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冗長設計・フェイルセーフ設計 実践ハンドブック

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はじめに:冗長設計・フェイルセーフ設計の重要性

公共交通システムは、多数の利用者の安全を預かる社会インフラであり、わずかな機器の不具合や設計上の見落としが重大事故につながるリスクを常に抱えています。そのため、設計段階から「安全側に倒れる仕組み」を組み込むことは不可欠であり、冗長設計やフェイルセーフ設計はその根幹を成す思想です。特に鉄道やバスといった公共交通では、一度に数百人単位の乗客を輸送するため、単一障害点(Single Point of Failure)を放置すれば運行停止や人命に関わる事態を招きかねません。現場では「壊れることを前提に設計する」姿勢が求められ、その姿勢をいかにシステム全体に織り込むかが技術者の腕の見せ所となります。

冗長設計とは、「主要な機能を複数の系統で支える仕組み」を指し、電源二重化や信号回路の並列化、通信経路のバックアップなどが代表例です。これにより、片系が故障しても全体が停止せず、運行を継続できる強靭性を確保できます。一方、フェイルセーフ設計は「万一の故障が起きても安全側に動作する」思想であり、たとえば鉄道信号機が球切れを起こした際には自動的に赤信号を表示する仕組みなどが典型です。両者は補完関係にあり、冗長設計が「止めない工夫」であるのに対し、フェイルセーフ設計は「止めてでも安全を守る工夫」と言えます。このバランスをどう取るかが、実務における設計判断の難しさであり、設計者にとって最も重要な思考課題のひとつです。

また、これらの思想は設計部門だけで完結するものではなく、運行管理部門や保守現場との密な連携が欠かせません。例えば冗長化した電源を導入しても、現場の技術者が切替手順を理解していなければ、障害発生時に十分な効果を発揮できません。逆にフェイルセーフ設計を徹底しすぎると、少しの不具合でシステムが停止し、運行に過剰な影響を与える恐れもあります。このため、設計者は「現場でどのように運用・維持管理されるか」を想定したうえで、冗長性とフェイルセーフ性の最適点を探る必要があります。

公共交通における安全確保は、単なる技術論ではなく、社会的責務そのものです。冗長設計・フェイルセーフ設計を理解し実践できるかどうかは、技術者個人の力量だけでなく、組織全体の成熟度を測る指標ともなります。本記事では、その基本原則から具体的な実務手法、部門間の連携方法、教育展開に至るまでを整理し、現場で直ちに活用できる実践知として提供します。主任・中堅クラスの技術者が自らの判断力を高め、現場と管理部門の橋渡しを担うための一助となることを目指します。

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振り返りワーク

学んだ内容を自分の言葉で整理し直すことで、知識は実務で使える技に変わります。本ワークでは、現場や社内教育の場面を想定しながら、冗長設計・フェイルセーフ設計を自分の業務状況に当てはめて検討します。理解度の確認に加え、明日からの行動に結びつけます。

Q1:冗長設計とフェイルセーフ設計の違いを、同僚に一分で説明できますか。

  • Yes
  • No

Q2:次のうち説明として誤っているものを一つ選んでください。

  • A. 冗長設計は片系の故障時でも機能継続を狙いますが、コストや保守性とのバランスを要します。
  • B. フェイルセーフ設計は異常時に安全側へ収束させますが、停止頻度と運行影響の最適化が必要です。
  • C. フェイルオペレーショナルは障害時に安全停止を最優先し、必ず運行を止めます。
  • D. 単一点故障の排除は、代替経路や安全制御で単独故障の致命化を避けます。

Q3:電源二重化の切替方式として、現場影響が最も小さくなる可能性が高いものを選んでください。

  • A. コールドスタンバイ(待機起動)
  • B. ホットスタンバイ(常時同期)
  • C. 手動切替(現場到着後に操作)

Q4:フェイルセーフの表現として適切な例文を選んでください。

  • A. 通信断時は最後の制御値を保持し続け、運行を継続します。
  • B. ポイント異常時は進行できない側に固定し、列車を安全に停止または抑止します。
  • C. 信号電球断時は進行表示を維持し、ダイヤ乱れを回避します。

Q5:冗長化導入の基本手順として適切な順序に並べてください。

  • A. クリティカル機能の特定とリスク評価(FMEA/FTA 等)
  • B. 方式比較と要件合意(安全・運行・コスト・保守の評価軸)
  • C. 設計・調達・切替挙動の検証計画立案
  • D. 現地試験・切替訓練・運用手順への組込み

Q6:自部署の設備を一つ挙げ、冗長化またはフェイルセーフを強化する具体案を200~300字で述べてください。

  • ヒント:対象設備/想定故障モード/安全側の目標状態/切替・縮退の挙動/現場手順と教育/概算コストと効果

Q7:後輩に本テーマを教える際の30分勉強会ミニ構成を作成してください。

  • ヒント:導入(3分)/障害事例と学び(7分)/方式比較ワーク(10分)/切替手順デモ動画・手順書確認(7分)/振り返りと次回課題(3分)

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