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事業継続性(BCP)を考慮した導入計画策定
- 技術者研修
序章:BCP視点が導入計画に不可欠な理由
公共交通における設備やシステムの導入計画は、従来「コスト・性能・納期」の三点を基準に判断されることが一般的でした。しかし、地震や豪雨などの自然災害、サイバー攻撃や大規模停電といった突発的な事象が相次ぐ現代においては、それだけでは十分ではありません。事業継続性(Business Continuity Plan:BCP)の視点を取り入れなければ、導入した設備がいざという時に機能せず、交通全体の停止や利用者の安全確保に重大な影響を与えるリスクがあります。
BCPの考え方を導入計画に組み込むことは、単なる「非常時対応マニュアル」を整えることとは異なります。平常時の設計・調達・スケジュール段階から、災害時や障害発生時を想定した「冗長性」「復旧性」「代替性」を盛り込むことが不可欠です。例えば、新しい信号システムを導入する際にバックアップ系統を同時に整える、サプライヤーを複数確保して部品供給の途絶を防ぐ、施工計画に災害発生時の中断リスクを織り込む、といった具体策が挙げられます。
また、BCPは現場部門と管理部門の連携なしには成り立ちません。現場は「災害時に本当に稼働できるか」「保守員が対応可能か」という実務的な観点を持ち、管理部門は「財務的な影響」「外部ステークホルダーとの調整」を視野に入れる必要があります。この両者の視点を導入計画策定時に統合することで、組織として持続可能な運営基盤を確立することができます。
さらに、BCP視点での導入は「教育・訓練」と不可分です。どれほど優れた設備を導入しても、非常時に現場担当者が操作や判断に迷えば効果は半減します。導入時点から「教育体系にどう組み込むか」を意識することが、長期的な事業継続性を支える鍵となります。
本記事では、STEP6「導入決定・契約・スケジュール策定」の応用編として、BCPを考慮した導入計画のポイントを体系的に整理します。公共交通業界の管理職・経営層が意思決定を行う上で必要な観点を提示すると同時に、若手や現場担当者が「なぜBCPが重要なのか」を理解し、自ら実践できるようになることを目指します。これにより、単なる設備更新にとどまらず、災害やトラブルに強いインフラを次世代へ引き継ぐための知見を提供します。
振り返りワーク
本記事の学びを自分の業務に重ねて言語化します。アウトプットすることで理解が定着し、職場での意思決定や教育に応用しやすくなります。現場・管理・ベンダー連携の文脈に当てはめ、明日からの行動へつなげて考えます。
Q1:今回の導入計画では、RTO(復旧目標時間)とRPO(許容データ損失量)を数値で設定する必要性を理解しましたか?
- Yes(理解した)
- No(再確認が必要)
Q2:BCPを契約・調達段階に組み込む観点として「誤り」となるものはどれでしょうか?
- A. SLAに一次対応時間やRTOを明記する
- B. 代替調達ルートを仕様書に記載する
- C. 非常時の連絡体制を相互に定義する
- D. コスト上昇を避けるためBCP要件は別紙にし数値は記載しない
Q3:スケジュール策定で優先度が高いと考えるものを選んでください
- A. クリティカルパス工程にバックアップ手順を事前組込みする
- B. 並行稼働期間を最小化して切替を一度で終える
- C. 天候・許認可など外部要因のマイルストーンを早期設定する
Q4:障害シナリオ共有の表現として適切だと感じるものを選んでください
- A. 「障害発生時は速やかに対応する」
- B. 「地震発生30分後に停電、指令室システム停止。90分以内に暫定運行へ切替」
- C. 「復旧はできるだけ早く実施する」
Q5:BCPを導入計画へ織り込む基本の流れとして自然だと思う順に並べてください
- A. リスクシナリオの洗い出しと優先度評価
- B. 要件定義へのRTO/RPO・冗長化条件の反映
- C. 契約・調達でSLA・代替調達条項の明文化
- D. スケジュールに並行稼働・中断再開手順・訓練を組込み
Q6:自身の担当業務で、直近の導入・更新案件において強化したいBCP施策を具体的に挙げてください
- 想定する障害シナリオ(例:停電+通信断の複合)
- 対象工程(例:現場切替、センター接続試験 など)
- 強化施策(例:予備期間の追加、部品の前倒し調達、訓練項目の追加)
- 期待効果(例:RTO短縮、迂回運行の確保)
Q7:入社5年目までの後輩に対し、BCP視点を導入計画で実践してもらうため、どのように指導しますか?
- 学習目標(例:RTO/RPOの定義と算定根拠を説明できる)
- 実務課題(例:自部署のリスクマトリクス作成と上申)
- 伴走方法(例:週次レビューでシナリオと手順書を確認)
- 評価と振り返り(例:訓練での気づきを次サイクルへ反映)
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