公開日:

定性情報を定量評価に変換する方法

技術者研修
  1. TOP
  2. 技術者研修
  3. 定性情報を定量評価に変換する方法

はじめに:なぜ「定性→定量」が必要なのか

公共交通の現場では、日々さまざまな課題や改善提案が挙がっています。たとえば「この設備は使いづらい」「ここでいつも作業が止まる」「乗客の不満が多い」など、現場からの声の多くは“言葉”によるもの、つまり定性的な情報です。これらは現場の肌感覚を反映した貴重な一次情報ですが、そのままでは設備更新の稟議や業務改善の提案に反映するのが難しいことも事実です。

一方、管理部門や経営層が重視するのは、数字やグラフ、指標といった定量的な根拠です。どのくらいの頻度で問題が発生しているのか、どれだけの作業時間がかかっているのか、改善によってどの程度の効果が見込まれるのか。これらは導入可否や予算決定に直結する材料であり、再現性・比較可能性を担保する上でも不可欠です。

このように、定性と定量のあいだには“思考の断絶”があります。特に技術導入や業務改善においては、現場の感覚(定性)を数値(定量)に変換するプロセスが存在しなければ、どれほど有用な気づきも「主観的」として軽視されてしまう危険性があります。現場で「こんなに困ってるのに、なぜ伝わらないんだ」と感じたことのある方も多いのではないでしょうか。

本記事では、そうしたギャップを埋めるための「定性→定量変換」について、技術者自身が実践できる形で体系的に解説します。特別な統計知識やツールを使わずに、現場で収集される声や感覚を、評価軸と数値に落とし込む方法を段階的に紹介します。また、他部門との合意形成や導入プロセスへの組み込み、教育やOJTへの活用といった応用面にも触れ、初学者からベテランまでが共に学べる内容を目指しています。

定量評価は、単なる“数値化”のテクニックではありません。それは、現場の知見を組織全体の意思決定に結びつけるための「翻訳作業」であり、技術者が持つ課題意識や改善提案を、より届くかたちに整えるための「共通言語化」でもあります。現場の声が正しく伝わり、実際の改善につながるようにするために──今こそ「定性→定量」の技術が必要とされているのです。

 

定性情報とは何か:現場にあふれる「言葉」の正体

定性情報とは、数値では表現されていない“感覚的・主観的な情報”のことです。公共交通の現場では、こうした情報が日々蓄積されています。たとえば「この設備は直感的に操作できない」「検査にムラがある気がする」「お客様がよく迷っている」といった声がそれにあたります。これらは、現場の知見や違和感の表れであり、非常に価値の高い情報です。

しかし、定性情報は一見するとあいまいで、個人差の影響を強く受けるため、組織内での共通理解や意思決定に使うには不向きとされています。たとえば「使いにくい」という表現ひとつとっても、それが「操作手順が複雑」なのか「物理的に手が届きにくい」のか、あるいは「UIが直感的でない」のかは人によって解釈が異なります。

では、このような定性情報は業務改善において活かせないのでしょうか?答えは否です。むしろ、定性情報は改善のヒントの宝庫です。ポイントは、その“言葉の背後にある評価軸”を読み解く力にあります。「不便だ」という発言の背景には、「手間がかかる」「時間が読めない」「失敗しやすい」といった具体的な指標が隠れているのです。

現場で頻出する定性情報を分類してみると、以下のような4つの観点に整理できます:

  • 操作性:やりづらい、わかりにくい、間違えやすい など
  • 信頼性:壊れやすい、ばらつきがある、再現性が低い など
  • コスト意識:ムダが多い、非効率、資材の無駄遣い など
  • ユーザー体感:見づらい、迷う、不安になる など

これらはすべて、後の章で紹介する「評価軸」として再構築可能な素材です。まずは、こうした定性情報が職場にあふれていること、そしてそれが“数値化可能な種”であることを認識するところから始めましょう。

定性情報を軽視せず、むしろ「意味のある仮説の原石」として捉えることが、技術者としての着眼点を磨く第一歩となります。そして、この視点は後輩指導や社内研修においても重要です。言語化された現場の知見をどう扱うか──それが、定性→定量変換の出発点なのです。

この記事の続きは会員限定コンテンツとなっております。
無料登録またはログインしてください。

新規登録

振り返りワーク

本記事で学んだ「定性→定量変換」のスキルは、業務改善や導入判断における提案力を高めるための重要な土台です。学びを定着させるには、読んで終わりではなく、自らの状況に当てはめて整理し、アウトプットしてみることが不可欠です。以下の問いを通じて、自分の理解を確認し、明日からの業務や後輩指導への応用につなげてください。

Q1:定性情報を定量評価に変換することは、業務改善の初期段階(STEP1)において有効である。

  • Yes
  • No

Q2:次のうち、定性情報を定量化する際の基本ステップとして誤っているものはどれでしょうか?

  • A. 評価軸を明確にする
  • B. 測定可能な指標に置き換える
  • C. 変換せずにそのまま経営層へ共有する
  • D. 数値に意味を持たせるスケールを設計する

Q3:次のうち、STEP1(課題認識・ニーズ抽出)で「定量化する価値が最も高い」ものはどれでしょうか?

  • A. 現場の作業時間の平均値
  • B. 感想ベースの不満コメント
  • C. 設備メーカーのスペックシート

Q4:「案内表示がわかりにくい」という定性情報を定量化した例として、最も適切な文を選んでください。

  • A. 案内表示の設置場所を変えたほうがいい
  • B. 乗客の滞在時間が平均15秒長く、案内係の対応件数が20%増加している
  • C. 案内表示について苦情を受けたことがある

Q5:「気づく → 言語化する → 数値で表す」というプロセスに対応する適切な並びを選んでください。

  • A → B → C:困りごとの拾い上げ → 作業項目の具体化 → 測定値への変換
  • C → B → A:測定 → 分析 → 整理
  • B → A → C:課題の抽出 → ヒアリング → 評価指標の定義

Q6:実務で自分の担当している業務において、「定性情報を定量化できそうな場面」はありますか?ある場合は、その例と変換のアイデアを自由に記述してください。

  • 自由記述欄

Q7:あなたがOJT指導をする立場だったとしたら、若手に対して「定性→定量変換」の重要性をどう伝えますか?あなた自身の言葉で記述してください。

  • 自由記述欄

関連記事

       

掲載に関する
お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください