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機能要求・性能要求・制約条件を区別する技術

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序章:要件定義でなぜ混乱が生じるのか

公共交通業界の技術導入や設備更新の現場では、しばしば「要件定義の混乱」が発生します。新しい設備やシステムを導入する際、現場の技術者、企画部門、経営層、そして外部ベンダーといった多様な関係者が関与しますが、それぞれの立場で言葉の意味が微妙に異なって受け止められてしまうのです。特に「機能要求」「性能要求」「制約条件」は、一見すると同じようなニュアンスで語られることが多いため、定義を曖昧にしたまま議論を進めてしまうと、最終的に「欲しかったものと違うシステムが出来上がった」という事態に直結します。

例えば、信号設備の更新プロジェクトを考えてみましょう。現場の運転士や駅係員は「列車が安全に停まれること」を当然の大前提として要求します。これは機能要求に相当します。一方で、管理部門は「一編成あたり90秒以下で折り返し処理ができること」を求めるかもしれません。これは性能要求です。そして建築部門や財務部門は「駅ホームの構造を変えないこと」「既存予算内で収めること」といった制約条件を強調します。これらが混在した状態で議論が進むと、同じ「安全確保」という言葉であっても、現場と本社ではまったく異なる意味で理解されてしまうのです。

また、公共交通の特性として「既存システムを止められない中で更新する」という厳しい制約があります。現場では「施工時間が限られる」「夜間にしか工事できない」といった条件が最初から前提になりますが、これを性能要求と誤って整理してしまうと、後になって「工期に無理がある」「設計変更が必要だ」といった不具合が発生します。実際、制約条件を見落としたがために、数か月分の設計作業がやり直しになった事例もあります。こうした混乱は技術者個人の能力不足ではなく、定義の区別を組織として共有できていないことが原因です。

さらに、要件定義は単なる技術的作業ではなく、部門間の利害調整や合意形成のプロセスでもあります。運転部門は安全性と運行効率を重視し、設備部門は保守性を重視し、財務部門はコスト削減を最優先する傾向があります。これらがバラバラに提示されると、最終的に「何を必須条件とし、どこに柔軟性を持たせるか」が曖昧になり、システム仕様が肥大化するか、逆に必要な機能が削ぎ落とされてしまいます。こうしたすれ違いを防ぐためには、要求を「機能」「性能」「制約」に整理する思考のフレームが欠かせません。

序章では、要件定義においてなぜ混乱が生じるのか、その背景と典型的な事例を紹介しました。次章以降では、この混乱を防ぐための基礎知識として「機能要求」「性能要求」「制約条件」を正しく定義し、公共交通の現場に即した形で区別する方法を解説していきます。この記事を通じて、現場の技術者が組織内の議論をリードし、実際の導入プロセスで主体的に貢献できるスキルを身につけることを目指します。

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振り返りワーク

本記事で学んだ「機能要求・性能要求・制約条件」の区別を、自分の業務に照らして言語化していただきます。アウトプットすることで理解は定着し、会議や教育の場でも再利用できる知識に変わります。実案件や所属組織の状況に当てはめ、明日からの実践に直結する形で確認していただきます。

Q1 機能要求は「何をするか」を示し、性能要求は「どの程度うまくするか」を示し、制約条件は「何を守って実現するか」を示す、という整理を今後の議事録や仕様書で明示し続けますか。

  • Yes
  • No

Q2 次の説明のうち内容が誤っているものを一つ選んでください。

  • A. 機能要求は有無で判定できる性質が強く、「〜できること」という表現が適しています。
  • B. 性能要求は数値や条件で定量化し、「〜以内」「〜以上」といった基準で表すことが望ましいです。
  • C. 制約条件は前提や禁止事項を示し、設計や施工の自由度を広げるため柔軟に解釈することが基本です。
  • D. コストや工事時間帯、法令遵守などは典型的に制約条件として扱います。

Q3 ホームドア更新の会議で出た次の発言を最も適切なカテゴリに当てはめてください。

  • A. 「開閉時間を5秒以内にしたいです。」→ 性能要求として扱います / 機能要求として扱います / 制約条件として扱います
  • B. 「転落防止を実現したいです。」→ 性能要求として扱います / 機能要求として扱います / 制約条件として扱います
  • C. 「夜間しか工事できません。」→ 性能要求として扱います / 機能要求として扱います / 制約条件として扱います

Q4 次の記述のうち、表現として最も適切なものを選んでください。

  • A. 「列車位置を高精度に把握すること。」(性能値なしの機能要求としての記述)
  • B. 「列車位置を5秒以内の更新間隔で把握すること。」(機能+性能要求を併記した記述)
  • C. 「列車位置を把握すること。ただし既存無線のみ使用すること。」(機能+制約条件を併記した記述)

Q5 次の作業の自然な順序を選んでください。

  • A. 関係者ヒアリング結果を「機能・性能・制約」に分類して可視化します。
  • B. 検証計画(性能測定方法・判定基準・責任分担)を明文化します。
  • C. 仕様書ドラフトを作成し、関係部門でレビューし合意形成します。

Q6 ご自身の担当設備・案件を一つ挙げ、主要な要求を3分類で各2項目ずつ書き出してください。

  • 機能要求(例:◯◯を実現すること/◯◯できること)を2点記載してください。
  • 性能要求(例:◯◯秒以内/◯◯%以上/誤差±◯◯)を2点記載してください。
  • 制約条件(例:工事時間帯/既設流用/法令・社内基準)を2点記載してください。

Q7 後輩に3分類を教える際の5分レクチャー台本の骨子を作ってください。

  • 導入(なぜ混乱が起きやすいか:1文)
  • 定義(機能・性能・制約の一言定義:各1文)
  • 事例(自部署の具体例で各1つずつ)
  • 型(表現ルール:機能=「〜できること」、性能=数値、制約=「〜しなければならない」)
  • 実践(次の会議で試すアクション:1文)

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