  • 厚労省・国交省等の補助制度やガイドラインに照らした法的適合性の確認を行っているか

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