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デッドセクションとは|鉄道用語を初心者にも分かりやすく解説

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鉄道の運行に欠かせない「デッドセクション」。その意味を知らずにいると、鉄道業界での業務に支障が出ることもあります。また、鉄道に興味を持った方にとっても、この専門用語は少し難しく感じるかもしれません。この記事では、鉄道技術の専門家である筆者が、デッドセクションの役割や仕組み、通過方法について、初心者の方でも理解できるように詳しく解説します。ぜひ、この記事を読んで、鉄道技術の深い世界に触れてみてください。

デッドセクションとは?

デッドセクションとは、鉄道の架線において、電気が供給されていない区間のことを指します。これは、異なる種類の電気方式が混在する区間や、電力供給システムを切り替えるために意図的に設けられています。具体的には、直流電化区間と交流電化区間の境界に設置されることが最も一般的で、列車がこの区間を通過する際には、主電動機への電力供給が一時的に停止されます。

なぜデッドセクションが必要なのか?

デッドセクションが最も必要とされるのは、直流電化区間交流電化区間の境界です。日本の鉄道では、主に東海道・山陽新幹線やJR在来線などで直流1500Vが、北陸・東北・北海道新幹線やJRの一部在来線で交流20000V(50Hzまたは60Hz)が採用されています。交流は変電所で簡単に電圧を上げ下げできるため、長距離送電に適しており、山間部や人口が少ない地域などで採用されやすい特徴があります。一方、直流はモーター制御が比較的容易で、都市部の高頻度運転に適しています。これらの異なる電圧・周波数の電気を同じ架線に流すことは、システム全体を壊す大ショートにつながるため、絶対にできません。そのため、境界部分に電気を供給しない区間を意図的に設けることで、車両が安全に電気方式を切り替えられるようにしているのです。

この仕組みは、交直両用車両の存在によって成り立っています。交直両用車両は、直流と交流の両方の電圧に対応できるよう、特殊な機器を搭載しています。デッドセクションを通過する際、車両は一時的に外部からの電力供給を断ち、蓄電池などで車内サービス電源をまかないながら、自動的に電気方式を切り替えるのです。

デッドセクションの種類

デッドセクションには、その設置目的や構造によっていくつかの種類があります。

エアセクション

エアセクションは、デッドセクションの中でも最も一般的な形式です。架線が物理的に分断されており、その間に電気を通さない絶縁体(がいし)を設けて電流が流れないようにしています。架線は、隣り合う区間から電気が供給されないよう、物理的に離れて設置されているため、電気的なショートを確実に防ぐことができます。高速で走行する列車が安全に通過できるよう、デッドセクションの長さは数十メートルから百数十メートルに設定されています。

セクションインシュレータ

セクションインシュレータは、架線に直接取り付けられる絶縁体のことです。主に駅構内や車両基地など、比較的低速で走行する区間に使用されることが多いです。このインシュレータは、架線に沿って長い棒状の絶縁体が設置されており、架線が物理的に分断されていませんが、電気的には絶縁されています。エアセクションと比較してコンパクトなため、複雑な配線を持つ構内などで採用されます。

デッドセクションの種類と用途の違い

エアセクションは、主に高速走行する区間で採用されます。これは、高速でパンタグラフが通過しても、物理的な断絶によって確実に電気的な絶縁が保たれるためです。一方、セクションインシュレータは、速度が遅い区間や、複雑な配線を持つ区間で利用されます。それぞれの構造は、鉄道の安全と効率を両立させるために最適化されています。

デッドセクションを通過する仕組み:運転士と車両の役割

デッドセクションを安全に通過するためには、運転士の操作と車両の自動制御が連携して行われます。この一連のプロセスは、乗客にほとんど気づかれないうちに完了します。

デッドセクション進入時の運転士の操作

列車がデッドセクションに近づくと、運転士は「惰行運転」を行います。これは、主電動機への電力供給を停止し、列車の慣性だけでデッドセクションを通過することです。デッドセクションの開始地点には標識が設置されており、運転士はそれを見て電力供給をオフにするタイミングを判断します。この標識は、通常、電柱や架線に設置されており、デッドセクションの前後には注意を促す特別な標識も設置されています。また、ATS(自動列車停止装置)などの保安装置とも連動しており、万が一、運転士が操作を忘れた場合でも、自動で列車を停止させる仕組みが備わっています。

なぜ電力供給を停止する必要があるのでしょうか?もし、デッドセクション内で電力供給がオンのままだった場合、パンタグラフが異なる電気方式の架線に触れた瞬間に、架線を通じて異なる電圧が接触し、大ショートアーク放電が発生する危険性があります。これにより、架線やパンタグラフが損傷し、最悪の場合、火災につながる恐れもあるため、厳密な手順が定められています。

交直両用車両の自動制御システム

交直両用車両は、デッドセクション内での電力供給停止と、その後の電気方式の切り替えを自動で行います。車両には、電気方式検知装置が搭載されており、デッドセクションを通過中に電気が流れていないことを検知します。その後、交流電化区間に進入すると、交流電圧を検知し、パンタグラフから取り入れた交流電流を直流に変換する整流装置(主変換装置)が作動します。これにより、車両はスムーズに運行を継続できます。

この一連の自動制御は、非常に高度な技術によって実現されています。例えば、新幹線や特急列車では、デッドセクションの通過がわずか数秒で完了するため、乗客はほとんど衝撃を感じません。これは、車両の制御システムがミリ秒単位で正確な動作を行っている証拠です。この技術は、サイリスタIGBTといった半導体素子の進化によって可能となり、車両の小型・軽量化にも貢献しています。

日本のデッドセクション:主要な設置場所と事例

日本には多くのデッドセクションが存在し、鉄道網の円滑な運行を支えています。ここでは、特に有名なデッドセクションの事例をいくつか紹介します。

交流・直流の境界となるデッドセクション

最も有名なのは、JR東日本・常磐線取手駅~藤代駅間にあるデッドセクションです。この区間は、東京方面から続く直流電化区間と、水戸方面へ続く交流電化区間(50Hz)の境界となっています。デッドセクションを通過する際、電車内の蛍光灯が一時的に消灯する現象は、鉄道ファンにはおなじみです。しかし、近年では車両の性能向上により、補助電源装置の充実によって照明が消えなくなった車両も増えています。

また、北陸新幹線の軽井沢駅~佐久平駅間にあるデッドセクションも有名です。この区間は、かつての信越本線と同じく、直流1500Vと交流25000V(50Hz)の境界となっています。新幹線は高速でデッドセクションを通過するため、車内ではほとんど気づかれないことが多いです。この他にも、九州の門司駅周辺や、北海道新幹線の新青森駅周辺など、日本各地にデッドセクションは存在します。

デッドセクション導入企業の事例

デッドセクションは、JR各社だけでなく、私鉄や第三セクター鉄道でも採用されています。例えば、JR東日本の常磐線やJR西日本の北陸本線、そしてIRいしかわ鉄道などが、デッドセクションを運用しています。これらの鉄道会社は、異なる電力方式の区間を直通運転させることで、利便性を向上させています。また、かつては日本海縦貫線(青森〜大阪を結ぶ路線)でも、複数のデッドセクションを跨ぐ交直両用車両が活躍していました。

デッドセクションに関する素朴な疑問

デッドセクションについて、よく寄せられる疑問とその答えをまとめました。鉄道に興味がある人なら誰でも一度は考えたことのある質問かもしれません。

Q1. デッドセクション内で列車が停止したらどうなるの?

デッドセクション内で列車が停止してしまうと、主電動機に電気が供給できなくなるため、自力で再始動することができなくなります。これを避けるため、デッドセクションの手前には「惰行開始」の標識があり、運転士は必ずこの区間を惰行で通過するように訓練されています。万が一、停止してしまった場合は、救援列車を呼んで動かすことになります。また、最近の車両では、蓄電池を搭載しているものが増えており、デッドセクション内でもエアコンや照明などのサービス電源を維持できるようになっています。これにより、緊急停車時でも乗客の快適性が保たれるよう工夫されています。

Q2. なぜデッドセクションを通ると照明が消えるの?

これは、車両がデッドセクションを通過する際に、架線からの電力供給が一時的に停止するためです。昔の車両では、車内照明も架線からの電力に依存していたため、停電状態となり照明が消えていました。しかし、最近の車両は、前述の通り、補助電源装置や蓄電池を搭載しており、主電源がオフになっても車内サービスが維持できるようになっています。これにより、デッドセクション通過時の車内照明の消灯現象は減りつつあります。ただし、古い車両や一部のローカル線では、現在でもこの現象を見ることができます。

Q3. デッドセクションと交直切替駅の違いは?

交直切替駅は、駅構内全体が交直両用の電気に対応している駅のことで、デッドセクションはその駅の前後にあることが一般的です。たとえば、かつての常磐線の取手駅や、北陸本線の敦賀駅などがこれに該当します。これらの駅では、駅構内に切替標識があり、運転士が手動でパンタグラフや電気方式を切り替える操作を行います。これにより、異なる電気方式の車両が駅構内に進入することが可能になります。一方、デッドセクションは、特定の区間を無電力で通過する場所であり、主に通過型の運転で利用されます。交直切替駅は、運転士の操作が必要となるため、列車の停車時間を要し、駅の構造も複雑になりますが、デッドセクションは通過を前提としているため、運行効率が高いという違いがあります。

デッドセクションの未来:技術の進化と課題

鉄道技術の進歩に伴い、デッドセクションのあり方も変わりつつあります。「スマートセクション」「バッテリー電車」といった新しい技術が導入され、よりスムーズな運行が目指されています。

スマートセクション:未来のデッドセクション

スマートセクションとは、き電区分を細かく設定し、列車が通過する瞬間だけ隣接する電気方式を切り替える技術です。従来のデッドセクションが物理的に電力を遮断するのに対し、スマートセクションは架線を活線状態(電気が通っている状態)に保ち、列車が通過するわずかな時間だけ、後続のき電区分を自動的に切り替えます。これにより、車両がデッドセクションで惰行運転する必要がなくなり、よりスムーズでエネルギー効率の良い運行が可能になります。この技術は、特に新幹線などで実用化が進んでおり、将来的にデッドセクションをなくす可能性を秘めています。

バッテリー電車の普及

最近では、バッテリー電車が地方の非電化区間や、電化区間のデッドセクション対策として注目されています。この電車は、架線からの電力で走行しながらバッテリーに充電を行い、デッドセクションや非電化区間ではバッテリーの電力で走行します。これにより、ディーゼルエンジンを使用せずに、環境に優しい運行が可能になります。JR東日本のACCUM(EAH201系)などがその代表例です。この技術は、デッドセクションでの惰行運転を不要にし、スムーズな加減速を可能にするため、今後の普及が期待されています。

デッドセクションの課題

デッドセクションには、まだ課題も残っています。最も大きな課題の一つは、アーク放電の発生です。パンタグラフが架線から離れる際に、一瞬火花が散ることがあります。これは、車両や架線に損傷を与える原因となるため、これをいかに抑えるかが研究課題となっています。また、デッドセクションでの電力供給停止は、列車の加速を妨げ、ダイヤの乱れにつながることもあります。これらの課題を解決するために、前述のスマートセクションのような新しい技術が開発されているのです。これらの技術は、将来的に鉄道の運行をさらに安全かつ効率的にする鍵となるでしょう。

まとめ

この記事では、鉄道におけるデッドセクションについて、その基本的な仕組みから具体的な事例、そして未来の技術までを詳細に解説しました。デッドセクションは、単なる「電気が通っていない区間」ではなく、異なる電気方式の鉄道を安全かつスムーズに運行させるための重要な技術です。運転士の熟練した操作と、車両の高度な自動制御システムが連携することで、私たちの知らないうちに、安全な鉄道の旅が実現されています。

この記事が、鉄道業界で働く方々や、鉄道に興味を持つ方々の知識を深める一助となれば幸いです。鉄道技術の世界は、常に進化し続けています。デッドセクションを理解することは、その進化の最前線を垣間見ることにもつながります。今後、鉄道に乗車する際には、ぜひデッドセクションにも注目してみてください。

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