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テストコスト最適化:リスクベースドテスト(RBT)導入法

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序章:テストコスト最適化が求められる背景

公共交通業界におけるシステムや設備の導入・更新プロセスでは、安全性と信頼性を担保するために膨大な試験・検証が行われます。信号システム、車両制御装置、通信設備、ホームドアなど、いずれも人命や運行の安定性に直結するため、試験を簡略化することは許されません。しかし一方で、限られた人員・予算の中で試験工程が肥大化し、プロジェクト全体のコスト増大やスケジュール遅延につながる事例も少なくありません。

特に近年は、システムの複雑化と新技術の導入により、試験の範囲が拡大し続けています。従来は電気部門や工務部門など特定の技術領域内で完結していた検証も、現在ではIT部門や運行管理部門まで巻き込む必要があり、関係者の調整にかかる負荷が増しています。その結果、現場では「すべての試験を網羅的に実施する」という方針が優先されがちであり、リスクの高低にかかわらず均一なリソース配分が行われてしまう傾向が見られます。

この状況を打開するアプローチの一つが「リスクベースドテスト(Risk-Based Testing, RBT)」です。RBTは、試験項目ごとのリスクを定量的・定性的に評価し、優先度を明確化したうえでリソースを集中投下する手法です。すべてのケースを一律に試すのではなく、「障害発生時の影響が大きい領域」「発生頻度が高い領域」「検証が難しい領域」など、事業継続性や安全性に直結する部分に重点を置きます。これにより、同じリソースでもより高い品質と効率を両立させることが可能となります。

また、RBTは単なる試験効率化の技術ではなく、組織内の意思決定プロセスを整理する手段でもあります。現場では「本当にこのテストは必要か」「どこまで確認すれば安全と言えるのか」という議論が頻発しますが、多くの場合は経験則や前例に依存してしまいます。管理職や経営層から見れば、限られた予算と人員をいかに最適に配分するかが課題であり、現場の主張をそのまま受け入れるだけでは持続的な改善は望めません。RBTは、リスク評価という客観的基準を導入することで、現場と管理の間に共通の言語を形成し、部門間の断絶を埋める役割を果たします。

さらに、教育の観点でもRBTの導入は意義があります。入社0〜5年目の若手技術者は、試験作業を「手順をなぞる作業」と捉えがちですが、リスクという視点を持ち込むことで「なぜこの試験が重要なのか」「どの項目を優先すべきか」を自分で考える習慣が身につきます。これにより、単なるオペレーターから意思決定に関わる技術者へと成長する素地を養うことができます。

本記事では、RBTの基本概念から導入プロセス、部門連携の仕組み、教育設計、そして管理職・経営層が果たすべき役割に至るまでを体系的に解説します。単なる理論ではなく、公共交通業界で実際に直面する制約やリスクを前提に、現場でそのまま活用できる知見を提供することを目的としています。

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振り返りワーク

本記事の学びを自分の業務に落とし込むことで、知識ははじめて実力として定着します。ここではアウトプットを通じて理解を可視化し、現場・管理・経営の橋渡しに役立つ思考を鍛えます。自社の状況や担当案件に当てはめて考えることで、明日からの行動に直結させていきます。

Q1:RBTは「影響度×発生可能性」に基づき、リスクが高い領域へ試験資源を重点配分する考え方であると理解していますか。

  • Yes
  • No

Q2:次の説明のうち、RBTの説明として誤っているものを一つ選んでください。

  • A. RBTはリスクの高低に応じて試験の優先度を変える考え方です。
  • B. RBTは網羅性を放棄し、安全要求を満たさない領域を意図的に残します。
  • C. RBTは共通基準を用いた部門横断の合意形成に役立ちます。
  • D. RBTは経営層への投資対効果の説明に資する枠組みです。

Q3:次のうち、RBTの優先度設定として妥当性が最も高いものを選んでください。

  • A. 影響度が最大だが発生可能性が極めて低い機能は、低優先に回します。
  • B. 影響度が中程度で発生可能性が高い機能は、優先度を上げて早期に検証します。
  • C. 発生可能性が低い機能は、影響度に関係なく一律で後回しにします。

Q4:管理層への報告文として、RBTの意図をもっとも適切に伝えているものを選んでください。

  • A. 「全項目を均等に試験しました。結果は別紙の通りです。」
  • B. 「高リスク50項目に工数の70%を配分し、重大障害リスクを30%低減しました。」
  • C. 「試験時間が不足したため、低優先項目をいくつか割愛しました。」

Q5:RBTを用いた試験計画の一般的な流れとして妥当な順序に並び替えてください。

  • A. テスト対象とシナリオの洗い出し
  • B. 影響度・発生可能性の基準合意とスコアリング
  • C. 優先度(A/B/C等)の設定と資源配分
  • D. 進行中の見直し(設計変更や現場条件の反映)

Q6:自部門の直近プロジェクトで「高リスクと判断した試験項目」を一つ挙げ、選定根拠(影響度・発生可能性・代替策)、投入工数、期待される効果を200~300字で整理してください。

  • 記載の観点:対象機能/障害時の影響(安全・運行・顧客)/発生要因の想定/検証方法と判定基準/省略・簡略化しない理由

Q7:入社1~3年目の後輩にRBTを教えるときの指導計画を作成します。90分勉強会を想定し、到達目標、教材、演習(リスクマトリクス作成)、評価方法(Before/Afterテスト)を箇条書きで示してください。

  • 記載の観点:学習ゴール/使用する実案件データ/演習手順/評価観点(基準適用の一貫性・説明力)/現場展開のフォロー方法

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