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VVVFインバータ制御とは|鉄道用語を初心者にも分かりやすく解説

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「VVVFインバータ制御」という言葉、鉄道業界に携わっている方なら一度は耳にしたことがあるでしょう。しかし、その正確な仕組みや、なぜ現代の鉄道車両に欠かせない技術となっているのかを詳しく説明できる人は意外と少ないかもしれません。また、鉄道ファンの方々にとっても、VVVFインバータ独特の音は魅力の一つですが、その音の正体を知ることで、さらに鉄道の世界が面白くなります。この記事では、VVVFインバータ制御の基本的な仕組みから、そのメリット、種類、そして日本の主要な鉄道会社でどのように活用されているのかまで、専門家が初心者の方にもわかるように丁寧に解説します。この記事を読み終える頃には、電車に乗るたびにVVVFインバータ制御の奥深さに感動することでしょう。

VVVFインバータ制御とは?

VVVFインバータ制御とは、簡単に言うと、電車のモーターを効率良く動かすための制御技術です。VVVFは「Variable Voltage, Variable Frequency」の頭文字で、「可変電圧・可変周波数」を意味します。つまり、モーターに供給する電圧と周波数を自在に変えることで、モーターの回転速度を細かく制御する仕組みです。この制御によって、電車は滑らかに発進・加速し、電力消費を抑えることができるのです。電車が発車する際に「ヒューン」「キュイーン」といった独特の音を耳にしたことはありませんか?実は、あの音こそがVVVFインバータ制御によって生み出される「磁励音」と呼ばれるもので、モーターに流れる電流の周波数変化が原因で発生します。

VVVFインバータ制御の仕組み:なぜモーターを自在に操れるのか

VVVFインバータ制御の核となるのは、「インバータ」と呼ばれる装置です。インバータは、直流電力を交流電力に変換する役割を担っています。しかし、ただ変換するだけではありません。半導体素子(スイッチ)を高速でオンオフさせることで、出力する交流電力の電圧と周波数を細かく調整できるのです。

具体的には、以下のステップで制御が行われます。

制御の基本ステップ

  • 整流: まず、架線から取り込んだ交流電力(交流区間の場合)や、直流変電所から供給される直流電力を、インバータが扱いやすい直流電力に変換します。交流区間では「整流器」を使用し、直流区間ではこのステップを省略します。
  • 平滑: 整流された直流電力は、コンデンサによって電圧を一定に保ち、ノイズを抑制します。これは、スムーズなインバータの動作に不可欠です。
  • 変換(インバータ): 平滑化された直流電力を、高速でスイッチングする半導体(IGBTなど)を用いて、電圧と周波数を自由に変化させながら交流電力に変換します。このとき、PWM(パルス幅変調)制御という技術が用いられ、パルス(電圧のON/OFF)の幅を変えることで、実効的な電圧を調整します。
  • モーター駆動: 最後に、インバータから出力された可変の交流電力を、誘導モーター(三相かご形誘導電動機)に供給し、回転速度を制御します。

VVVFインバータ制御の誕生と歴史

VVVFインバータ制御は、鉄道の歴史において画期的な技術革新でした。それ以前の主流だったのは、「抵抗制御」という方法です。これは、モーターに流れる電流を抵抗器で調整することで速度を変える仕組みで、加速時に大量の熱としてエネルギーを捨ててしまうという大きな欠点がありました。

抵抗制御との比較

抵抗制御はシンプルで信頼性が高い一方、エネルギー効率が悪く、発熱も大きいため、車両の軽量化や省エネ化が難しいという課題がありました。一方、VVVFインバータ制御は、エネルギーを熱として捨てることなく、効率的にモーターを制御できるため、大幅な省エネを実現しました。この技術は、半導体素子の進化とともに発展し、1980年代から本格的に鉄道車両に採用され始めました。

VVVFインバータ制御が主流になったのか

VVVFインバータ制御が現代の鉄道車両に欠かせない技術となったのは、その数多くのメリットにあります。単なる省エネだけでなく、鉄道の運行全体に良い影響をもたらしました。

①圧倒的な省エネルギー効果

最大のメリットは、電力消費を大幅に削減できる点です。前述の抵抗制御と比べ、発進・加速時のエネルギーロスがほとんどありません。さらに、回生ブレーキと組み合わせることで、減速時にモーターが発電機として働き、その電力を架線に戻すことができます。この回生電力は、後続の電車が加速する際に利用されるため、システム全体でのエネルギー効率が飛躍的に向上します。

②滑らかな乗り心地の実現

VVVFインバータ制御では、モーターの回転数をコンピュータが細かく制御するため、抵抗制御のように段階的な加速ではなく、非常に滑らかな加速・減速が可能になりました。これにより、乗客は加速G(加速度)の変化をほとんど感じることなく、快適に過ごすことができます。揺れが少ないため、立ち客の安全確保にも寄与します。

③メンテナンスコストの削減

VVVFインバータ制御の登場により、従来の抵抗制御で必要だった多くの機械部品(抵抗器、カム軸など)が不要になりました。複雑な機械部品が減ったことで、故障リスクが低減し、メンテナンスの手間とコストが大幅に削減されました。また、モーター自体もメンテナンスが容易な誘導モーター(誘導電動機)が主流となり、ブラシの交換などが不要になりました。

④車両の高性能化・軽量化

機器の小型化・軽量化が進んだことで、車両全体の重量を減らすことができ、さらなる省エネに繋がります。また、誘導モーターは直流モーターよりも小型で高出力なため、車両の性能向上にも貢献しています。

⑤騒音の低減

VVVFインバータの「磁励音」は特徴的ですが、それ以外の騒音(特に機械的な騒音)は低減されています。また、近年ではキャリア周波数を高めることで、耳障りな高音域の磁励音を低減する技術も進んでいます。

VVVFインバータ制御の種類

一口にVVVFインバータ制御といっても、様々な種類があります。これらの違いは、主に使われている半導体素子の種類や、制御方式にあり、それぞれ異なる特徴や「音」を生み出します。

GTOサイリスタを用いたインバータ

VVVFインバータ制御の初期に広く採用されたのが、GTO(Gate Turn-Off)サイリスタです。この素子は、比較的低い周波数でスイッチングを行うため、特徴的な階段状の「ヒューン」という磁励音が発生します。

GTOインバータの音と特徴

GTOインバータの音は、加速するにつれて「ファソラシド」と音階をなすように変化していくのが特徴です。比較的シンプルな音の構成で、国鉄205系や東急2000系など、1980年代から1990年代にかけて製造された車両に多く採用されました。しかし、消費電力が大きく、素子自体も重いため、現在はIGBTへの置き換えが進んでいます。

IGBTを用いたインバータ

現在の主流となっているのが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いたインバータです。IGBTはGTOサイリスタよりも高速でスイッチングが可能で、小型・軽量・低消費電力という優れた特徴を持っています。

IGBTインバータの音と特徴

IGBTインバータは、高速スイッチングにより高周波数の磁励音を発生させます。この音は、加速するにつれて連続的に変化する「キュイーン」「プゥー」といった音に聞こえます。これは、PWM制御のキャリア周波数という要素が大きく関わっています。キャリア周波数が高いほど耳障りな音が軽減され、より滑らかな音に聞こえます。JR東日本のE231系やE233系など、多くの新型車両に採用されています。

SiCを用いたインバータ

近年、次世代の半導体として注目されているのがSiC(炭化ケイ素)を用いたインバータです。SiCは、IGBTよりもさらに高速でスイッチングが可能で、大幅な電力損失の低減と機器のさらなる小型化を実現します。

SiCインバータの将来性と特徴

SiCインバータは、さらなる省エネと軽量化に貢献します。また、スイッチングの高周波化により、磁励音はより高音になり、人には聞こえにくい領域にまでシフトさせることができます。JR西日本の323系や東京メトロの13000系など、最新の車両への採用が広がっています。

VVVFインバータ制御の様々な方式

VVVFインバータ制御には、インバータの半導体素子の種類だけでなく、モーターをどのように制御するかという「制御方式」にもいくつかの種類があります。この方式の違いも、車両の性能や特性に影響を与えます。

電圧・周波数パターン制御(V/f制御)

最も基本的な制御方式です。モーターに供給する電圧(V)と周波数(f)の比率を常に一定に保つことで、モーターの回転数を制御します。

V/f制御の特徴

構造がシンプルでコストが低い反面、モーターのトルク(回転力)を正確に制御することが難しく、特に低速域での加速が滑らかでない場合があります。

ベクトル制御

現代の高性能な車両で主流となっているのがベクトル制御です。これは、モーターに流れる電流を、トルクに関わる成分と、磁束(モーターの磁力)に関わる成分に分けて独立して制御する方式です。

ベクトル制御のメリット

ベクトル制御は、モーターのトルクをリアルタイムで正確に制御できるため、極めて滑らかな加速・減速を実現します。また、低速域でも高いトルクを出せるため、坂道での力強い走行も可能です。これにより、抵抗制御時代には難しかった急勾配路線での運用や、より快適な乗り心地が実現しました。

VVVFインバータ制御と回生ブレーキ

VVVFインバータ制御の真価は、回生ブレーキとの組み合わせによって最大限に発揮されます。回生ブレーキは、車両が減速する際にモーターを発電機として利用し、発生した電力を架線に戻す仕組みです。

回生ブレーキの仕組み

通常、電車は減速時に摩擦ブレーキを使用しますが、回生ブレーキはこれとは異なり、モーターの回転力を利用します。

具体的には、以下のステップでエネルギーを回収します。

回生ブレーキの動作

  • モーター発電機化: 減速時、VVVFインバータはモーターの回転を逆利用し、モーターを発電機として機能させます。
  • 電力変換: このときモーターから発生するのは交流電力ですが、VVVFインバータがこれを直流電力に変換します。
  • 架線への回生: 変換された直流電力は、架線を通じて後続の電車や変電所に戻されます。変電所ではこの電力を系統に送り返したり、別の用途に利用したりします。

回生失効とは?

回生ブレーキは、後続の電車が加速している場合など、回生した電力の「受け皿」がある場合に有効に機能します。しかし、受け皿がない場合(例えば、他の電車がいない時や、変電所の容量に余裕がない時)には、回生した電力を逃がすことができず、回生ブレーキが効かなくなります。これを「回生失効」と呼び、この場合は摩擦ブレーキが作動して減速を補います。

日本の鉄道におけるVVVFインバータ制御の導入事例

日本国内の多くの鉄道会社がVVVFインバータ制御を導入しています。それぞれの会社が、路線や運行形態に合わせた独自の制御技術や車両設計を行っています。

JR東日本

JR東日本は、日本で最もVVVFインバータ制御の車両を多く保有している会社の一つです。通勤型車両であるE231系E233系は、IGBT素子を用いたVVVFインバータ制御を採用しており、高い省エネ性能と安定した走行を実現しています。近年では、さらに高性能なSiC素子を用いたE235系が山手線などで活躍しています。

JR東海

東海道新幹線を運行するJR東海も、VVVFインバータ制御を積極的に導入しています。N700系N700S系といった車両は、VVVFインバータ制御によって、高速走行時の電力効率を向上させています。特にN700S系では、SiC素子の採用により、さらなる消費電力の低減と軽量化を実現しました。

東京メトロ

地下鉄を運行する東京メトロも、全ての新型車両にVVVFインバータ制御を採用しています。10000系(有楽町線・副都心線)や13000系(日比谷線)などは、IGBT素子やSiC素子を用いた制御で、地下区間での高いエネルギー効率と静粛性を確保しています。

東武鉄道

東武鉄道の50000系70000系など、多くの車両がVVVFインバータ制御を採用し、省エネ化を推進しています。特に70000系は、東京メトロ13000系との直通運転に対応しており、共通の技術基盤を持つことで、メンテナンス性の向上にも貢献しています。

西武鉄道

西武鉄道も、30000系「S-TRAIN」40000系などでVVVFインバータ制御を積極的に導入しています。特に40000系は、ロング・クロスシートの転換が可能な車両で、快適な乗り心地と省エネを両立させています。

これらの事例からもわかるように、VVVFインバータ制御は、日本の鉄道における標準技術となり、各社がさらなる高性能化を目指して技術開発を続けています。

VVVFインバータ制御の課題と展望

VVVFインバータ制御は非常に優れた技術ですが、課題がないわけではありません。技術の進化とともに、これらの課題を克服し、さらに効率的で快適な鉄道システムを構築するための研究開発が進められています。

今後の技術トレンドと展望

VVVFインバータ制御の今後の展望は、主に以下の3つの方向性で進化していくと考えられます。

①さらなる高効率化と小型化

SiC半導体のような次世代パワー半導体の開発は、電力損失をさらに低減し、インバータ装置の小型化・軽量化を可能にします。これにより、車両の省エネ性能が飛躍的に向上し、メンテナンスコストもさらに削減されます。

②環境負荷の低減

VVVFインバータ制御は、省エネだけでなく、走行時の騒音や振動を低減する効果もあります。今後の研究では、磁励音をさらに低減する技術や、電磁ノイズを抑制する技術が重要になってきます。

③スマート化と連携

鉄道システム全体のスマート化が進む中で、VVVFインバータ制御も他のシステムと連携し、より高度な制御を行うようになるでしょう。例えば、運行状況や混雑度に応じてモーターの出力を自動で調整するシステムや、AIを活用してエネルギー消費を最適化するシステムなどが考えられます。

これらの技術革新により、未来の鉄道はさらにクリーンで快適な公共交通機関へと進化していくでしょう。VVVFインバータ制御は、その進化の鍵を握る重要な技術であり続けます。

まとめ:VVVFインバータ制御は鉄道の未来を創る

本記事では、VVVFインバータ制御の基本的な仕組みから、そのメリット、種類、そして日本における導入事例までを詳しく解説しました。VVVFインバータ制御は、単に電車を動かすための装置ではなく、省エネルギー快適な乗り心地メンテナンス性の向上という現代の鉄道に不可欠な要素を支える心臓部です。

電車が発車する際の「ヒューン」という独特の音は、技術の進歩を物語る音であり、その音の裏側には、緻密な電力制御と革新的な半導体技術が存在します。業界関係者の方々は、この技術を深く理解することで、業務への理解が深まるでしょう。また、鉄道に興味を持った方々にとっても、VVVFインバータ制御の知識は、さらに鉄道の世界を楽しむための重要な鍵となります。

今後、SiC半導体の普及やAIの活用により、VVVFインバータ制御はさらに進化を遂げ、持続可能な社会に貢献していくことでしょう。この記事が、皆さんのVVVFインバータ制御に対する理解を深める一助となれば幸いです。

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