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補助動力装置(APU)とは|航空用語を初心者にも分かりやすく解説

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空港でメインエンジンが停止した旅客機が、なぜ照明を灯し、冷暖房を効かせ、次のエンジンを自力で始動できるのか――その鍵を握るのが、機体尾部に隠された補助動力装置(APU:Auxiliary Power Unit)です。

「APUのステータスが上がらない」「ブレードエアの要求が高い」といった専門用語が日常的に飛び交う航空業界において、APUは単なる“予備”ではありません。それは、航空機の地上自立性を担保し、定時運航を支える心臓部であり、飛行中の重大な緊急事態を回避するための最後の砦です。特に、モア・エレクトリック化が進む現代機では、APUの役割と負荷は増大しています。本記事は、APUの基礎知識を今一度確認したい業界関係者の方、あるいは航空技術の深部に触れたいすべての方に向けて、その定義、ガスタービンとしての仕組み、最新のFADEC制御技術、そして運航への影響**までを、専門家として徹底的に、かつわかりやすく解説します。この記事を通じて、APUという小型エンジンが航空機の運用にいかに不可欠な存在であるかを深く理解し、業務知識の充実に役立てていただければ幸いです。

補助動力装置(APU)とは?

補助動力装置(APU)とは、航空機の機体後部などに搭載されている小型のガスタービンエンジンです。メインエンジンが停止している地上において、航空機に必要な電力や圧縮空気(ブレードエア)、そして油圧などの補助的な動力を供給します。補助動力装置(APU)が作動することで、外部の支援設備(GPUやASU)に頼ることなく、旅客機の客室照明や空調システム、エンジン始動、フライトコントロールシステムの作動チェックなど、様々な地上での作業が可能になります。

補助動力装置(APU)が供給する3つの主要な動力源

補助動力装置(APU)の最大の役割は、地上における航空機の自立性(Self-sufficiency)を確保することです。補助動力装置(APU)は主に以下の3つの動力源を供給します。

  • 電力(Electrical Power):客室の照明、ギャレー(調理室)、アビオニクス(航空電子機器)の電源、バッテリー充電など、機内システム全般の電源を供給します。
  • 圧縮空気(Pneumatic Power / Bleed Air):メインエンジンの始動、機内の空調(ECS: Environmental Control System)作動、機体与圧システムの作動チェックなどに利用されます。
  • 油圧(Hydraulic Power):機種によっては、一部の補助動力装置(APU)始動機構や、緊急時の油圧システムを補助するために使用されることがありますが、現代の旅客機では限定的です。

補助動力装置(APU)とメインエンジンの役割分担

補助動力装置(APU)は、航空機を飛行させるための主動力であるメインエンジン(推進用のジェットエンジン)とは役割が明確に異なります。メインエンジンが推進力を生み出すのに対し、補助動力装置(APU)は電気や圧縮空気といったエネルギーを生成します。補助動力装置(APU)は通常、地上での駐機中や、緊急時、またはメインエンジン始動時などの短時間・限定的な状況で作動することが多いですが、緊急時には飛行中でも電力バックアップとして稼働することがあります。

補助動力装置(APU)の基本構造と動作原理:小型ガスタービンエンジンの詳細

補助動力装置(APU)は、基本的な構造や動作原理において、メインのジェットエンジンと同様にガスタービンエンジンの一種です。しかし、推進力を生み出すことではなく、シャフトの回転から動力(電力や圧縮空気)を取り出すことに最適化された設計になっています。

補助動力装置(APU)を構成する主要なコンポーネント

補助動力装置(APU)は主に以下の4つの主要な部品と、それらを統合するギアボックスで構成されています。

  • コンプレッサー(圧縮機):外部から取り込んだ空気を圧縮し、高温・高圧の空気(ブレードエアの元)を作り出します。
  • コンバスター(燃焼室):圧縮された空気に燃料を噴射し、点火して燃焼させ、さらに高温・高圧の燃焼ガスを生成します。
  • タービン:燃焼ガスを受けて高速回転する部分で、この回転力がコンプレッサー、発電機、空気取り出し機構を駆動させます。
  • ギアボックス(減速機):タービンの高速回転を、発電機が効率よく電力を生み出せる回転数に減速したり、燃料ポンプなどの補機類を駆動させたりする役割を担います。

ガスタービンエンジンとしての動作サイクル(ブレイトンサイクル)

補助動力装置(APU)の動作サイクルは、ジェットエンジンと同様にブレイトンサイクルに基づいています。特に補助動力装置(APU)は、コンプレッサーで圧縮した空気の一部を機内に供給する空気取り出し(ブレードエア)を行う設計が特徴です。

電力生成の仕組み:発電機への動力伝達

タービンの回転力は、ギアボックスを介して発電機(Generator)に伝達されます。補助動力装置(APU)の発電機は通常、115V AC(交流)の電力を発生させ、これは機内システムに供給されます。最新の補助動力装置(APU)では、より効率的な電力供給のために、タービンの回転数を最適化する技術が導入されています。

圧縮空気(ブレードエア)生成の仕組み

コンプレッサーで圧縮された空気の一部が、補助動力装置(APU)の駆動とは別に機内配管システムに送られます。これがブレードエアです。この空気は、エンジンの始動弁や空調システムへ送られ、地上での航空機の機能を維持するために使われます。空気を取り出すと補助動力装置(APU)の回転数(出力)が低下するため、FADECが燃料供給を調整し、安定した回転数を維持します。

補助動力装置(APU)の運用シナリオ:効率と安全を両立する運用基準

補助動力装置(APU)の運用は、航空機の安全かつ効率的な運航において極めて重要な役割を果たします。その利用シーンは、地上での作業から飛行中の緊急時まで多岐にわたります。ここでは、補助動力装置(APU)がいつ、なぜ使用されるのかを詳しく解説します。

地上での主要な利用目的:駐機中の快適性と準備

補助動力装置(APU)は、航空機がゲートに到着し、乗客が降機してから次便の出発準備が完了するまでの、駐機中に最も頻繁に使用されます。

メインエンジン始動のための不可欠な役割

ジェットエンジンの始動には、初期回転を与える強力な力が必要です。補助動力装置(APU)から供給されるブレードエアが、メインエンジンのタービンに吹き付けられ、エンジンが自力で回転を始めるまで補助的に回します。これがAPUスタートと呼ばれる一般的なエンジン始動方法です。

客室の照明・空調維持と乗客の快適性

メインエンジン停止中、客室の照明、空調(冷暖房・換気)、アビオニクスへの電源を供給することで、乗客や地上スタッフが快適かつ安全に作業できる環境を提供します。

飛行中および緊急時の重要な役割

補助動力装置(APU)は、地上での使用を想定していますが、飛行中の安全確保という側面でも非常に重要なバックアップ機能を担います。

飛行中のバックアップ電源(In-flight Operation)

巡航中にメインエンジンに接続されている発電機が故障し、電力が不足した場合、補助動力装置(APU)を起動して不足分の電力を補います。これにより、フライトコントロールや重要な通信・航法システムが停止することを防ぎます。

両発停止(ダブル・エンジン・フレイムアウト)時の再始動

極めて稀ですが、飛行中にメインエンジンが両方とも停止する事態が発生した場合、補助動力装置(APU)はエンジン再始動のための唯一のブレードエア源となることがあります。補助動力装置(APU)はバッテリーで始動できるため、緊急時に重要な役割を果たします。

GPU・ACUとの使い分けと環境戦略

多くの空港では、補助動力装置(APU)の燃料消費、騒音、排ガスを低減するため、地上電源(GPU)や地上式エアコン(ACU)といった外部設備を利用することが推奨されています。

  • GPU・ACUの優先使用:空港のゲートに駐機している間は、原則として外部設備を使用し、補助動力装置(APU)の稼働時間を最小限に抑えることが、コスト削減と環境負荷低減のための航空会社の運用規定となっています。
  • 補助動力装置(APU)の限定使用:外部電源が届かないリモートスポットや、プッシュバック直前、緊急時など、外部の支援なしに自立的な動力が必要な場合にのみ、補助動力装置(APU)が稼働します。

補助動力装置(APU)の技術的な進化:FADECと高効率化の実現

補助動力装置(APU)の技術は、航空機の大型化とデジタル化に伴い、効率性、信頼性、そして環境性能の面で著しく進化しています。特にデジタル電子制御と高出力化が現代のトレンドです。

FADEC(フル・オーソリティ・デジタル・エンジン・コントロール)化

最新の補助動力装置(APU)では、FADEC (Full Authority Digital Engine Control) システムが採用されています。これは、補助動力装置(APU)の運転を全てデジタルコンピュータで制御する技術です。

  • 高精度な燃料制御:補助動力装置(APU)の回転数、温度、空気取り出し量に応じて燃料供給をミリ秒単位で調整し、燃費効率を最適化します。
  • 自己診断と予知保全:システムが自身の状態を常に監視し、故障の予兆をパイロットや整備士に知らせます。これにより、補助動力装置(APU)の寿命が延び、予期せぬ故障による遅延を防ぎます。
  • 保護機能:補助動力装置(APU)に過度の温度や回転数が発生した場合、FADECが自動的に燃料をカットし、補助動力装置(APU)を保護・停止させます。

「モア・エレクトリック・エアクラフト」と補助動力装置(APU)の電化

ボーイング787型機に代表される「More Electric Aircraft(MEA)」のコンセプトでは、従来のブレードエアを使用していた空調や防氷システムなどを、補助動力装置(APU)由来の電力で駆動する電動システムに置き換えています。

  • 高出力発電機:MEAの補助動力装置(APU)は、従来の補助動力装置(APU)よりもはるかに高出力の電力を生成するよう設計されています。
  • ブレードエア配管の簡素化:機内のブレードエア配管が大幅に削減されるため、機体全体の軽量化と整備性の向上につながります。

排出ガスと騒音の低減技術

環境規制が厳しくなる中、補助動力装置(APU)も環境性能の向上が求められています。

  • 低NOx燃焼室:燃焼室の設計を改善し、窒素酸化物(NOx)などの排出ガスを削減しています。
  • 高性能消音材:吸気口や排気口に高性能な消音材や構造を導入し、特に地上での騒音レベルを大幅に低減しています。これにより、深夜・早朝の空港周辺での騒音問題の緩和に貢献しています。

補助動力装置(APU)の整備・信頼性管理:稼働率と安全の確保

補助動力装置(APU)は、航空機の運航を支える基幹部品であるため、その信頼性を確保するための厳格な整備と安全対策が求められます。補助動力装置(APU)の故障は運航遅延に直結するため、整備戦略が非常に重要です。

補助動力装置(APU)の整備基準とオーバーホール

補助動力装置(APU)の整備間隔は、メインエンジンとは異なり、主に補助動力装置(APU)の稼働時間(Operating Hour)と起動回数(APU Cycle)に基づいて設定されます。

稼働時間に基づくオーバーホール

補助動力装置(APU)は、メーカーが定めた一定時間(例:8,000〜12,000時間)の稼働、または一定回数(例:8,000〜15,000回)の起動サイクルに達するごとに、専門の整備工場(MRO)でオーバーホール(O/H)が行われます。オーバーホールでは、すべての部品が分解・点検され、摩耗や損傷した部品は交換され、新品に近い状態に復元されます。

ボアスコープ検査による非分解点検

定期的な点検では、補助動力装置(APU)の燃焼室やタービンブレードの状態を、機体から補助動力装置(APU)を取り外すことなく、ボアスコープと呼ばれる内視鏡のような器具を使って検査します。これにより、深刻な損傷を早期に発見し、予期せぬ故障を未然に防ぐことができます。

補助動力装置(APU)運用上の安全対策とリスク管理

補助動力装置(APU)は高温の排気ガスを排出するため、地上での運用には特に安全への配慮が必要です。

補助動力装置(APU)火災検知・消火システム

補助動力装置(APU)を搭載しているテールコーン区画には、燃料配管と高温部品が集中しているため、メインエンジンと同様に火災検知システムが設置されています。火災を検知すると、コックピットに警報が鳴るとともに、パイロットの操作または自動で消火システムが作動し、消火剤(通常はハロン系または代替品)を噴射して火災を鎮火するよう設計されています。

地上作業者の安全確保

補助動力装置(APU)稼働中は、地上作業者が高温の排気ガスにさらされないよう、排気エリア(テールコーン後方)への立ち入りが制限されます。また、吸気口への物体吸引(FOD: Foreign Object Damage)を防ぐための作業手順も厳格に定められています。

世界の補助動力装置(APU)メーカーと主要機種への導入事例

補助動力装置(APU)は、航空機メーカーが内製するのではなく、高度な技術を持つ専門のエンジンメーカーが開発・製造し、航空機メーカーに供給されています。主要な補助動力装置(APU)メーカーとその製品を紹介します。

主要な補助動力装置(APU)メーカーとその製品

ハネウェル(Honeywell Aerospace)

補助動力装置(APU)市場における世界最大のメーカーであり、圧倒的なシェアを誇ります。高い信頼性と高出力が特徴です。

  • 主要製品:GTCP331シリーズ(ボーイング777、エアバスA330などワイドボディ機)、131-9シリーズ(ボーイング737NG、エアバスA320などナローボディ機)
  • 導入事例:ANA、JALをはじめとする世界の主要航空会社の主力機に多数採用されています。特に131-9AはA320の標準APUとして知られています。

プラット・アンド・ホイットニー・カナダ(Pratt & Whitney Canada - P&WC)

リージョナル機やビジネスジェット向けに強みを持つメーカーですが、大型機向けの補助動力装置(APU)も手掛けています。

  • 主要製品:APSシリーズ
  • 導入事例:エアバスA320ファミリーの一部、ボンバルディアCRJシリーズなどのリージョナルジェット機、ビジネスジェットなど。

SAFRAN Power Units(サフラン・パワー・ユニット)

フランスのSAFRANグループ傘下で、補助動力装置(APU)および小型ガスタービンエンジンを専門としています。

  • 主要製品:ターボジェットやターボファン技術を応用した補助動力装置(APU)
  • 導入事例:主に軍用機や一部のエアバス機、ビジネスジェットなどに採用されています。

航空会社の運用戦略:コストと環境のバランス

航空会社は、補助動力装置(APU)の運用方法について、環境負荷の低減と運航コストの削減のバランスを取りながら戦略を立てています。

全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)では、空港での騒音・排ガス対策として、GPUやACUが利用可能な場合には、補助動力装置(APU)の稼働を極力控えるという厳格な運用基準を設けています。これにより、燃料消費を削減し、同時に補助動力装置(APU)自体の寿命を延ばすことにも成功しています。

一方、低コストキャリア(LCC)では、駐機時間を短縮し、運航効率を高めるために、GPU接続・取り外しにかかる時間を短縮する目的で、プッシュバック直前まで補助動力装置(APU)を稼働させるケースも見られますが、これも環境規制との兼ね合いで運用が調整されています。

まとめ:補助動力装置(APU)は航空機の未来を担う技術へ

本記事では、航空機の地上運用に不可欠な補助動力装置(APU)について、その定義、構造、運用、そして将来の技術動向に至るまでを詳細に解説しました。

補助動力装置(APU)は、地上での電気、圧縮空気、そして時には油圧を供給することで、航空機の自立的な運航を可能にする「小さな巨人」です。その役割は、メインエンジン始動、客室の快適性維持、そして緊急時のバックアップ電源として極めて重要です。

未来の補助動力装置(APU)は、電化、持続可能な航空燃料(SAF)への対応、そしてヘルスモニタリングシステム(HUMS)による予知保全によって、さらに高効率でクリーン、そして信頼性の高いシステムへと進化していきます。補助動力装置(APU)の効率的な運用と整備は、航空会社の経済性と環境性能の両面において、これからも最重要課題であり続けます。この記事が、補助動力装置(APU)への理解を深め、より安全で持続可能な航空業界の発展に貢献する一歩となれば幸いです。

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