公開日:

導入スケジュール策定におけるクリティカルパス分析

技術者研修
  1. TOP
  2. 技術者研修
  3. 導入スケジュール策定におけるクリティカルパス分析

はじめに:公共交通分野におけるスケジュール管理の重要性

公共交通業界において、新技術の導入や既存設備の更新は、単なる工事計画にとどまらず、運行の安全・利用者サービス・コスト構造に直結する極めて重要な業務です。特に都市鉄道や大規模バス事業者では、設備更新や新システム導入が数年単位で並行的に進行するため、スケジュール管理が全体の成否を左右します。現場の工事担当と本社管理部門が互いに独立して計画を立ててしまうと、作業の重複や段取り不足が発生し、結果的に工程全体の遅延やコスト増につながるケースが少なくありません。

そこで重要となるのが「クリティカルパス分析」です。これは、プロジェクトを構成する多数のタスクのうち、最も時間的に余裕がなく全体の完了時期を左右する一連の工程(クリティカルパス)を抽出し、重点的に管理する手法です。言い換えれば、「どの作業を遅らせると全体に影響するのか」を明確にする考え方であり、導入スケジュールの精度と実効性を高めるために不可欠な技術です。

公共交通の分野では、信号通信や電力、車両、土木建築など多様な部門が関与するため、それぞれの都合を優先すると計画が複雑化しがちです。たとえば、夜間の短時間作業しか許されない軌道上での工事と、基地や変電所で行う大規模更新とが連動する場合、どちらの工事が全体の完了を規定するのかを正しく把握しなければなりません。クリティカルパス分析を行うことで、各部門は「自分の作業が全体に与える影響」を認識でき、無駄のない調整が可能になります。

また、スケジュール管理を誤ると、単に工期が延びるだけでなく、発注者である自治体や利用者からの信頼低下にもつながります。公共交通は社会インフラであるため、「期日通りに安全にサービスを開始する」こと自体が社会的責務です。特にダイヤ改正や補助金申請の締切に間に合わせる必要がある場合、クリティカルパスを軽視した計画は致命的なリスクを抱えることになります。

本記事では、まずクリティカルパス分析の基礎を理解し、次に現場業務での具体的な適用方法、さらに部門間調整やリスク管理の視点を交えながら、導入スケジュール策定にどう実装していくかを解説します。対象読者は主任・中堅クラスを想定していますが、入社5年目未満の若手でも理解できるよう基礎的な解説を含みつつ、ベテラン技術者にも気づきを与える内容を目指しています。

この記事の続きは会員限定コンテンツとなっております。
無料登録またはログインしてください。

新規登録

振り返りワーク

本記事の内容を自分の言葉で整理し、業務や教育の場に接続する練習を行います。アウトプットすることで理解は定着しやすく、現場の判断材料にもなります。以下の設問では、所属部門や担当案件の状況に当てはめて考えることを意識しながら、実務での使いどころを具体的に検討していきます(所要時間の目安:10〜15分)。

Q1:クリティカルパスは「遅れるとプロジェクト全体の完了時期に直結する作業列」であると理解できていますか(Yes / No)

  • Yes(理解しており、職場で説明できる)
  • No(定義や意味があいまいである)

Q2:次の説明のうち誤りに当たるものを選んでください(A~D)

  • A:クリティカルパス上の作業はフロート(余裕)がゼロであることが原則です。
  • B:ネットワーク図は依存関係を表現するため、ガントチャートより前工程の把握に向いています。
  • C:非クリティカル作業が遅れても、全体完了に影響しない場合があります。
  • D:クリティカルパスは一度特定すれば固定であり、計画変更や進捗に影響されません。

Q3:次の三案のうち、公共交通の夜間作業制約下で全体遅延リスクを最も抑えやすい案を選んでください(A~C)

  • A:各部門が独自に夜間枠を確保し、重複したら現場で都度調整する。
  • B:共通カレンダーで夜間枠を一元管理し、クリティカルパス上の作業に優先割当する。
  • C:工程の短縮を優先し、資材納期見込みが不確実でも先行着手する。

Q4:進捗報告の表現として適切なものを選んでください(A~C)

  • A:「据付が1晩遅れましたが、非クリティカルのため全体完了日は変わりません。」
  • B:「クリティカルパスではない作業が遅延したので、全体の完了日を前倒しします。」
  • C:「資材調達が前倒しになりましたが、クリティカルパス上ではないため全体完了日は未変更です。」

Q5:工程計画の標準的な手順を適切な順序(A→B→C…)で並べてください

  • A:タスク分解(WBS)を作成します。
  • B:依存関係を明確化しネットワーク図に落とし込みます。
  • C:各タスクの所要時間を設定します。
  • D:最早/最遅の前進・後退計算を実施します。
  • E:フロート(余裕)を算出します。
  • F:クリティカルパスを特定します。
  • G:リスクを踏まえたバッファ設計を行います。

Q6:ご自身の担当案件に当てはめ、クリティカルパス上に置くべき工程と、その工程に対するバッファの考え方を100〜150字で記述してください

  • 記述欄:例)資材納期が不確実な場合のバッファ、水切替や停電計画との整合、夜間作業枠の優先配分などの観点でまとめます。

Q7:後輩にクリティカルパス分析を説明する20分のミニ研修を設計してください

  • 到達目標:例)定義を説明でき、5〜10タスクの簡易事例でクリティカルパスを特定できる。
  • 実施構成:導入(5分)/演習(10分)/共有(5分)などの流れを記します。
  • 成果物:手書きネットワーク図、ES/EF・LS/LF計算表、クリティカルパスとリスク所見を1枚にまとめます。

関連記事

       

掲載に関する
お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください