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ピトー管とは|航空用語を初心者にも分かりやすく解説

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飛行機が安全に空を飛ぶ上で、最も重要な情報の一つが「速度」です。この速度を正確に計測するために、すべての航空機に不可欠な装置が「ピトー管(Pitot Tube)」です。この名前を聞いたことはあっても、「具体的にどのような仕組みで速度を測っているのだろう?」「なぜそれが飛行機の安全に直結するのだろう?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

この記事は、「ピトー管とは」という検索に対し、その原理、構造、役割、種類、そして現代航空機における重要性を、航空業界の専門家でない方でも理解できるように徹底的に解説します。ピトー管は、航空機の運航に直結するセンサーであり、その技術的背景からメンテナンス、過去のトラブル事例まで深く掘り下げていきます。

本記事を読むことで、ピトー管の仕組み(サジェスト:ピトー管 仕組み)、静圧孔の役割(サジェスト:静圧孔とは)、凍結防止の技術(サジェスト:ピトー管 凍結)、そしてトラブル回避の重要性(サジェスト:ピトー管 トラブル)まで、全てを網羅して理解できることをお約束します。

ピトー管とは「空気の流れの圧力を利用して対気速度を計測するセンサー」です!

まず結論から申し上げますと、ピトー管とは、フランスの技術者アンリ・ピトー(Henri Pitot)によって18世紀に考案された原理に基づき、航空機の対気速度(空気に対する速度)を計測するために不可欠な装置です。飛行機の機首や主翼の先端、あるいは側面に棒状に取り付けられているのが一般的です。

この装置は、空気の物理的な圧力を利用して速度を算出します。具体的には、飛行機が空気中を進む際に生じる「全圧(Total Pressure)」と、その高度での大気の「静圧(Static Pressure)」の二つを測定し、その差から速度を計算するのです。この速度情報が失われると、パイロットは適切な揚力を維持するための飛行管理ができなくなり、安全な運航が極めて困難になります。

ピトー管の基本的な原理:ベルヌーイの定理の応用

ピトー管が速度を計測する基本的な原理は、流体力学の基本である「ベルヌーイの定理」に基づいています。ベルヌーイの定理とは、「流体の速度が増加すると、その流体が持つ静圧は低下する」というものです。ピトー管は、この原理を巧みに応用しています。

測定する二つの圧力:全圧(Total Pressure)

ピトー管の先端には、飛行方向に向かって開いた穴があります。この穴で測定されるのが「全圧」です。全圧とは、機体が進むことで空気がピトー管の先端でせき止められ、静止した状態(よどみ点)になったときに生じる圧力です。これは、飛行機が静止しているときに周囲にかかっている静圧に、飛行によって生まれる空気の運動による圧力、すなわち「動圧(Dynamic Pressure)」を加えたものです。

飛行速度が速くなるほど、この動圧は大きくなるため、全圧も増加します。

測定する二つの圧力:静圧(Static Pressure)

速度の計算に必要なもう一つの要素が「静圧」です。静圧は、飛行機の速度に関係なく、その機体が飛んでいる高度の大気圧を示すものです。ピトー管の側面や、機体の胴体側面に開けられた小さな穴(静圧孔)で測定されます。静圧孔は、空気の流れの影響を極力受けないように設計・設置されており、常に周囲の「静かな」大気圧を測定しています。

ピトー管の種類と構造:標準的な「ピトー静圧管」と冗長性の重要性

ピトー管のシステムは、単に全圧を測る管だけでなく、静圧を測る孔や、システム全体の信頼性を確保するための様々な構造的要素から成り立っています。現代の大型機では、全圧と静圧を一本の装置で同時に測定できる「ピトー静圧管」が主流です。

ピトー静圧管の標準構造(サジェスト:ピトー静圧管)

ピトー静圧管は、棒状の筐体の中に以下の主要な要素が組み込まれています。

  • 全圧孔(Pitot Port): 管の先端にある、空気の流れを受け止める開口部です。ここから全圧を測定します。
  • 静圧孔(Static Port): 管の側面にいくつか開けられた小さな穴です。空気の流れと垂直な圧力を測るため、流れの影響を避けるよう慎重に配置されています。
  • ドレーン(水抜き): ピトー管内に水滴や結露が溜まるのを防ぐための小さな排水口です。

これらの穴は、内部でそれぞれ独立した配管(エア・ライン)を通じて、機内の圧力センサー(トランスデューサー)へと接続されています。

静圧孔とは:機体側面の独立した圧力センサー(サジェスト:静圧孔とは)

ピトー静圧管に組み込まれた静圧孔とは別に、多くの大型機では、機体の胴体側面に独立した「静圧孔」が複数設置されています。これらは、全圧を測るピトー管と独立したシステムとして機能し、静圧の情報をフライト・データ・コンピューターに送ります。

独立した静圧孔を設ける理由は、特に機体の姿勢が大きく変わった際など、ピトー管自体の静圧孔では正確な静圧を測れない場合があるためです。複数の静圧源を持つことで、高度計や垂直速度計(VSI)にも安定した圧力情報を提供し、システムの信頼性を高めています。

凍結防止の技術:ピトーヒート(サジェスト:ピトー管 凍結)

ピトー管システムの機能停止の最大の原因は、上空での「着氷」です。着氷により全圧孔や静圧孔が塞がれると、圧力の測定ができなくなり、速度計は誤った値を表示します。これを防ぐために、ピトー管には非常に重要な機能が備わっています。

  • 内蔵ヒーター: ピトー管の内部には、強力な電気ヒーター(電熱線)が内蔵されています。パイロットは、凍結の可能性がある空域(特に雲の中や降水時)を飛行する前に、この「ピトーヒート(Pitot Heat)」をONにします。
  • 高温設計: このヒーターは、氷を瞬時に溶かすために非常に高温になります。そのため、整備作業中など地上で触れることは厳禁であり、安全のために注意書きがされています。

ピトーヒートが作動しない状態で凍結したピトー管は、航空機を危険な状況に陥れる原因となります。パイロットはフライト前のチェックリストで必ずピトーヒートの作動を確認し、安全な運用を徹底しています。

ピトー管が提供する速度情報:対気速度の分類と役割

ピトー管が提供するデータは、単に「スピード」という一言で片付けられるものではありません。この圧力データから、飛行機にとって意味のあるさまざまな種類の対気速度が計算され、それぞれが異なる重要な役割を担っています。

速度の分類:表示から真の値へ

ピトー静圧システムから得られた情報は、エア・データ・コンピューター(ADC)によって、以下のように段階的に補正され、計算されます。

1. 指示対気速度 (Indicated Airspeed: IAS)

対気速度計に直接表示される、最も基本的な速度です。ピトー管と静圧孔の圧力差から、単純に計算された値です。この値は、飛行機の揚力(機体を持ち上げる力)と最も密接に関係しており、パイロットが離着陸時や失速を回避するために監視する重要な速度です。

2. 校正対気速度 (Calibrated Airspeed: CAS)

IASに含まれる、計器の取り付け位置や機体の姿勢による誤差(位置誤差)を補正した速度です。これにより、機体固有の誤差が取り除かれます。

3. 真対気速度 (True Airspeed: TAS)

CASに、飛行高度と気温の変化による空気密度の影響を補正した速度です。これは「実際に機体が空気中をどれくらいの速さで進んでいるか」を示す、物理的な真の速度であり、航法(ナビゲーション)や飛行計画の実行において重要な値です。

4. マッハ数 (Mach Number)

飛行速度を、その高度での音速で割った値です。ジェット機が高高度を飛行する際、機体の構造的な制限速度(マッハ制限)を超えないよう監視するために極めて重要です。

速度の役割:失速回避と飛行限界の監視

ピトー管から得られる対気速度の情報は、安全運航の根幹をなします。

  • 失速(Stall)回避: 飛行機が揚力を失い墜落につながる失速速度(Vs)を下回らないよう、IASを常に監視します。失速速度は、重量や姿勢によって変化しますが、IASがその指標となります。
  • 構造限界の監視: 機体が構造的に耐えられる最大速度(VNE: Velocity Never Exceed)やフラップの使用限界速度(VFE)を超過しないよう監視します。高速で飛行中に構造限界を超えると、機体が空中分解する危険があります。
  • 効率的な飛行: TASやマッハ数を利用して、燃料消費を最小限に抑える経済的な速度(Cruise Speed)を維持し、飛行計画通りの到着時刻を計算します。

ピトー管のイメージ画像

重大事故につながるピトー管のトラブル:閉塞と誤情報のリスク

ピトー管は、航空機の安全システムの中でも極めて信頼性の高い装置ですが、ひとたび故障したり閉塞したりすると、非常に深刻な事態を引き起こす可能性があります。過去には、ピトー管のトラブルが主要な要因となり、多くの人命が失われる重大事故が発生しています。

ピトー管閉塞の主な原因

ピトー管の閉塞は、その物理的な構造上、避けて通れないリスクです。主な閉塞原因は以下の通りです。

1. 凍結による閉塞:

最も一般的なのが、飛行中の着氷による閉塞です。特に、ピトーヒートが作動していない場合、またはヒーターの性能を超える激しい着氷条件に遭遇した場合に発生します。全圧孔が塞がれると、速度計の機能は停止します。

2. 異物の混入:

地上で駐機中に、昆虫(特にスズメバチなど)が管内に巣を作ったり、ゴミが入ったりすることがあります。このリスクを防ぐため、整備や運航の現場では、駐機中にピトー管に保護カバー(ピトー・カバー)を装着することが義務付けられています。

3. 整備不良:

整備作業中にピトー管カバーを外した後、離陸前にそのカバーを外し忘れるという人為的なミスも、過去の事故調査で報告されています。カバーが装着されたままでは、全圧がゼロになり、速度計は正確な情報を表示できません。

事故事例:エールフランス447便の教訓

ピトー管のトラブルが世界に大きな衝撃を与えたのが、2009年に発生したエールフランス447便の墜落事故です。この事故では、

1. 激しい雷雨の中での着氷: 機体が熱帯性暴風雨の中を飛行中、ピトー管が着氷し、一時的に速度情報が途絶しました。

2. 速度情報の喪失と混乱: パイロットは、速度情報が「信頼できない(Unreliable Airspeed)」状態になったことに気づきますが、この状況での適切な対処法(非常時手順)を実行できませんでした。

3. パイロットの誤操作: 速度を失うことへの恐怖から、パイロットは機首を上げすぎるという誤った操作を繰り返し、最終的に機体を**失速状態**に陥らせ、墜落に至りました。

この事故は、ピトー管の着氷耐性の向上だけでなく、速度情報喪失時の「非常時手順」の訓練がいかに重要であるかを、航空業界全体に再認識させるきっかけとなりました。現在、多くの航空機で、より着氷に強い最新型のピトー管への交換が進められています。

ピトー管の厳格な管理体制:メンテナンスと導入事例

航空機の安全は、ピトー管の計測精度にかかっていると言っても過言ではありません。そのため、ピトー管を含むエア・データ・システムは、極めて厳格な管理とメンテナンス体制の下で運用されています。

定期的な校正と点検

航空機の整備(C-チェック、D-チェックなどの定期検査)において、ピトー静圧システムの**校正(キャリブレーション)**は必須項目です。

  • ADTSによる検査: 整備士は、専用の計測器であるエア・データ・テスト・セット(ADTS)をピトー管と静圧孔に接続します。
  • 圧力注入と精度確認: ADTSを使って、正確な既知の圧力をシステムに注入し、その圧力がコックピットの速度計、高度計、垂直速度計に正確に表示されるかを確認します。
  • リークチェック: 配管(エア・ライン)に圧力の漏れ(リーク)がないかを確認します。わずかなリークでも速度や高度の計測に大きな誤差を生じさせるため、非常に厳格な基準で検査されます。

導入・採用の企業事例

ピトー管とその関連システムは、世界中の航空機メーカー、部品メーカー、そして運航する航空会社によって支えられています。

メーカーとサプライヤーの事例

  • UTC Aerospace Systems(Collins Aerospace): 航空宇宙産業におけるセンサー技術の最大手であり、ボーイングやエアバスなどの主要な商用機に対して、高性能なピトー静圧システムを供給しています。特にエールフランスの事故後、同社の新型センサー技術は信頼性向上に貢献しています。
  • 国内外の主要航空会社(JAL、ANAなど): 日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)をはじめとする全ての航空会社は、運航する全ての機材にピトー管システムを導入しています。これらの会社は、整備規定に基づき、メーカー推奨の交換サイクルや校正スケジュールを厳格に守り、安全性維持に努めています。また、特に冬季の運航においては、ピトーヒートの作動チェックや着氷に関するブリーフィングを徹底しています。

運航上の管理:ピトー・カバーの徹底

地上での異物混入を防ぐため、駐機中の機体には必ずピトー管に**保護カバー(ピトー・カバー)**が装着されます。このカバーは通常、目立つ赤い色をしており、離陸前の最終チェックリストでパイロットや整備士が「カバー除去」を確認します。この小さなカバーの管理が、安全運航を支える重要なルーティンの一部となっています。

ピトー管技術の進化と未来:デジタル化と次世代センサーへの展望

アンリ・ピトーが原理を発見してから250年以上が経過しましたが、ピトー管システムは現代のデジタル技術と融合し、進化を続けています。今後の焦点は、物理的な閉塞リスクからの脱却と、さらなる高精度化です。

ADC(エア・データ・コンピューター)によるデジタル処理の高度化

現代の航空機では、ピトー管は単なる「管」ではなく、高精度な圧力センサー(トランスデューサー)とセットになったデジタルシステムの一部です。

  • 多重冗長化: 複数のピトー管からの入力(大型機では3系統以上)をADCでリアルタイムに比較し、一つのセンサーに異常(閉塞など)が発生した場合、瞬時にその系統を切り離し、残りの信頼できる情報源からのデータに切り替えるシステムが組み込まれています。
  • ソフトウェア補正: 圧力データに含まれるわずかな誤差や、機体の特定の飛行条件(高迎え角など)で生じる空気の流れの乱れを、ソフトウェアが複雑なアルゴリズムで補正し、より正確な速度情報を提供します。

次世代の非接触型速度計

ピトー管が抱える最大の課題である「閉塞リスク」を根本から解決する技術として、非接触型の速度計測技術の開発が世界的に進められています。

レーザー・エア・データ・システム(LADS)

この技術は、機体の前方に向かって**レーザー光**を照射し、空気中の微細な粒子や分子から反射してくる光の**ドップラー効果**(波長のズレ)を測定することで、空気の流れの速度を直接計測するものです。これにより、物理的な穴(孔)を持たずに真対気速度を極めて高い精度で計測できる可能性があり、着氷や異物混入による閉塞リスクがゼロになります。

光ファイバーセンサーとスマートセンサー

ピトー管の内部に光ファイバー製のセンサーを組み込み、圧力による微細な光の特性変化を検出することで、従来の圧力センサーよりも応答速度が速く、電磁ノイズの影響を受けにくいシステムも研究されています。将来的には、これらの「スマートセンサー」が主流となり、ピトー管の信頼性はさらに向上する見込みです。

まとめ:ピトー管は航空機の「命」を支える技術です

本記事では、「ピトー管とは」という疑問に対し、その基本的な原理、構造、そして航空機の安全運航における決定的な役割について、詳細に解説しました。

ピトー管は、そのシンプルな外観とは裏腹に、ベルヌーイの定理という流体力学の根幹に基づき、パイロットが安全に機体を制御するための最重要情報である「対気速度」を提供しています。凍結防止のピトーヒート、複数のシステムによる冗長性、そして厳格なメンテナンス体制によって、その信頼性は担保されています。

ピトー管のトラブルは過去に重大な事故を引き起こしましたが、その教訓が現代の技術革新を促し、より安全で信頼性の高い次世代センサーへと進化を続けています。今後、空港で航空機を見かける際には、機体の小さな棒状のセンサー、ピトー管に思いを馳せていただければ幸いです。

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