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要件定義とは? 技術開発を成功に導く第一歩

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なぜ要件定義が重要なのか ― 技術開発の失敗はどこで起きる?

公共交通業界では、新たなシステムや設備の導入が「思ったように使われない」「予定より費用や工期がかかる」「保守しにくい仕様になってしまった」といった問題に直面することが少なくありません。こうした課題の根本原因をたどっていくと、多くの場合、その起点にあるのが「要件定義の曖昧さ」です。

要件定義とは、簡単に言えば「何を、なぜ、どのように実現したいのか」を関係者の間で明確にする工程です。これは単に「機能を列挙する」ことではなく、現場の課題を抽出し、それを解決する手段を論理的に設計し、関係部門と合意形成するという、多面的な業務です。

しかし現実には、「とりあえず現場の言っている通りに作ったが使われなかった」「上司からの指示に従って進めたが、実際の業務に合わなかった」といった、“ずれ”や“見落とし”が発生するケースが後を絶ちません。その背景には、以下のような構造的な問題があります。

  • 現場・開発・管理部門の視点が分断されている(言葉・判断基準・優先順位が異なる)
  • 課題と要望の区別がなされていない(「こうしてほしい」が「なぜそうしたいのか」に転換されていない)
  • 合意形成が属人的であり、ドキュメントが不十分なまま進んでしまう

特に公共交通のように、「安全・正確・継続的運用」が要求される業界では、ちょっとした要件の曖昧さが、後の運用フェーズで大きなリスクやコスト増加につながります。さらに、導入後に不具合が発覚した場合でも、「最初の要件がはっきりしていないために責任の所在が不明確になる」といった事態も起こり得ます。

例えば、駅務機器のシステム更新プロジェクトにおいて、「券売機の画面を見やすくしたい」という要望が出たとします。これをそのまま受けて「大型モニターに交換する」と決めてしまえば、設置スペースや電源容量、運用マニュアル、障害対応時の負担など、様々な問題が後から浮上します。本来は「見やすさ」に関する具体的な問題(照明との相性、表示フォント、操作手順の明確さなど)を深掘りし、複数の代替案を検討したうえで、機能・運用・コストのバランスを取った提案が必要です。

このように、技術開発の“入り口”である要件定義の精度こそが、後工程の品質・コスト・工期、さらには組織の信頼性を大きく左右するのです。逆にいえば、要件定義がしっかりしていれば、多少の仕様変更や障害が発生しても、関係者全員が「どこまでが想定内か」「どう判断すべきか」を共有でき、柔軟に対応することが可能になります。

本記事では、要件定義という“あいまいで難しい工程”を、公共交通の現場に即して段階的に学び、「現場で再現できるスキル」として身につけていくための視点・フレームワーク・育成方法を整理していきます。

次章では、要件定義が持つ構造的な要素を分解し、実務における役割や成果物との関係を詳しく見ていきましょう。

 

要件定義の基本構造と役割 ― 現場・開発・管理をつなぐハブとして

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