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サービス経営理論(S-Dロジック)に基づく運用価値最大化アプローチ
- 技術者研修

1. S-Dロジックとは何か:サービスを「価値共創」として捉える視点
S-Dロジック(Service-Dominant Logic)は、アメリカの学者ヴァーゴとラスによって提唱された「サービス中心の経済理論」です。その核心は、「価値はモノの所有や提供によって生まれるのではなく、利用の過程で共創される」という考え方にあります。つまり、製品や設備そのものが価値を持つのではなく、それを用いて顧客や利用者が目的を達成するときに初めて価値が発生するというものです。
従来のG-Dロジック(Goods-Dominant Logic)は「モノを作り、渡した時点で価値が完結する」という発想でした。公共交通業界においても、車両・信号・通信・電力といったハードウェアを整備し、稼働させること自体を成果と捉えがちです。しかしS-Dロジックでは、これらは価値を生み出すための「資源(リソース)」であり、運用段階での活用のされ方によって初めて社会的・経済的価値が実現すると考えます。
たとえば、駅のホームドアを例にとると、設置した瞬間に安全性が最大化されるわけではありません。現場オペレーションとの連携、メンテナンスの確実な実施、異常時の復旧プロセス、利用者の動線誘導など、日々の「使われ方」の中で安全性という価値が共創されていきます。これがS-Dロジックの実務的な意味です。
S-Dロジックは「サービス=無形の行為」と捉えるのではなく、「すべての経済活動がサービスである」と広く定義します。つまり、鉄道会社が安全な輸送を提供する行為、メーカーが保守契約を通じて安定稼働を支援する行為、現場担当者が点検記録を残して改善に結びつける行為──これらすべてが「サービス」であり、価値創出の一部と位置づけられます。
この考え方は、単なる理念にとどまらず、現場改善や設備更新の方針決定にも直結します。S-Dロジックを採用すると、設備導入の目的を「モノを整えること」ではなく「利用価値を最大化すること」へと再定義できます。たとえば、通信設備の更新であれば、伝送容量の向上だけでなく「現場での障害対応を短縮する」「運転司令が情報を即時共有できる」など、利用プロセスの価値を意識するようになります。
このように、S-Dロジックは「モノ中心」から「利用中心」へと発想を転換させ、運用段階での改善活動に理論的基盤を与える考え方です。次章では、このロジックを公共交通の運用現場に適用した際の「運用価値」の構造について整理します。
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