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トレーサビリティマトリクス作成による要件管理術
- 技術者研修

はじめに:要件管理の重要性とトレーサビリティマトリクスの役割
公共交通業界では、新しいシステムや設備を導入する際、数多くの要件が関係します。例えば、現場での安全性確保、既存設備との互換性、保守のしやすさ、利用者への影響低減など、現場技術者から経営層まで多層的な視点を調整しなければなりません。しかし実際には、要件が十分に整理されないままプロジェクトが進行し、後工程で「聞いていた内容と違う」「誰が承認したのか不明」「試験で確認できない」といったトラブルに直面するケースが少なくありません。特に公共交通では安全性と継続運行が必須条件であるため、要件の不整合は事業全体の信頼を損ねるリスクにつながります。
こうした課題に対して有効な手段の一つが、トレーサビリティマトリクス(Requirements Traceability Matrix:RTM)です。RTMは「どの要件が、どの仕様に反映され、どの試験で検証され、どの部署が責任を負うか」を一元的に可視化する表であり、プロジェクト全体の共通言語として機能します。要件と成果物を縦横に結びつけることで、漏れや重複、責任の所在を明確化し、プロジェクトの透明性を高めることができます。
またRTMの活用は、単なる表形式の管理以上の意味を持ちます。現場担当者にとっては「自分の業務がどの要件につながっているか」を把握できる指標となり、管理部門にとっては「要求と成果物が整合しているか」を確認するツールとなります。これにより、現場と管理部門の断絶を埋め、技術導入や業務改善の精度を高めることが可能になります。特に鉄道やバスの信号通信設備や運行管理システムといった複雑な領域では、要件の見落としが後の大規模トラブルに直結するため、RTMは必須のツールといえます。
本記事では、トレーサビリティマトリクスの基本構造から実務に即した作成手順、部門連携や教育での活用法までを体系的に解説します。主任・中堅クラスの技術者が現場で即実践できる内容としつつ、初学者にも理解しやすい構成とすることで、組織全体での要件管理レベル向上を目指します。
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