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鉄道電気工事における「絶縁抵抗」と「接地抵抗」の違いとは?

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鉄道電気設備の保守・工事において、「絶縁抵抗の測定」と「接地の設計・管理」は、安全確保と安定運行の両立に不可欠な要素です。特に列車制御に関わる信号通信設備、高圧受電設備、き電線路などでは、単なる数値確認にとどまらず、回路構成や事故電流の流れ方を理解したうえで判断が求められます。

絶縁抵抗とは何か?

絶縁抵抗は、電路(活線部)と大地や筐体との間の電気の流れにくさを示す指標であり、電気設備が漏電せず健全に絶縁されているかを確認するために用いられます。

  • 目的:漏電・感電・火災を未然に防ぐ
  • 測定器:絶縁抵抗計(メガー)を使用
  • 基準値:電灯回路で0.1MΩ以上、制御回路で0.2MΩ以上が一般的

鉄道現場では、照明盤、信号ケーブル、分電盤、機器盤などの更新・改修工事後や、定期点検時に絶縁抵抗の測定が行われます。

接地とは何か?目的別に見る接地の種類

接地は、漏電などの異常時に電流を安全に地面へ逃がす経路を形成することで、感電・設備損傷・火災などを防止する仕組みです。鉄道で使われる代表的な接地には、以下のような種類があります:

種別 目的 適用対象 接地抵抗の目安
A種 漏電時の感電防止・保護装置動作 低圧機器(照明盤、分電盤など) 10Ω以下
B種 地絡電流の制御・雷サージ放電 高圧・特別高圧設備の中性点 地絡電流に応じた設計値
C種 地絡時の感電・設備損傷防止 高圧機器(キュービクル等)の外箱 10Ω以下
D種 ノイズ防止・信号の基準電位確保 信号装置、リレー盤、情報機器 100Ω以下(設計による)

B種接地の特性と注意点

B種接地は、特別高圧設備や高圧トランスの中性点などに設けられる接地で、地絡時に保護装置(GR)を動作させるための電流経路を作ると同時に、雷サージなどの異常電圧を安全に逃がす役割も担います。

大きな特徴として、接地抵抗を高めに設定する場合があることが挙げられます。これは「地絡電流を制限する」ためであり、変圧器の容量や系統の構成によって、制限抵抗器(GRR)を挿入して意図的に電流を抑える設計が採られます。

  • 例:変電所のY結線トランス中性点に接地抵抗を設け、地絡電流を10A以下に制限
  • 参考技術:ZCT(零相変流器)や方向性GRと組み合わせて地絡保護を実現

絶縁抵抗と接地抵抗の関係

絶縁抵抗と接地は、原理的には別の測定項目ですが、実務上は事故の予防と被害軽減をセットで実現するための補完関係にあります。

  • 絶縁抵抗:漏電の“兆候”を把握し、事故を予防する(予知保全)
  • 接地:漏電が起きたときに、電流を安全に逃がして二次被害を防ぐ

両者を正しく管理することで、例えば「漏電が起きても感電しない」「異常時に確実に遮断される」といった事故防止の多重防御が成立します。

関連技術と理解すべき実務知識

以下は、絶縁・接地・地絡保護に関連して現場で知っておくべき代表的な技術要素です:

  • 絶縁監視装置(IMD):直流回路やUPSにおける常時絶縁監視
  • ZCT(零相変流器):漏電検出用の電流センサ
  • 方向性GR(DGR):地絡電流の向きを識別し、広域で選択遮断
  • 接地電位上昇(GPR):B種接地点に雷サージや大電流が流れた際の地面の電位上昇。信号回路への影響に注意

鉄道現場での応用例

  • 照明設備更新工事:絶縁抵抗測定 + A種接地確認
  • キュービクル点検:C種接地の抵抗値測定 + 絶縁値測定
  • 変電所のトランス更新:中性点のB種接地設計 + 地絡保護装置の設定確認
  • 信号設備の誤動作調査:D種接地とアースループの確認

まとめ

  • 絶縁抵抗は「予防保全」、接地は「安全設計」の根幹
  • A/C/D種は「設備の性質」に応じて明確に使い分ける
  • B種は「高圧系統の中性点接地」であり、設計に基づく
  • 保守・工事時は測定結果と系統設計を照らし合わせて判断する

鉄道の安全・安定運行を支える電気設備において、絶縁と接地はすべての技術者にとっての基本知識です。数字だけを追うのではなく、「なぜこの接地方式なのか」「なぜこの抵抗値を維持する必要があるのか」を理解し、設備の構成と運用方針まで含めた広い視点で現場に向き合うことが求められます。

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