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モービルマッピングシステム(MMS)とは|道路用語を初心者にも分かりやすく解説

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道路やインフラの維持管理、そして自動運転技術の開発に不可欠な技術として注目を集めているモービルマッピングシステム(MMS)をご存知でしょうか? この記事では、MMSの専門家である私が、MMSの基本的な定義から、その根幹を支えるセンサー技術、取得されるデータの種類、具体的な活用事例、さらにはMMSを導入している企業の事例まで、初心者の方にも理解できるように詳しく解説します。MMSについて「名前は聞いたことがあるけど、具体的に何ができるの?」という疑問をお持ちの方、あるいは業務でMMSの導入を検討されている方にとって、この記事がMMSの全体像を把握する一助となれば幸いです。

モービルマッピングシステム(MMS)とは?

モービルマッピングシステム(MMS)とは?

自動車や船舶、時にはドローンに搭載された高精度なセンサー群を使って、走行・移動しながら周囲の3次元空間情報を効率的に取得するシステムです。このシステムの最大の特長は、従来の測量方法に比べて、広範囲のデータを圧倒的な速さと精度で収集できる点にあります。MMSは、単に位置を測るだけでなく、道路や周辺の建物、構造物、さらには植生に至るまで、あらゆるものを3Dデータとしてデジタル化します。

MMSがなぜこれほどまでに注目されているかというと、その背景には社会インフラの老朽化、そして自動運転技術の実用化といった社会課題があります。これらの課題を解決するためには、高精度で最新の地理空間情報が不可欠であり、MMSはまさにその情報を効率的に取得するための最適なソリューションなのです。MMSは、GNSS、IMU、LiDAR、そしてカメラを組み合わせることで、高精度な三次元点群データや画像データを作成します。

モービルマッピングシステム(MMS)と静止測量、航空測量の違い

測量技術には、MMSの他に静止測量航空測量といった方法があります。それぞれの違いを比較することで、MMSの優位性がより明確になります。

  • 静止測量:トータルステーションやGNSS測量機を特定の地点に固定して測量を行う方法です。非常に高い精度が得られますが、広範囲の測量には膨大な時間と労力がかかります。
  • 航空測量:飛行機やヘリコプターにカメラやLiDARを搭載して、上空から広範囲のデータを取得する方法です。広域の測量には向いていますが、建物の陰や狭い道路など、詳細なデータの取得は難しい場合があります。
  • モービルマッピングシステム(MMS):車両に搭載して移動しながら測量するため、静止測量と航空測量の「良いとこ取り」をしたようなシステムです。広範囲のデータを短時間で、かつ高密度に取得できるという、これまでの測量技術にはない大きなメリットを持っています。また、地上からの視点でデータを取得するため、道路周辺の詳細な情報を効率的に収集できます。

モービルマッピングシステム(MMS)を構成する主要なコンポーネント

MMSは、複数のセンサーが連携して初めてその機能を発揮します。主要なコンポーネントとその役割は以下の通りです。

  • GNSS(全球測位衛星システム)受信機:GPS、GLONASS、Galileo、準天頂衛星(QZSS)などの衛星からの信号を受信し、車両の正確な絶対位置(緯度・経度・高度)を計測します。高精度な測位には、基準局のデータを利用して誤差を補正するRTK(Real Time Kinematic)やPPP(Precise Point Positioning)などの技術が用いられます。
  • IMU(慣性計測装置):3つの加速度計と3つのジャイロスコープを内蔵し、車両の動き(加速度、角速度)と姿勢(ロール、ピッチ、ヨー)を高精度に計測します。GNSS信号が届かないトンネルや高層ビルの間でも、このIMUデータによって車両の位置や姿勢を正確に補正し、データの連続性を保つことができます。
  • LiDAR(ライダー):レーザー光を照射し、対象物で反射して戻ってくるまでの時間から距離を計測するセンサーです。MMSでは、360°全方位にレーザーを照射できるLiDARを複数台搭載し、周囲の環境を点群データとして取得します。この点群データは、数百万〜数千万の点の集合体であり、一つ一つの点が正確な3次元座標(X, Y, Z)と、LiDARの反射強度情報を持っています。
  • 高解像度デジタルカメラ:LiDARで取得した点群データに、カラー情報を付与するために使用されます。LiDARの点群データは白黒でしか情報を得られませんが、カメラで同時に撮影した画像を重ね合わせることで、現実世界に近いリアルな3Dモデルを構築することができます。

モービルマッピングシステム(MMS)とは?

モービルマッピングシステム(MMS)の技術詳細:LiDARとGNSS-IMUの連携

MMSの心臓部とも言えるのが、LiDARGNSS-IMUの連携技術です。この2つのセンサーがどのように協力して高精度なデータを作り出すのか、さらに詳しく見ていきましょう。

LiDARによる点群データ取得の仕組み

LiDARは、レーザー光をパルス状に発射し、それが物体に反射して戻ってくるまでの時間を計測します。この時間を「Time of Flight(TOF)」と呼び、光の速度(一定)とTOFから距離を算出します。LiDARは通常、モーターで回転するミラーやMEMS(微小電気機械システム)ミラーなどを用いて、レーザーの照射方向を高速にスキャンします。これにより、周囲の環境を点の集合体である「点群」として捉えることができます。LiDARが取得するデータには、単なる3次元座標だけでなく、反射したレーザーの強度も含まれます。この反射強度は、対象物の材質(アスファルト、金属、植生など)や色によって異なるため、点群データの解析において重要な情報となります。

GNSS-IMU統合システムによる高精度な位置・姿勢決定

LiDARが取得する点群データは、LiDAR自身のセンサー座標系(ローカル座標系)での位置情報に過ぎません。これを地球上の絶対位置に変換するために、GNSSとIMUの統合システムが不可欠です。GNSSは車両の絶対位置を秒単位で計測し、IMUは車両の短い時間での動きをミリ秒単位で計測します。この2つのセンサーのデータを専用のソフトウェアで統合(フュージョン)することで、トンネル内や高層ビルの間など、GNSSの信号が一時的に途切れる環境でも、IMUがその間の車両の動きを補完し、連続的かつ高精度な位置・姿勢情報を得ることができます。この統合された位置・姿勢情報を使って、LiDARの点群データが地球上のどこに位置するのかを正確に決定し、最終的な3次元空間情報が生成されるのです。これをSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼び、自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術として、自動運転やロボット技術にも応用されています。

モービルマッピングシステム(MMS)が取得するデータの種類と処理・解析

MMSは、ただデータを取得するだけでなく、その後の処理や解析によって真価を発揮します。ここでは、MMSが取得する主要なデータとその活用方法について解説します。

点群データと3Dモデルの作成

MMSによって取得された点群データは、そのままでは扱いにくいため、専用のソフトウェアで後処理を行います。この処理には、ノイズ(不要な点)の除去、データの間引き、そして色情報の付与などが含まれます。高解像度カメラで撮影された画像の色情報を点群データにマッピングすることで、まるで現実世界のようなリアルな3Dモデルが完成します。

この3Dモデルは、デジタルツインの基盤となります。例えば、街全体を3Dモデル化することで、仮想空間上で道路の改修シミュレーションを行ったり、建物の景観シミュレーションを行ったりすることが可能になります。これにより、計画策定から施工管理まで、様々なプロセスを効率化することができます。

属性情報の抽出とデータベース化

MMSが取得する画像データや点群データからは、様々な属性情報を抽出することができます。この作業には、AIや機械学習の技術が不可欠です。例えば、画像認識AIを使って、道路標識、信号機、マンホール、電柱などの物体を自動で検出し、それらの位置情報を点群データと紐づけます。これにより、「この地点にあるマンホールは、何年前に設置されたもので、どの管轄か」といった情報をデータベースとして管理することができます。

この属性情報のデータベースは、インフラの維持管理において非常に重要です。例えば、マンホールの蓋の劣化度合いをAIが自動で判定し、補修が必要な箇所をリストアップするといったことも可能になります。これにより、点検作業の効率化だけでなく、予防保全型の管理体制を構築することができます。

モービルマッピングシステム(MMS)の多様な活用事例

MMSは、道路管理だけでなく、様々な分野で革新的なソリューションを提供しています。ここでは、具体的な活用事例を深掘りしてご紹介します。

道路・橋梁・トンネルなどのインフラ維持管理

老朽化が進む社会インフラの点検は、喫緊の課題です。MMSは、以下のような点でこの課題解決に貢献します。

  • 路面性状調査:LiDARの点群データから、道路のひび割れ、わだち掘れ、平坦性などの路面状況を詳細に解析できます。これにより、舗装の劣化度合いを数値化し、補修の優先順位を科学的に判断することが可能です。
  • 構造物点検:橋梁やトンネルの壁面をスキャンすることで、コンクリートの剥離、鉄筋の露出、ひび割れなどを詳細に捉えることができます。特に、高所作業や足場の設置が困難な場所でも、MMSを利用すれば安全かつ効率的に点検ができます。
  • 道路台帳のデジタル化:MMSで取得した高精度なデータを用いて、道路の幅員、勾配、カーブの半径、標識の位置などを正確に把握し、道路台帳をデジタル化・更新することができます。

自動運転向け高精度三次元地図の作成と更新

自動運転車が安全に走行するためには、高精度なHDマップが不可欠です。MMSは、このHDマップを作成するための主要なツールです。HDマップには、道路の車線情報、道路標識、信号機、縁石、ガードレールなど、自動運転車が自己位置を正確に推定し、安全な走行ルートを計画するために必要な情報がすべて含まれています。MMSは、この膨大なデータを高精度に取得し、HDマップを効率的に作成します。さらに、道路環境の変化(工事、新しい標識の設置など)をMMSで定期的にスキャンすることで、HDマップを常に最新の状態に保つことができます。

災害調査と防災・減災対策

災害が発生した際、被災地の状況を迅速かつ正確に把握することは、救助活動や復旧計画の策定において極めて重要です。MMSは、以下のような場面で力を発揮します。

  • 被災状況の把握:地震や土砂崩れで崩壊した道路や建物を、MMS車両が走行しながらスキャンすることで、被災状況を3Dデータとして迅速に記録します。これにより、危険な場所に人が立ち入ることなく、安全に被害範囲や程度を把握できます。
  • 土砂災害ハザードマップの作成:MMSで取得した高精度な地形データから、斜面の勾配や形状を詳細に解析し、土砂災害の危険性を予測するハザードマップの精度向上に役立てることができます。

その他:スマートシティ、森林調査など

MMSの活用範囲はこれらに留まりません。スマートシティの構築において、都市のインフラ情報をデジタル化し、交通流の最適化やエネルギー管理に活用されています。また、林業においては、MMSを搭載した車両で森林をスキャンし、樹木の高さや直径、本数などを自動で計測することで、森林資源の管理やCO2吸収量の推定に利用されています。

モービルマッピングシステム(MMS)を導入している企業と具体的な事例

MMSは、すでに多くの企業や自治体で導入され、その効果を発揮しています。ここでは、具体的な導入事例と、今後のMMSの展望についてご紹介します。

国内主要MMS導入企業

  • 株式会社NTTインフラネット:通信インフラの維持管理にMMSを導入し、電柱やマンホールなどの設備情報を効率的に取得・管理しています。取得したデータは、設備の老朽化状況の把握や、災害時の迅速な復旧に役立てられています。
  • 株式会社パスコ:測量・地理空間情報サービスのリーディングカンパニーとして、MMSシステムを独自開発し、道路管理、インフラ点検、都市計画、自動運転向けHDマップ作成など、多岐にわたるサービスを提供しています。
  • 三菱電機株式会社:MMSのコア技術であるLiDARやGNSS-IMUの自社開発を進め、MMSシステムの提供や、自動運転向けの高精度地図データサービスを展開しています。

具体的な事例紹介:地方自治体での活用

MMSは地方自治体でも積極的に導入されています。例えば、ある地方自治体では、老朽化が懸念される橋梁の点検にMMSを活用しました。従来は、点検員が足場を組んで目視で点検を行っていましたが、MMSを搭載した車両で橋の下を走行しながらスキャンすることで、橋梁の全体像を3Dデータとして取得。コンクリートのひび割れや剥離箇所を詳細に把握し、補修計画を効率的に立てることができました。これにより、点検作業にかかる時間とコストを大幅に削減できただけでなく、点検員の安全も確保することができました。

また、別の自治体では、道路の舗装状況調査にMMSを導入。MMSが取得した点群データから路面の凹凸やわだち掘れを自動で検出し、劣化度を数値化しました。これにより、補修が必要な道路の優先順位を科学的に判断し、限られた予算を効果的に配分することが可能になりました。

モービルマッピングシステム(MMS)の未来展望:AIとの融合と小型化

MMSの技術は、これからも進化し続けます。

  • AIと機械学習のさらなる活用:MMSが取得する膨大なデータから、自動で物体を認識・分類するAIの精度は今後さらに向上し、データ処理の自動化が加速するでしょう。また、AIがインフラの異常を自動で検知し、予測保全に役立てる技術も発展が期待されます。
  • ドローンやウェアラブルMMSの普及:車両MMSが進入できない場所のデータ取得には、ドローンやウェアラブルMMSが有効です。これにより、MMSの適用範囲がさらに広がり、橋梁の裏側や急斜面、屋内空間など、様々な場所のデジタル化が可能になります。
  • リアルタイムMMS:現在のMMSは、データ取得後に後処理が必要ですが、将来的にはリアルタイムでデータを処理・活用するMMSが主流になるでしょう。これにより、走行中に道路の危険箇所を即座に検知し、後続車に警告するといった応用も可能になります。

まとめ:モービルマッピングシステム(MMS)が創る未来の社会

MMSは、高精度・高効率・高安全性という3つの強みを持つ画期的な測量システムであり、私たちの社会インフラを支える上で不可欠な存在となっています。LiDAR、GNSS、IMU、カメラといった複数のセンサーを統合し、広範囲の3次元空間情報をデジタル化するMMSは、インフラの維持管理、自動運転技術、防災対策など、多岐にわたる分野でその真価を発揮しています。

初期コストや専門知識が必要といった課題はありますが、技術の進化とともにMMSはより身近な存在となり、社会の様々な課題を解決するキーテクノロジーとなるでしょう。MMSの発展は、より安全で効率的な社会の実現に大きく貢献していくことを期待しています。

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