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システム試験・ユーザ受入試験を統合するプロジェクトマネジメント

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はじめに:試験・受入の分断が招くプロジェクトの失敗

公共交通の現場では、新システムの導入や設備の更新に際して、仕様どおりに完成したにもかかわらず「現場が受け入れられない」「保守が対応できない」「教育が追いつかない」といった問題が繰り返し発生しています。これらの原因の多くは、システム試験(設計通り動くか)とユーザ受入試験(実際の現場業務に適合するか)が別々に行われ、相互に補完されていないことにあります。

たとえば、中央の設計・技術部門は「仕様通りに動作している」としてシステム試験をパスさせますが、現場では「実際の運用には使いづらい」「教育資料がない」「非常時対応が考慮されていない」といった理由で混乱が起き、運用開始が遅延するケースがあります。こうした事例は、特に大規模プロジェクトや外部ベンダーが関与する開発で顕著です。

この分断の根底には、組織内の「役割分担」と「責任の分散」があります。システム試験は技術部門、受入試験は運用部門とされることで、互いに確認する観点がずれ、「誰が最終的に責任を持つか」が曖昧になります。現場と本社の視点の違い、契約と教育の断絶、検証スケジュールと業務負荷のギャップといった、構造的な課題も加わります。

さらに近年では、ベンダー主導で設計・開発・試験が進む中、発注側が「試験項目を確認しているつもりで、実は中身を把握できていない」状況も散見されます。納品直前に初めて問題点が可視化され、「なぜもっと早く気づけなかったのか」という反省だけが残ることも少なくありません。

本記事では、このような現場と設計・管理の断絶を防ぎ、試験フェーズを「ただのチェック」ではなく「組織知の獲得と運用準備の核心的プロセス」として再設計するための考え方と実務を紹介します。特に、技術部門や管理職、現場教育の立場にある読者が、自身の関わる導入プロセスの中で、試験設計やユーザ受入をいかに設計し、活用すべきかを具体的に学べるよう構成しています。

初学者にとっては「なぜ現場の声が導入後に上がってくるのか」、ベテランにとっては「自分の組織がなぜ同じ失敗を繰り返すのか」を再考するきっかけになるはずです。教育や勉強会の題材としても活用できるよう、現実的な視点で整理していきます。

 

統合的な試験設計とは何か:システム試験と受入試験の役割を再定義する

試験プロセスにおいて「システム試験」と「ユーザ受入試験」は本来、異なる目的と視点を持った工程です。前者は設計通りにソフトウェアや装置が動作するかを確認する技術的な検証であり、後者は現場業務において実際に使えるか、運用に適合するかを評価する運用的な確認です。どちらも重要であり、両者が揃ってはじめて「導入準備完了」と言えます。

しかし現実には、システム試験=納品完了と見なされ、ユーザ受入試験は単なる「現場の都合」や「後追いチェック」と扱われがちです。これは、発注者側の内部体制が設計・検証・運用で縦割りになっており、各部門が試験の目的や視点を共有できていないことに起因します。また、契約の中に受入基準が明記されていなかったり、教育部門や運用担当が試験初期から関与していないことも大きな要因です。

統合的な試験設計とは、この分断を解消し、プロジェクト全体で一貫した検証観点を持つことを意味します。たとえば、次のような視点を各工程で共通化することが重要です。

  • ・操作性や業務手順を含めた「使用条件ベース」の試験シナリオ
  • ・技術仕様だけでなく、教育やマニュアル整備、保守対応の確認
  • ・異常時・例外時の操作や復旧に対する現場適合性の検証
  • ・実運用に近い条件下での「模擬稼働」やフィードバックループの設計

これにより、現場が“受け入れられる形”まで落とし込まれた検証が可能になります。検証内容の一部を共通化したり、試験段階を連携させることで、システム試験で見つけた技術的課題がそのまま受入試験にも反映され、逆に現場で気づいた運用面の課題が技術部門の改善にもつながります。

このような「相互にフィードバック可能な試験設計」は、組織内の壁を超えるためのプロジェクトマネジメントそのものであり、管理職やリーダーが意図的に設計・統制すべき領域です。単に試験日程を調整するだけでなく、「どの部門がどの観点を持ち寄るか」「どの段階で共通の指標を設けるか」といった、プロセスの上流設計が求められます。

また、近年ではベンダー任せで試験項目が作成され、発注者が内容を十分に精査しないまま実施されることもあります。これでは、ベンダーの検証=納品の証明になってしまい、ユーザ側の視点が失われてしまいます。試験項目のレビューや、現場代表者の事前参加、部門横断的な試験チームの設置など、「試験の仕様も一つの設計工程である」と捉える意識が必要です。

次章では、試験を「完成の確認作業」ではなく、「組織の知見を積み上げるプロセス」として捉え直すための考え方を紹介します。

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振り返りワーク

この記事で学んだ内容を、自分自身の業務や教育の場面に照らし合わせて整理してみましょう。知識はインプットだけでは定着せず、アウトプットを通じて初めて実践力になります。振り返りワークでは、読んだ内容を確認しながら、自職場での課題や改善に活かせる視点を見つけてください。特に、後輩や関係部署に説明できるレベルで理解できているかを意識しましょう。

Q1:STEP5(試験・検証・現場適合性評価)は、単なる確認作業ではなく、組織知を獲得する重要なステージである。

  • Yes / No

Q2:次のうち、統合的な試験設計の説明として誤っているものはどれか?

  • A. システム試験とユーザ受入試験を分けて行い、重複は避けるべきである
  • B. 異常時対応や教育効果も試験設計に含めるべきである
  • C. 試験設計は、技術部門だけでなく運用・教育部門も関与すべきである
  • D. 現場業務に即した使用条件ベースのシナリオを用いることが重要である

Q3:次のうち、「受入条件の明文化・可視化」によって最も直接的に得られる効果はどれか?

  • A. プロジェクト終了後の報告書の分量削減
  • B. 現場・技術・管理部門間の責任範囲の明確化
  • C. 保守契約費の圧縮交渉がしやすくなる

Q4:次のうち、「検証ログを組織知として活用する視点」を正しく表している文はどれか?

  • A. 試験記録は全て保管義務があるため、フォーマットを整える必要がある
  • B. 検証ログは将来的な技術承継や教育資料への活用を想定して構造化する
  • C. 試験記録は現場向けではなく、ベンダーの評価に用いることが主目的である

Q5:以下のSTEP5における検証プロセスを、適切な順序に並び替えよ(A→B→C→D):

  • A. 教育資料・マニュアルの改訂
  • B. 検証ログの記録と課題整理
  • C. 試験実施と現場からのフィードバック
  • D. 各部門でのフィードバック会議と知見共有

Q6:あなたの職場で直近に実施された試験・受入プロセスを思い出し、「もし今回の記事で示された方法を取り入れていれば、どのような改善ができたか」を200字以内で記述してください。

Q7:若手社員に「なぜユーザ受入試験は重要なのか?」を伝える場面を想定し、あなたならどう説明するかを100字以内で記述してください。

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