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鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)のメーカー6選 | 導入チェックリスト、プロセス解説付
株式会社MR.Nexus
製品特性
- 安全対策
- ○
- 自動化
- ○
- 環境への配慮
- ○
- 保守性向上
- ○
- 信頼性向上
- ○
- 施工性向上
- ○
鉄道車両に搭載される情報システムは、大きく分けて2つの役割を担っています。ひとつは、客室内の案内表示や音声案内を通じて乗客に運行情報を伝える「旅客情報システム(Passenger Information System, PIS)」、もうひとつは、車両全体の制御状態や異常を運転士に通知し、各機器を統合的に監視・管理する「車両情報制御システム(Train Control and Monitoring System, TCMS)」です。
近年ではこれらのシステムがIPネットワークやIoT技術と連携し、リアルタイムでのデータ収集・配信、多言語対応、障害時の自動切替、遠隔監視など、多機能化が進んでいます。PISとTCMSの役割は明確に分かれつつも、連携によって安全性・利便性・メンテナンス性を高めるハイブリッドな構成が一般的になりつつあります。
本記事では、PISおよびTCMSの双方を提供・製造している国内外の主要メーカーについて、技術的特長、提供実績、サポート体制などを比較しやすい形式で整理しました。製品カタログのように簡潔かつ訴求力のある情報を通じて、鉄道事業者の皆様が新造車両導入や機器更新時に最適な選択ができるよう支援することを目的としています。
なお、本比較記事は展示会配布資料や社内検討資料としての活用も想定し、各社の特長を短くわかりやすくまとめています。詳細な仕様や導入事例については、各社公式ページをご参照ください。
鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)のメーカー一覧表
メーカー名 | 地域 | 主な製品 | ターゲット市場 | 技術の強み | 採用事例 | リンク |
---|---|---|---|---|---|---|
東洋電機製造株式会社 (Toyodenki Seizo Co., Ltd.) |
東京都品川区 | 列車情報システム、統合表示装置 | 都市鉄道、通勤型車両 | 機器間通信の最適化、モジュール構成に対応 | 東京メトロ、東急電鉄、南海電鉄 | 東洋電機 |
株式会社日立製作所 (Hitachi, Ltd.) |
東京都千代田区 | 列車制御情報システム(TCMS)、PIS | 国内大手鉄道事業者、新幹線 | 制御系統との統合設計、安全性と拡張性に強み | JR東日本、JR九州 | 日立評論 |
三菱電機株式会社 (Mitsubishi Electric Corporation) |
東京都千代田区 | TIMS(車両情報制御システム)、情報表示装置 | 近郊・中距離列車、通勤型車両 | 信号・監視機能との高密接連携、実績多数 | JR東日本、JR西日本 | 三菱電機 |
東芝インフラシステムズ株式会社 (Toshiba Infrastructure Systems & Solutions Corporation) |
神奈川県川崎市 | 車両情報制御装置、旅客案内装置、CCTV連携装置 | 通勤・特急・新幹線まで広範な車両 | 保安装置との統合実績が豊富、冗長設計にも対応 | JR東海、東京メトロ | 東芝 |
アイテック阪急阪神株式会社 (ITec Hankyu Hanshin Co., Ltd.) |
大阪府大阪市 | 旅客案内システム、車内防犯カメラシステム(iTRecAI) | 関西私鉄、都市型鉄道 | 多言語対応、セキュリティ機能と連携 | 阪急電鉄、阪神電車 | アイテック阪急阪神 |
カテナビア株式会社 (Kanadevia Co., Ltd.) |
神奈川県横浜市 | 車内監視カメラ、映像伝送装置、遠隔監視ユニット | 地方鉄道、高頻度運行路線 | 通信技術に強み、遠隔運用との親和性が高い | 詳細非公開 | カテナビア |
鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)のメーカー詳細
東洋電機製造株式会社(Toyodenki Seizo Co., Ltd.)
1918年創業の老舗メーカーで、鉄道用電機品の国産化を目的に設立されました。車両情報システムでは、運転支援と旅客案内を統合し、運転台表示と客室向け表示の両面で機能を提供。VVVF装置や空調設備の状態監視も可能で、遠隔監視機能「IORemoterII」によって保守効率も向上します。
おすすめポイント: 運転支援と乗客案内を統合した柔軟なシステム構成、遠隔監視機能も充実。
こんな事業者向け: 小〜中規模でも段階的に導入したい事業者、既存システムとの統合を重視する事業者。
株式会社日立製作所(Hitachi, Ltd.)
車両情報制御装置(ATI)を通じて、駆動装置・ブレーキ装置などをネットワーク制御する仕組みを構築。空調、車内ディスプレイ、自動放送などのサービス機器も統合管理でき、安全性とメンテナンス性を両立。CBTCやATOとも連携可能なアーキテクチャが強みです。
おすすめポイント: 車両全体の機器統合管理、安全性・保守性に優れる構成。
こんな事業者向け: 新幹線や長距離車両を含む大規模システムを構築・管理する事業者。
三菱電機株式会社(Mitsubishi Electric Corporation)
車両統合管理装置(TCMS)を中核としたプラットフォームを展開し、全機器の統合制御とCBM(状態監視保全)対応を実現。地上との通信連携にも強く、車両状態をリアルタイムで把握し、クラウド解析や予防保全への応用も可能。導入実績も多数あります。
おすすめポイント: 車両最適制御と状態監視の一体化、クラウド連携による高度保守対応。
こんな事業者向け: 長期的な運用効率や保守性を重視する大手鉄道事業者。
東芝インフラシステムズ株式会社(Toshiba Infrastructure Systems & Solutions Corporation)
鉄道の電力・車両・情報の三領域で製品を展開し、情報分野では運行支援や旅客案内、メンテナンス情報の統合管理を提供。保安装置や運行制御装置との連携による統合運用が可能で、運行効率と安全性の両立に寄与。次世代鉄道システム構築にも注力しています。
おすすめポイント: 情報・電力・制御の複合技術による一体型ソリューション。
こんな事業者向け: システム全体の最適化を目指す総合事業者、新線やスマート保安対応にも最適。
アイテック阪急阪神株式会社(ITec Hankyu Hanshin Co., Ltd.)
AI搭載の車内防犯カメラ「iTRecAI」や列車モニタリングサービス「トレもに」を提供。混雑検知やリアルタイム映像確認機能により、旅客安全と業務効率を両立。阪急電鉄や阪神電車など私鉄系での運用実績があり、中規模事業者向けに導入しやすい構成が特長です。
おすすめポイント: 防犯・安全対応に強み、クラウド連携によるリアルタイム性。
こんな事業者向け: 都市部私鉄や中規模路線での安全対策強化を図りたい事業者。
カナデビア株式会社(Kanadevia Co., Ltd.)
車両搭載カメラや映像伝送装置を中心に、映像と位置情報の統合記録・再生に対応。前方映像や監視映像を地上でリアルタイムに確認でき、異常時対応の迅速化や運行管理への活用が可能。地方路線や専用線など、小規模導入にも対応しやすい構成です。
おすすめポイント: 映像+位置連動システムによる高度な状況把握、コンパクト導入に対応。
こんな事業者向け: 限定区間での導入や異常時対応力を高めたい地方事業者。
まとめ:鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)のメーカー6選
本記事では、鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)を製造・提供する日本国内の主要6社について、技術的特長・導入実績・機能面から比較しました。それぞれの企業が異なる強みを持ち、導入する鉄道事業者の規模や運行形態、保守方針によって最適な選定は異なります。
まず、東洋電機製造は運転支援と旅客案内を統合したバランス型の構成が特長で、既存設備との親和性が高く、地方鉄道や中規模事業者に向いています。日立製作所は、大規模システムの統合管理に強みを持ち、新幹線や都市部の大手事業者に適しています。
三菱電機はTCMSによる全体最適制御とCBMへの対応力が高く、保守コストの削減や遠隔監視を重視する大手事業者に向いています。東芝インフラシステムズは電力・情報・保安をまたぐ統合提案が可能で、新線導入やシステム刷新を計画している総合事業者に適しています。
一方で、アイテック阪急阪神はAIカメラやモニタリングサービスなど、防犯・安全分野に特化した製品を提供しており、都市部の私鉄や中堅事業者での導入実績があります。カナデビアは前方映像や位置連動記録といった現場支援に特化しており、小規模な地方事業者や専用線などでの段階的導入に適しています。
選定の際は、自社の運行形態(都市部・地方部・高速鉄道など)に加え、「乗客向け案内を重視するのか」「運転支援や保守性を重視するのか」「将来的な拡張や遠隔監視が必要か」といった導入目的を明確にすることが重要です。また、既存システムとの互換性や導入後の保守サポート体制も判断基準となります。
本記事で紹介した6社は、それぞれ異なる方向性での強みを持っており、「どの会社が最も優れているか」ではなく、「どの会社が自社に合っているか」を見極めることが鍵です。展示会や現場見学、導入事業者からのフィードバックも参考にしながら、実際の導入に向けた比較検討を進めることを推奨します。
鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)の導入・更新チェックリスト
このチェックリストは、鉄道事業者が車両情報システム(PIS・TCMS)を導入または更新する際に、比較評価・現場適合性の検討を行うための項目です。運用体制・設備制約・ベンダー支援の各側面から総合的に判断することが求められます。
構造・設計条件
- 対象車両の形式・年式に適合するインターフェース設計が可能か
- 車両長・車端部・運転台への機器設置スペースを確保できるか
- 既存の制御装置(VVVF、ブレーキ装置等)との通信接続が可能か
- 客室内の案内表示器・スピーカー配置に柔軟に対応できるか
運用・保守性
- 保守員が現場で操作・交換可能なモジュール構成となっているか
- 障害発生時のログ記録・遠隔収集・通知機能を備えているか
- 長期供給・ソフト更新・セキュリティパッチのサポート体制が整っているか
- 夜間作業・短時間停車中でも更新作業が完結できる設計か
表示・案内機能(PIS)
- 運行情報、乗換案内、多言語案内、広告表示に対応しているか
- 画面サイズ・解像度・視認性・照度制御などの条件を満たしているか
- 緊急放送・手動入力・運行司令連携による表示切替が可能か
制御・監視機能(TCMS)
- 主要機器(VVVF、空調、ブレーキ等)との連携制御が可能か
- 運転台表示機(MMI)との統合がスムーズに行える構成か
- 状態監視(CBM)や統計ログの取得・送信に対応しているか
通信・セキュリティ
- 地上との通信(Wi-Fi/LTE)や指令所との連携が可能か
- 通信系統に対する暗号化・認証・障害時フェールセーフが実装されているか
- 社内の情報システム部門と連携して導入・更新が進められる構成か
コスト・導入体制
- 製品価格、導入費用、ソフト更新費用の見積もりが明確か
- 仕様決定から納入・現地調整・保守教育までの工程が一貫して提示されているか
- ベンダー側で現場立会いや検証試験への対応力があるか
ベンダー評価
- 導入実績があるか(同規模・同系列の車両への実績)
- 長期継続サポート・増備対応の体制が整っているか
- トラブル時の対応履歴やレビュー評価が公開・共有可能か
このチェックリストを活用することで、単なるカタログ比較ではなく「導入後の実運用を見据えた適合性評価」が可能になります。現場の声やメンテナンス部門の意見も交えて評価を行うことが、適切なメーカー選定につながります。
鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)の導入・更新プロセスの全体像
鉄道用車両情報システム(PIS・TCMS)の導入や更新は、車両運行・整備・指令・ITの各部門に関わる複合的なプロジェクトとなります。以下は、一般的な導入・更新時における標準的なプロセスを示したもので、既存設備との整合性、仕様策定、現地調整に至るまでの全体像を俯瞰的に把握するためのガイドラインです。
① 要件整理・現状把握
- 現行システムの課題整理(表示遅延、誤表示、保守困難など)
- 対象車両の機器構成・年式・通信方式の調査
- 更新対象範囲(客室表示器/運転台表示器/制御装置/ケーブル系統など)の明確化
② 導入目的の定義
- 旅客サービスの高度化(多言語対応、広告配信、案内精度向上など)
- 運転支援・保守省力化(CBM、遠隔監視、アラート通知)
- 安全対策強化(防犯カメラ統合、緊急表示系の強化)
③ 製品選定・ベンダー比較
- Mobility Nexus基準のチェックリストによる評価
- 導入実績、価格構成、保守体制、カスタマイズ可否などの比較
- 必要に応じてベンチマークテスト、モックアップ展示の確認
④ 仕様確定・設計調整
- 表示器サイズ・配置・配線・動作ロジックの詳細仕様決定
- 既存制御装置・保安装置との信号接続・通信仕様整合
- 運転士/整備員/司令所側の操作インターフェース設計
⑤ 製作・納入・現地調整
- 工場製作・単体試験(FAT)→納品 → 車両搭載
- 車上試験・系統接続試験(SAT)→路線試験(必要に応じて夜間試運転)
- 表示・放送・制御応答の最終チューニング
⑥ 教育・運用移行
- 保守マニュアル・回路図の納品および保守員教育の実施
- 運転士への操作説明(誤表示時対応、緊急手順など)
- 地上システムとの接続確認、予備部品・更新計画の整備
⑦ 運用・フィードバック
- 運用初期の障害記録・対応傾向のモニタリング
- 必要に応じてロジック変更・ソフト更新・表示調整の実施
- 次回更新時の課題蓄積、同型車両への展開判断
このプロセスは、単なる製品選定ではなく、「運用を支えるインフラ」として車両システム全体の再設計に関わるものです。現場の運転士・整備員・指令担当者の声を反映させ、ベンダーとの双方向的な設計プロセスを構築することが、長期的な成功導入の鍵となります。
会社名株式会社MR.Nexus
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